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冥府の先まで 〜記憶喪失なんだけど、闇も執着も底が見えない男に捕まった〜  作者: アマヤドリ


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ある男の大変な出張話①

彼がいない間、島はどうしてるの…?という疑問にお答えした短編です。






ーーーーーー「おい、呼ばれたぞ。」


気持ちよく、仮眠室で寝ていた男は、相棒のバンバンと毛布を叩く音で、仕方なく、のそのそと起き上がった。




「ふぁ…。何処に?誰に?色々抜けて分からん。」

起き抜けの頭をごしごしと掻いて、欠伸をしながら訪ねる。


「本部だよ。本部。」

相棒のトムが答えながら、自分の分の外套も渡してきた。

どうやら、急ぎで呼ばれたらしい。


「誰かは俺も知らない。内容もな。とりあえず行くぞ。」


「へーい。」

ぼさぼさの頭を、手櫛で少し直して、渡された外套を手にする。

そして、いそいそと羽織り、2人は仮眠室のある支部から外に出た。


「…まぶし…。」

夜勤明けの目に、日差しが痛く突き刺さる。

まだ日は高く、周りの家々や人々を照り付けていた。



「おい、スティーブ!置いてくぞ!」

「はいはい。」

陽にやられて立ち止まる自分に、トムが声を掛ける。



もう少し寝たかったなと思いながら、重い足取りで本部へと向かうのだった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「...使徒様だ。」「黒の使徒様!」

「真剣な眼差し...何かあったのかしら。」


本部へ向かう道すがら、たまにすれ違う人が、そんな事を言っているが、単に眠いだけですと、心の中で呟く。



俺ら、通称「黒の使徒」は、国家公務員で、給料もいい。

仕事は夜勤もあるが、毎日じゃないし、休みだってしっかりある。

それに、神々の中で1番力が強いと言われる神に仕えているという、子どもから大人まで、憧れの職業...らしいが、俺は違う。




この職業に就く俺ら全員には、ある共通点がある。

それは、冥炎の神から、祝福をもらっているという事。

だから、黒の使徒なんて言われている。

ちなみに、黒は外套の色からとっているのだが、どうやら、神の好んで着ている服の色が、黒なんだとか。


だから...

知り合いに、緑の使徒...大地の神から祝福を貰っている友人が羨ましい。

夜はいいとして、昼間は日差しに焼かれる。フツーに暑い。



祝福がどんなものかは、人それぞれだが、俺の場合は、死んだ人の魂を、冥界へ向かう道標を作ってあげる事。特に迷子になりやすい、子どもや老人が相手だ。

隣で歩く相棒は、亡くなった人の言葉が分かる。



勿論、亡くなった人が、俺たちには幽霊みたいに見えている。

はじめ…小さな頃、見えた時は呪われたかと思ったが、それを知った両親がめちゃめちゃ喜んでいたため、一家全員呪われたと子どもながらに考えてしまった。まさか「祝福」だったとはな…。


この仕事をはじめてもう6年。

色々と慣れてきたが、未だ俺は悪霊に会った事がない。

一度会った先輩が、地面の下から突然鎖が出てきて、悪霊を縛り上げると、底なし沼の様に沈んでいったのを見たそうだ。



誰がやったのかは、明白だろう。

(こえー。)



「ぼーっとするなよ、行くぞ。」

「分かった分かった。」



あれこれ考えているうちに、本部の前に来ていた。

黒い扉(また黒だよ)を開けて、俺らを呼んだのが誰か、受付に確認しにいく。

どうやら、本部のトップが俺らを呼んだらしい。


「…重要な案件かもしれないな。」

「確かに。」


本部の上になんて、そうそう俺らは話すこともない。

一体どんな話があるんだと、興味と不安半分で2階へと上がっていった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「冥府の神が、この国に降りるそうだ。」

「昨日、神殿の神官から通達があった。」


本部長、デリックから教えられたことに、目ん玉がひん剥きそうになった。




「ま…ほ、本当ですか?」

まじかと言いそうになるが、その言葉はガンバって飲み込んだ。

正式な降神となると、数百年ぶりになる。

何より国の国神サマだ。本部の人たちの顔が強張っているのは、そのせいか。


…正式じゃないのは、知らないけど。

先輩に聞いた話では、数年ごとにお忍びできてるらしい。

その度に、使徒が神の代わりに冥府の島を管理するそうだが、まあ、まだ経験が浅い俺らには来ないなと頭の片隅で考えていた。


「国にも通達済みだ。」

「今回、降りる目的は?」

「国を巡り、人々の暮らしを見回るそうだ。」


自分の信仰されている国を回るのか…。

やっぱり自分がどう思われているのか、気になるのかな。


なんて思っていた時だった。



「…伴侶と来られるらしい。」


「は…?」「え…?」

ぽかんと口が思わず開いてしまったが、冥府の神に伴侶がいたなんて聞いたことない。




「伴侶…あのお方におられたのですか?」

ナイスな質問!と相棒を見る。


「…我々も国と神殿に確認をしたが、今日にいたるまで、知らなかった。」


「ま、え?誰も?知らなかったんですか?」

またも、まじかと言ってしまいそうな口に、我慢を強いる。


「あぁ。我々も真偽の程を確認したいのだが…。」

そう区切ると、本部長は重い口を開いた。



「市井に紛れて来られるそうで、住民に知らせないでほしいと神託された。だから、今回知っているのは国と神殿の上層部、そして我々だけだ。護衛や歓待はいらないとの事だったが…まあ、我々が護衛せずとも、必要はないだろう。だが、そうなると、伴侶に関しては遠くで見守る他ないな。此度は聞くチャンスはないだろう。」

と本部長が呟いていた。



…要するに、神託で言ってきたのは、伴侶との時間を(邪魔するな)って事だよな。

お忍びで来て、気付かれて邪魔されたら、嫌だってことだよな。


何日間、いや国を回るのなら、何週間か、かかるだろう。

じゃあ、その間は冥界を空けるのか。


(ん?……ま、まさか…!)



「そこでお前たちには、冥府の神が島に戻られるまでの間、冥府の管理を要請する。」

違ってくれと思うも、無常に告げられた。



「ま、まじか…。」



スティーブは、今度こそ、言葉を飲み込むことが出来なかった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




本部から出た後、2人とも無言だったが、ついに俺…スティーブが口を開いた。



「祝福って...神が休暇取るために、俺らに授けたのかな?」

「言うな...。」


「しかも、今回はデートするために。」

「言ってくれるな...。」



憧れの職業と言われているが、実態はこうだ。

だが、子ども達の夢は壊したくないから、周りには言わない。




(知ってるか…。神は傲慢なんだぜ…。)




仕方なく、相棒と肩を叩き合って慰め合いながら、俺たちは、神が住む島に向かう事になったのだった。

何篇かに分けて、使徒のお話を入れていきます。

多分、3章の合間に更新するかと。

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