2-⑨
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-----レリアが北の棟の部屋へと戻った後...
こんこんと、扉が叩かれる音がした。
「ジゼルが用意してくれた、温かい紅茶をお持ちしました。」
シルドの声が外から聞こえる。
「…。」
涙をごしごしと、服の袖で乱暴に拭い、
レリアは無言で扉を開けた。
「私が準備しますので、貴方は椅子でお待ちください。」
レリアはされるがまま、すとんと椅子に腰掛ける。
彼女は、気持ちの整理が追いついていない頭で、暫くティーポットの湯気を、ぼーっと見ていた。
「…無理をしていませんか?」
そんな彼女を見かねたのか、紅茶を準備してくれるシルドが、優し気に声を掛ける。
「...大丈夫です。」
椅子に座り込むレリアは、シルドの方を見ずに心にない「大丈夫」を言った。
「…。」
無言になり、沈黙が続いていく。
ちらりと彼を見ると、そんな事ないでしょう、と言いたげな目をしていた。
流石に無理があったかと、レリアは反省する。
「…ごめんなさい。嘘つきました。…全然、大丈夫じゃないです。」
(アリス...アリ...。せっかく思い出したのに。行ってしまうなんて。)
部屋へと戻った後、レリアはアリスとの記憶を振り返っていた。
まだぼんやりしている記憶だが、確かに彼女の言う通り、3度しか会ってはいない。それでも...最後に会った時、自分達は確かに友になったというのは、しっかりと思い出していた。
思い出したからこそ、突然の別れに胸が苦しいと叫んでいた。
(...友達だった時間は、とても短いけれど...。大切な彼女...モリアスも含めて、彼らの事を、どうして私は忘れてしまったのだろう。)
悔しい、辛い、何故、悲しい...。
仕方ない、なんて言葉では片付けられない。
酒のせいでだったら、なおの事自分に嫌気がさす。
忘れてしまうなんて、無責任にも程があるだろう。
沢山の言葉で、自分の事を卑下してしまいそうになった。
そんな大丈夫じゃないと吐き出した彼女の、少し泣いた後の目を見て、シルドは横から顔をそっと持ち上げた。
そして、指先を目元に添え、様々な感情で渦巻く瞳を見つめる。
「無理に泣き止まなくて、いいと思いますよ。」
「悲しみも痛みも涙を流すと、少し残った分が自分が受け止められる気持ちになると...受け売りではありますが。大丈夫でないのなら、大丈夫になるまで、幾夜かかろうと泣いて下さい。」
そう言うと、彼女の後ろに回った。
「私が、ずっと傍にいますから。」
レリアは、シルドに後ろから、椅子ごと強く抱きしめられる。
彼の冷たい服からは、温もりなど感じないけれど、シルドから聞こえる鼓動の音が、不思議と張り詰めていた糸を解いていくかの様に、レリアの心を溶かしていった。
いつもなら、恥ずかしいと言えるのに、今は、ただ自身の感情ごと包み込まれた感覚になる。
ほろり
ついに耐えきれなくなった彼女は、次々と涙を溢し、慟哭を上げはじめるのだった。
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------「お休みなさい。」
ふっと、部屋の灯りが風もないのに、一斉に消えた。
...あの後、泣き疲れて眠ってしまった彼女に、ゆっくりと起こさない様、男は毛布をかける。
「泣き虫なのは...確かに変わりませんね。」
ぎしりと、寝台の横に腰掛けた。
感情を吐露したお陰か、穏やかな寝息を立てて眠っているのが分かる。
「誰かを想うその涙が、私であればいいと何度思った事でしょう。」
寝台の傍に腰掛けた男が、その寝顔を見つめながら言った。
そして、骨張った大きな手を、彼女の頬の輪郭に添える。
「ですが、哀しみに 苦しみに寄り添えるのは、もうこの私だけ。貴方も、そう感じはじめているのでは?」
腕に抱いた彼女の温もりを思い出しながら、男は喉を鳴らして笑っていた。
その直後、扉の前に蒼白い亡霊が姿を現した。
男の隣に行き、彼女の様子を見守る。
「◾️◾️◾️。」
「...また、貴方ですか。無断でこちらに入るとは、いただけませんね。」
鋭く亡霊を一瞥し、再びその視線は彼女に戻った。
「◾️◾️◾️?」
「依存させる気...ですか。それも、素敵な響きですが...。」
男は目を伏せ、思い出を振り返りながら、亡霊へと語り始める。
「...約束しましたから。」
「ええ、彼女が嘆こうが...泣き叫ぼうが。」
「この私が 私だけが 永遠に 傍にいます。」
そして、眠りを妨げぬ様、静かに黒火を纏いながら、男も亡霊も、部屋から消え去っていった。
来年から、ムーンライトの方で違う作品を公開する予定です。




