アリスの追憶①
記憶に出てきた、彼女の話です。
彼は、最後の方にちゃんと出て来ます!
ーーーーー静寂が支配する島の一角
墓石の中で、ひたすら待ち続ける女性がいた。
「もう何年寝てたのかしら…。」
ひょこりと顔を出すも、前に寝た時とあまり変わらない光景に溜息をつく。
やはり寝ていようと戻ろうとした時だった。空が、少しだけ明るいのに気が付いた。
「…あら、今日は満月なのね。」
まるで、彼女の髪の毛みたいと、銀色に輝く月を見ながらアリスは思っていた。
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ーーーーウォーレムス帝国の城の花園
貴族の婦人方が、ガーデンパーティーをしており、紅茶を嗜んでいた。
「そこの貴方、新しい紅茶を、持ってきてちょうだい。」
可愛らしいティーセットを持ってきた使用人に、薄い黄色のドレスを身に纏った令嬢から声がかかる。
並べていると、自分の顔をじっとみているのに気付いた。
「これはこれは、フィルニール侯爵令嬢…やだわ、元侯爵令嬢でしたわね!」
「ほほほほほ!こちらの華やかな世界が恋しくて?」
「まあ、貴方も参加しておりましたの?存在が薄くて…失礼、気付かなくてすみませんでしたわ~。」
(あぁ…。)
気付かれるとこうだ。
本当は裏方に回りたいのに、女官長がわざと表仕事を任せてくる。
突然、足に仲か引っ掛かり、転んでしまう。
...いや、転ばされたが正しいだろう。
持っていたティーセットは、下に散らばっていき、慌てて一つ一つ拾っていく。
「あらあら、かつては紅の薔薇姫と讃えられた人が、転んでしまうなんて!」
ははははっ
はけ口にされているのには気付いているが、笑われてもどうする事も出来ない。
(ここにいる限り、私はずっと…。)
ーーーー私の家は有名な侯爵家だった。
だが、それは過去の話…。
父が賭博をし、負けに負けて方々の貴族へ借金がかさんだ事が全ての始まり。返せなくなり、後がなくなった父は…愛人と共に逃げてしまった。
残された長女の私は、まだ幼い弟を養わなくてはならず、給金の高い侍女の仕事に就き、給料のほとんどを借金を返すため、日夜働き続ける他なかった。
今日も、いつもと同じ日が続く。
そう思っていた時だった。
「失礼…。」
突然、ティーガーデンの庭園の出入り口から声がし、皆が振り向いた。
「は…?」
「?!」
「きゃあ!!」
思わず目がひん剥いてしまった。
現れた人物は、この城に似つかわしくないぐらい、鈍い銀色の完全武装の鎧に包まれていた。
腰には剣が下げられており、この庭園では、完全に浮いている。
(というより…怖い。)
皆が悲鳴を上げてしまうのも無理はない。
肌はおろか、顔さえ一切見えない。
「は、灰色鼠!!」
「え。」
(この方が、あの灰燼の騎士様…。)
灰色鼠は、この城の一部で言われている蔑称だ。
主に、ここの貴族派と呼ばれてる派閥から言われている。
この城では、同盟国の客人...神王の友人という事で、他国のお方でありながら、自由な出入りが許されているらしいが…。
「…淑女の皆様。」
(!)
「素晴らしい鳥の囀りが聞こえたもので、ここに立ち寄ったのですが、生憎迷子になってしまったものでして…。」
「どなたか、宰相の部屋までの道のりを、教えていただけませんか?」
男性だとばかり思っていたが、外見とは裏腹に、その声から(女性)である事が分かった。
「そ、それなら…この者が案内します。」
「ほら、立って!早く行きなさい!」
崩れ落ちていた自分を、無理やり立たせられる。
「は、はい…。」
(行くしかない…。)
アリスは、その鎧の人物を案内する事になったが、図らずも、令嬢達の陰湿な虐めから逃れる事が出来たのだった。
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荘厳な廊下を、がしゃんがしゃんと、音を立てながら、自身の後ろから騎士がついてくる。
周りの兵士や使用人がすれ違う度に、何事かと振り返っていくが、偶に「今日は甲冑か。」などと言われながら呟く者もいた。
送り先に近くなると、無言で後ろからついて来ていた騎士が声を掛けてきた。
「案内はいいよ。ここまでありがとう!」
突然、口調が変わって驚いてしまう。
固まっている私を見て、甲冑の頭が斜めに首を傾げた。
「…大丈夫だった?貴方、随分な目に合っていた様だけど。」
(もしかして、この方は…。)
自分を気遣う声かけに、あの場を見て、助けて下さったのかと気付く。
本当に...久しぶりに、優しさというのに触れた気がすると、深々と礼をする。
「いや、彼の真似をしてみただけなんだけど…。」
「一応、他国だし、派閥も色々だから、揉めない様にって釘刺されてるけど...余計なお世話じゃないなら、よかった。」
大体何?よってたかって...。
大の大人が恥ずかしいと思わないのかな。
と、甲冑の中からぶつぶつと呟きが漏れていた。
外見と内側にいる彼女が、あまりにも似合わなくて、思わずふふっと笑ってしまった。
「...とりあえず、元気になって良かった。事情はよく分からないけど、大変なら宰相の秘書に相談してみる事をおすすめするね!
彼、中立派で、立場的には貴方の同僚だから。」
そう言うと、自分の背後の方に手を振っていた。
どうやら、神王が来たようだ。
壁際により、お辞儀の姿勢を取って、彼らが去るのを待った。
「ここまで、ありがとうね!」
彼女はさようなら、と言いながら、再び大きな音を立てて去っていった。
「もう!急に呼び出さないでよ。しかも、鎧を着て来て下さいって何?私、これでも忙しいんだけど!」
「貴方の顔を、見られないための配慮です。」
「...どう言う配慮?全く持って意味不明...。」
「ふふふ。」
「いや、笑ってないで、理由を教えてよ。この前は仮面で今度は甲冑...お陰で、最近は仮面の下が醜い顔扱いで、同情か蔑みの2択なんですが。」
「良かったです。」
「どこら辺に、良かったの要素が...?」
彼らの言い合う姿は、宰相の部屋に入るまで続いていた。
(神王様と仲がよろしいって、本当だったのね。)
あの人が嫉妬されるのも、分からなくはないけれど...。
(お似合いの2人ね。)
アリスはそう思いながら視線を上げて、少しだけ元気が出た自分に喝を入れ直し、再び仕事へと戻っていった。
3話に分けて公開しますが、2.3は、別の時にします。




