想いを込めて
レリアからシルドへ、3か月の感謝を込めて、プレゼントを渡すお話です。
珍しく、シルドからの視点で書かれています。
ーーーーレリアと共に外へと行く約束をして…その前日の事。
外回りから帰ってきたシルドは、レリアの元へ行こうとしていた。
(…。今日は、彼方此方に行っていましたね。)
朝は調理場で籠っていたようですが…と考えを巡らせる。
彼女の行動範囲が、今日は異様に広く、何やら城にいる幽霊達に何かを渡しているのは見えてはいた。
気になっていたため、訳を聞いてみようと思っていたのだ。
ーーーレリアの事となると、些か…いや大分冷静になれないのを、当事者は自覚していなかった。
(今は…おや、こちらにいましたか。)
手にある黒火を、握りしめて消す。
彼女が何処にいるのか、直ぐに分かった足取りで、すたすたと目的の場所まで行った。
「ふーー。」
開けっ放しになっている来賓の休憩室で、ジゼルと共に休んでいるのを見付けた。
「あ、シルドさん!帰ってきたんですね!」
自分の姿を見付けると、大き目のソファで背中を預けていたレリアが、ぱっと跳ね起きる。
「ただいまもどりました。それより、レリア。」
「?」
「…先ほどから、一体何をしていたのですか?」
「先ほど…あ、これの事ですね。」
そう言うと、机の上のかごを彼女が見せてきた。
どうやら麻のような袋に包まれていたが、香ばしい香りに、菓子であるというのが分かった。
今日、朝早くから朝食とは別に作っていたが、これだったのかと眺める。
「この3か月、皆さんに沢山お世話になったので…。」
お菓子を配っていましたと言いながら、レリアは両手を後ろに立ち上がり、シルドの方へと向かう。
「シルドさんにも、お菓子はあるんですが…。」
何やら少し照れた様子で、自分の前に立つ。
ジゼルは、レリアが動くのと同時にさっと消えていったが、何やら…含み笑いを隠せていなかった。
(…どういう事でしょう。)
何かあるなと考えながら、彼女の話しの続きを聞く。
「とくに、色々と大変お世話になりましたから…。」
レリアは後ろにあった手を前に出し、シルドはレリアの小さな手にある「それ」を見つめた。
「どうぞ。」
ジゼルさんやクルルさん達と一緒に考えましたという、レリアの声と共に、彼の方へと差し出される。
青い小さな箱には、白いリボンが付いており、一目で贈り物だと分かる代物だった。
「…これを私に?」
「そうです。受け取って下さいますか?」
彼女の、貰ってくれるかなという期待が込められた視線を、一心に浴びる。
「…!えぇ、勿論です。ありがとうございます。」
(…あぁ、なんて嬉しいんでしょう!)
顔は微笑んでいるが、内心は踊り狂うほど喜んでいた。
「此処で開けても?」
箱を受け取り、せっかくならと彼女に尋ねる。
「はい!いいですよ。」
彼女の許可を得て、シルドは遠慮なくリボンを摘む。
はらりと解け、上蓋をそっと開けると、中には細めのチェーンで繋がっている、銀色の鈍い色を放つものが入っていた。
指先でゆっくりとつまみ上げ、眼前に持っていく。
「銀の装飾品がお好きなのかな?って思って。銀の粉末と粘土をこねて作った、アクセサリーです。」
よく見ると、三日月の下の方に花がついており、花の中心には、黒い石が埋め込まれていた。
「素敵ですね。このデザインは…月と花ですか?」
「良かった…。ちょっと曲がっちゃったので、分からなかったらどうしようと思ってました。」
「実は、訓練場にいるアッシュという方が、趣味でこういう物を作っているのを聞いて、クルルさんやジゼルさんと一緒にデザインを考えて作りました!」
喜んでもらえて嬉しいと、彼女の表情が物語っていた。
「とても気に入りました。ありがとうございます。レリア。」
「…大事にしますね。」
礼を言うと、レリアの顔は更に笑顔が綻んだ。
その笑みを、いつまでも見ていたいと惜しみつつ、シルドは手のひらの物を、大切そうに胸に抱き留めた。
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ーーーその夜の事。
彼女と別れた後、男ーーシルドは庭園に来ていた。
庭園には、三日月の月が輝き、その光を浴びて青白く光る花々が、シルドを淡く照らしていた。
「…これらの装飾具は、全て仕事道具なんですがねぇ。まさか、趣味と思われていたとは。」
腰に下がる装具に触れながら、嫌いではないですけれどと、言葉と付け加えながら、男は、彼女の勘違いをくすくす笑う。
「まさか、月とこの花を模るなんて。…きっと今の貴方は、意味は分からないとは思いますが。無意識に選んだとはいえ、嬉しいものですね。」
下に咲く花々を見ながら呟く。
そして、ふと、何か思い出したかのように、上を見上げた。
「通りで…「彼」が見るのを邪魔してくるわけですね。」
ーーー実は、彼女が訓練場のある一室に行くたびに、自身の目が届かなかったのだ。
黒炎の前に幽霊が立ったり、黒炎がない部屋で何やら作業しているのは、シルドも知っていた。
不審に思い、訳を問いただそうと行こうとした際、「野暮な事はよせ。そのうち分かるから。」と「彼」に言われ、渋々見なかったのだ。
「確かに、知るのは「野暮」…。ふふ、こういう素敵な驚きはいいですね。少しは「彼」に感謝しましょう。」
そして、右手をそっと開き、手にある贈り物を、喜びに満ちた夜空に光る瑠璃の瞳で眺める。
「意味のあるこれらより、何の力も宿さない、彼女からの贈り物の方が、一層輝いて見えます。」
「ベルトに下げていれば、きっと彼女は、喜ぶでしょうね。」
彼女と過ごす月日を、きっと「この子」は記憶してくれるはずと、心を躍らせる。
「ぁあ、ですが、付けていて壊れでもしたらと思うと...。」
銀細工をじっと見つめて、ふむと指を顎に当てて逡巡する。
長考した後、男は答えを出した。
「やはり、かけておいた方がいいですかね。「あの」祝福は、あまり使いたくはないのですが…。便利な道具として割り切りましょう。」
「過ごした日々の傷つきも、それはそれで愛おしいのですが、壊れたら流石に私が落ち込みそうなもので。」
そう言うと、銀細工の上に手を置き、覆い隠した。
白い光が、細工物に纏わりつき、やがて、手の隙間から漏れていた強い輝きが、小さくなっていく。
「…これで余程の事がない限り、壊れたりはしないでしょう。」
祝福を掛け終わったのか、満足げに窓から零れる月明かりに翳した。
時折月光が、細工に艶のある銀の光をもたらす。
「…ふふふ。これで、常に貴方の気持ちを感じられますね。」
男は貰った銀細工を手に持ちながら、まだ赤く残る瞳を歪ませ、恍惚とした笑みを湛えていた。
ひとしきり眺めると、男は腰のベルトの一番前に下げ、そっと撫でながら、目を閉じる。
今度は、紫と黒が入り混じったような光が、銀細工の上を指先から滑るように撫で落ちていった。
(何色の石が良いですかねぇ…。)
貴方が選んでくれるなら、どんなものでも構いません。
私のために悩んでくれたという時間が、愛おしいです。
(…あれ?上手く形にならない…。)
たとえ、歪だろうと、欠片になってしまったとしても、貴方が作ったモノなら、一欠けらも余すことなく愛し、慈しむ自信がありますよ。
(出来た!…シルドさん気に入ってくれるかな?)
ええ勿論。
とても気に入りましたよ。
細工から手を離し、満足気に鮮やかな赤い瞳を開けて、外に映る月を眺める。
ーーー「これからは、素敵な記憶(思い出)を、私と共に、作っていきましょうね。」
自分で書いといてなんですが、やばいなこいつって思います。
でもそれがいい!!って、後ろでばたばたしている人がいます。




