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冥府の先まで 〜記憶喪失なんだけど、闇も執着も底が見えない男に捕まった〜  作者: アマヤドリ


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33/40

3ー②

船旅の話は、これでおしまいです。



ーーーー船旅2日目


レリアはシルドとのカードゲームを終えた頃、船長が主人シルドと話したいとの事で、1人甲板に出ていた。船の縁の辺りに手をついて、ぼーっと外を眺めるも、変わらない霧の景色に、飽き始めていた。



船は順調に進んでいるのか、偶に船員の声がするくらいで、周りの変化もない。


シルドさんの話では、このままいけばあと数刻で港に着くらしいとの事。その間は基本的に、客室で寛いだり、甲板に出たりして過ごす様に伝えられた。


一応、護衛...?の代わりに、今もシルドさんお手製の火の玉が、肩の近くをふよふよと浮いている。

周りの船員は余り驚いていなかったので、どうやら、彼の祝福を知っているらしい。



それよりも、自分の方に視線が突き刺さっていた。

(また後ろの方で話してるな…。)


こちらをチラチラと見ながら、船員同士で話している。

暇すぎて聞き耳を立てていると、彼らの私に関する事が聞こえてきた。




(やっぱり、そうだって。)

(本当なのか?)

(お前だって、見ただろう?)



(あの色、それに濃さ…間違いないって!)



ーーーー色...?濃さ…??

一体なんの事だろうと、自分をちょっと見てみる。


服は上が黒と白で、下は緑...。

(髪は紺で他の船員さんにも、同じ人がいたし…。)

何か変な組み合わせでもあったかと、首を傾げる。



「まったく…。」

横の方から船長さんの声がして、そちらに視線を移すと、頭を抱える船長さんと、不自然な程に笑顔なシルドさんがいた。


(話でなんかあったのかな…?)

2人の様子から、まだ話していたため、レリアは終わってから行こうと見守る。





ーーーーーーこの時の2人の会話…シルドの不機嫌な理由は、彼らにあった。


「...。約束はどうしたのでしょうね。」

口元は笑っているが、目が完全に座っていた。


「はあ。...俺の監督不足だ。すまない主人。」

あれ程言ったのにと、船長はため息をついて、もう一度、シルドに謝罪した。


「いえ、人というのは、そういう事がお好きですから。貴方の教育にも、限界があるのでしょう。多少は目を瞑っていますが…。」



俺たち不味いかもと、会話を聞いていた船員3人組が肩を震わせながら、身を寄せ合う。


「私が教育をしても?」

シルドが3人組を一瞥する。


「ほどほどにしていただけると、助かります。」


「...でないと、幽霊船の噂が更に広がりかねないので。」

船員の安全ではなく、船の火事を防ぐために船長は舵をきった。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「お客さん、お菓子がありますので、客室へどうぞ。」

何やら話しが終わったのか、船長がレリアに向けて声を掛ける。


「シルドさんは?いいのですか?」

やったと嬉しがるも、甘いものが好きな彼がその場に残っていたため、レリアは尋ねた。


「はい。少しやるべき事が出来たため、レリアは先に行って下さい。」


(やっぱり、なんか深刻そうだったから、何かあったのかな?)


私がいたらお邪魔かもと、レリアは「ではお先に!」と客室へと戻っていった。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





彼女が客室へと消えた後...。


「教育」が幕を上げた。




「海の神の祝福を持つ皆さん。」


「彼女の何が、あなた方の興味を駆り立てるのでしょうか。」


真っ赤な目をした怪物が、黒炎を吹き上げながら、怒りを隠そうとせずに、牙を向く。


彼女を見て、何かに気付いて話していた若い3人の船員が、文字通り、炎で締め上げられていた。


心なしか、霧だけではない、闇が船の周辺を包み込む。



その様子はまさに、甲板に海の魔物、クラーケンが襲ってきたかの様だった。

周りでただ成り行きを見ている船員達は、恐れ慄き、


「詮索しない...。まぁ、とはいえ「見えて」しまいますから、気にはなりますよね。」

ほの暗い赤い瞳で、彼らを見つめる。


「...ですが、彼女の耳に入ったのは、いただけません。約束は約束けいやく。」


言い終わると、彼らの拘束を解く。

3人共、恐怖で顔を上げられず、甲板にうつ伏せになっていた。


「今後は例え何か「 見えた 」としても、胸の内に秘めて下さいね。」


シルドは、次はないと釘を刺し、感情の昂っていた赤々と光る目を、穏やかな蒼い目に戻した。



「お前たち、主人の契約は絶対だ。次に破ったら俺が海に放り込んでやる。...分かったなら、仕事に戻れ!!」

「は、はい!!」

船長の怒鳴り声に、3人は蜘蛛の子を散らす様に、慌てふためきながら、仕事に戻っていった。



「…私が言うのも何ですが、貴方は「人」の中でも、随分と肝が据わってらっしゃいますよね。」

私の様子を見ても、貴方だけは初めから怖がっていませんでしたからと、シルドは彼に話す。


「そうでなきゃ、海の男は務まりませんので。」

客人…ましてや主人を怖がっては、仕事にならんでしょうと言う。


「...流石ですね。」

----海の神に一等愛された者は違いますね。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



暫くレリアは、一人で菓子を楽しんでいると、シルドが戻ってきた。



「レリア、もうそろそろで、港に着くそうです。霧も晴れるので、良かったら甲板に行きませんか?」

「行きます!...あ、話はもう済んだのですか?」

「はい。気を使わせてしまいましたね。」

シルドが申し訳なさそうに、レリアをみる。


「いえ、随分と堪能させていただきましたから。」

レリアは言い終わると立ち上がり、扉近くにいるシルドの元へ行く。



一緒に甲板へ出ると、日差しが降り注いでいた。

(久しぶりの太陽!)

気持ちがいいと、レリアは伸びをしながら暖かさを全身で感じる。


霧がようやくなくなり、遠くに陸の影が見えはじめていた。


「ほら、見えてきましたよ。」



----あれが、ウォーレムス帝国です。



旅の最初の目的地が、朝日の中、姿を現したのだった。


次はいよいよ、帝国についてからのお話しになります

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