2ー11
いよいよ、2章の最後のお話です。
今まで謎にしていた「彼」がちょっとだけ出てきます。
ーーーついに約束の3か月、渡し守が来る日になった。
「あ、荷物の中に入れるの忘れた!!」
朝早く廊下を歩いていたレリアは、ばたばたと慌てて部屋へと出戻る。
扉を開けて目当ての物…手拭きのタオルを、急いで鞄に詰めた。
「よし、もうこれで大丈夫。」
そう言いながら、荷物を手に部屋を見渡す。
(この部屋にも、随分と愛着が湧いたなぁ。)
前の持ち主の物を、初めの1か月ぐらいは借りていたが、3か月近くなると自分の持ち物も部屋に増え、一気に生活感が増した。
ふと、壁にかかっている灰色の髪の少女の絵が、目にとまる。
記憶を取り戻すきっかけの1つになった、あの「絵」が飾られていた。
(…。モリアス。)
貴方に会えるといいなと思いながら、鞄をよいしょと持ち直す。
「いってきます。」
レリアはそう言うと、静かに扉を閉め、3か月過ごした部屋を後にした。
扉のばたんと閉じた音の後、壁にもたれかかるようにして、絵の近くの壁に背の高い、男性の霊が現れた。
ーーーーーー「 いってこい。待ってる。 」
その声はレリアには届かず、ただ部屋の中に溶けていった。
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「シルドさん、お待たせしました。」
小さな必要最低限の物が入った鞄を手に、メインホールへとレリアが走ってきた。
「遅れてしまいましたか?」
少し息を切らして、レリアが尋ねる。
「いえ、時間には間に合っていますよ。
それに、私も先ほど来たばかりですから。」
全身黒ずくめな服で覆われた彼が、自分の方へと振り返る。
いつもとほぼ同じ服装だが、外套が厚めの生地で、縁取りに刺繍が施されていた。
レリアは彼に近づいていくと、更にいつもと違う部分に気が付いた。
「あれ、シルドさん、髪の毛…。」
なぜか黒っぽかった髪が、灰色に染められている。
「ああ、これですか?街へ直接行く際は、こうしているんです。黒い髪は珍しいものでして、あまり注目は浴びたくないんです。」
レリアの視線に気が付いたのか、シルドが答える。
「そうなんですか…。」
(眉目秀麗な人は、どんな色でも引き立つのが羨ましい)
艶のある綺麗な黒髪なのに、勿体ないなと思うが、灰色みがかったその髪も、服との対比になってて素敵だな…と、そんな事を考えていると、シルドのベルト辺りで覚えのあるものを見付けた。
「あ、これ付けてくれたんですか!」
シルドの腰に下げられていた様々な装飾品の中に、自分が作った、手製のシルバーアクセサリーがつけられていた。
「ええ、早速つけてみたのですが...。」
「どうでしょう?似合うと思いませんか?」
銀細工が見えやすい様、腰回りの外套をシルドは手で持ち上げ、レリアに見せる。
「自分で言うのもなんですが、シルドさんって、銀の装飾似合うと思います。」
ベルトにぶら下がっている様々な装飾を、レリアはじっと見て、素直に感想を伝える。
(色々あるけど、どれも綺麗に磨かれてるし、中には宝石っぽいのとか、意匠がすごい細かいのもある。)
腰に巻かれた鎖もやっぱり気になるが、なんで巻いてますか…とは聞けないな…と思っていた。
「…気になるのですか?」
そんな彼女の姿に、思い立ったが吉日と言わんばかりに、レリアの方に身体を傾ける。
そして、シルドは素早く片手を彼女の後ろに回し、自分に寄せた。
「ちょっ、シルドさん!!!」
「さぁ、遠慮なさらずに。」
どうぞ触れてもいいのですよと、腰に回された手が更に力を込めて、互いの距離が思いっきり近づいてしまう。
(きゃああああああ!!)
身体がつきそうになり、思わず手で彼を押そうとするも、びくともしない。
顔を上げると、シルドの目が、面白いと言わんばかりに笑っている。
「ちょっと、シルドさん!ほら、皆さんも待ってますよ!」
(は、恥ずかしい...!)
メインホールでは、いつも城を共に過ごしていた幽霊達が、次々と見送りのために集まっていた。
そして、自分たちの様子を見ながら、温かく見守っているのに気付き、レリアは顔を赤くする。
「ううう!もう、離して下さいー!」
「ふふふ。はい、すみませんでした。」
耐えきれなくなり、ついに爆発した様子の彼女を見て、恥じる様子もなく、むしろ楽し気にシルドは手を離した。
(もしや、旅の間も...)
悪戯の標的にされるのではという、レリアの懸念は、残念ながら当たる事を、まだ彼女は知らなかった。
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「では、そろそろ行きましょう。」
懐中時計を手にしたシルドが、レリアに伝える。
時間になり、見送りの幽霊が集まったのか、ジゼルが前に出て、彼女に手紙を渡してきた。
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おかえりを おまちしています
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「…ありがとうございます。」
皆の優しい心遣いに、心が温かな気持ちになる。
(記憶がない自分でも、おかえりって言ってもらえる場所があるのって、贅沢なことだよね。)
「…いない間、留守は任せましたよ。私の代わりの者が後から来ますが、何かあればすぐに戻ります。ではレリア、行きましょう。」
「はい!」
「いってきます!」
自身が目覚めてから、丁度3か月。
彼女にとって慣れ親しんだ、霧に包まれる古城を後にした。
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次章は国々を巡る…といっても3か国ぐらいです。
記憶を思い出す旅の中、彼と彼女の関係が揺れ動いていきます。
ちなみにアクセサリーのお話は、1つ前にあります。
気になる方はどうぞ読んでください。




