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冥府の先まで 〜記憶喪失なんだけど、闇も執着も底が見えない男に捕まった〜  作者: アマヤドリ


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35/40

3-④

劇の内容が語られます。

物語の核になっていくので、今までこの話を読んだ事がない人は、かなり重要なネタバレになると思いますので、ご注意を!



赤い天幕の裾を係の者が上げ、2人は中へと入っていく。以外にも客は多く、席となっている階段はほとんど埋まっていた。


「あ、あそこが空いてますよ。シルドさん、行きましょう!」

後ろの方の空いている席をレリアが見つけ、移動して腰掛ける。



----「暴君、バルサールは美の女神、ナヴィアータを従えている。」


「真の国王、このままでは国も民も疲弊するばかり。」

「飢え死にする者も増えている。どうか、どうかお助けを!」


観てみると、丁度、正統な王の元に、民達が助けを求めてやってくる姿を演じている所だった。

確か島にいた頃の、古城にまつわる歴史の絵本...フィリア王国建国の際の、女神と王の物語であるのを、レリアは思い出す。


「私もこれ以上、彼らの暴政を許すことは出来ない。」

「共に戦ってくれるか、我らが勇者」

「勿論!」

灰色の髪をした女性の演者が、剣を掲げて、王の隣に立つ。


「神が神の蛮行を見逃し、罰せぬと言うならば、人の手で神を罰するまで。」

「皆の者、恐るるに足らず!世紀の神殺しを見届けるのだ!」


女神と聞いて優しい感じを勝手に抱いていたが、劇を観ていると、戦乙女の様に勇ましいイメージへと変わった。

(絵本はやっぱり子ども向けだったのか...。)

絵本で読んだ時の印象が、ガラガラ崩れていく音がした。


というか、銀色の髪をした美の女神...ナビなんちゃらの首を持って、「討ち取ったぞ」「おー!」と、劇中に掲げていた。


普通に怖い。



だが、その首も話し出す。

一体どういう仕掛けなのか...。

これが史実だとするなら、もはや怖さしかない。



「私の力は永遠。」

「我(美しさ)を敬う者がいる限り、私も永遠。」


「美こそ、人を、世を、動かすのだ。」


「祝福を与えられし眷属よ。」







----「  我(美しさ)を忘れるな。  」




突然、耳元で凍える様な声がした。

レリアは、ばっと後ろを振り返る。




(...?)

「レリア、どうかしましたか?」

後ろを見る彼女に、シルドが声を掛ける。


「...いえ、何でもないです。」


耳に残る響きに違和感を覚えるも、レリアは気のせいだと、前に向き直した。



慌てて目線を舞台に移すと、次の場面が始まっていた。どうやら、花や旗が掲げられ、真の王の帰還と戦勝式を始めようとしていた。



「万歳!真の国王が帰ってきた!」

「勇者様!」「勇者様!」


立派な冠を被った王役が、跪く女勇者へと剣を向ける。


「勇者よ、これからも我が国の守護神となってくれるか。」

「ええ、勿論。」

真剣な眼差しで彼を見ている。

舞台には役者が沢山いるのに、皆、王と勇者に釘付けだった。


「ならば受け取るがいい、これが其方と我を繋ぐ絆だ。」


両手で白い剣を勇者が受け取り、突如、彼女の胸が光輝く。どうやら、神になったという演出らしい。



そして、歓喜の紙吹雪が舞う中、舞台が終わった。




------------ー------




見終わった2人は、人通りの多い通りを歩きながら、先程の劇について語り合っていた。


「観た感想はどうでしたか?」

「前に絵本で、守護神の女神様については聞いていましたが...こんなに勇ましい方だったとは思いませんでした。」

「まあ、革命のお話ですから。それに、女神も劇となると、今回の様に勇ましい時もありますし、悩み、苦しむ姿を描く時があります。」

「成る程...。」

本当の女神様って、どんな方か気になりますねと、レリアが言う。




「...その時の...本当の彼女の気持ちを、実の所、誰も知らなかったのかもしれないですね。」


シルドは遠くの景色を見ながら、答えた。



少し寂し気に聞こえたものの、どうしましたか?と此方を見る彼の姿に変わりは無かったため、勘違いかとレリアは結論付ける。




「...そういえば、疑問に思ったのですが、女神様って、名前ないんですか?」

みなさん、守護神やら女神様って呼んでるので、気になってとレリアは言う。


「ない訳ではないです。明かされていないだけですよ。」

「???」

よく分からないと、レリアは首を傾げる。


「神は神名を持ち、名前そのものに力があります。」

「その為、他の神や人々に自身の神名が知られると、命を握られたと同義になります。」


「ですので、名前が世に知られている神は、既に亡くなっているか、敗戦して名前を晒されたかの大体2択です。」

「わお...。」

なんてシビアな世界なんだと、神々へ勝手に同情する。


「ん?という事は、守護神は亡くなってないし、一度も負けた事がないって事ですか?」

「まあ、解釈は色々ですが。」

ふふふとシルドが笑いながら言っていたが、何処に笑う要素があったのかと、不思議に眺める。


「なるほど...。他にも人や他の神様に名前が知られていない神様っているんですか?」


「ええ、いますよ。」

「へー。」

どんな神様なんだろうと、話の続きを待つと、シルドの目が急に細まった。


「...知りたいですか?」

「え、なんですか、その雰囲気。」



「ふふふ。」



「怖っ!なんですか?急に笑い出して。」


既に知る気が失せてしまったが、まあ何処かで分かるだろうと、レリアは楽観的に考えながらシルドと共に、港町の中心へと向かっていった。







---2神しかいませんよ。


そんな声は、石畳を走る馬車の車輪の音で、掻き消えていった。

真実もあり、偽りもありの劇が終わりました。


2神って、誰と誰かなー笑

少しずつ、レリアに魔の手が忍び寄ってきます。

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