2-⑦
読みに来てくれた方、ありがとうございます!
彼女の記憶に関する、手掛かりの行方が分かる回です。
最後は、大分彼が落ち着いておりませんが、基本この話の彼は情緒がジェットコースターですね。
外の日も落ち始めて、霧がより一層の闇を醸し出す。
蔵書が並ぶ部屋には、独り、ぱらぱらと本をめくる音が聞こえていた。
「後は…こんなものかな。」
本棚から貴族名簿や、パーティーの記録等、片っ端から集めて机に置き、レリアは蝋燭の灯りを寄せて前にある本を一冊広げた。
(量が量なので、時間がかかりそう。)
気合いと根性でやってみせる!
...と、元気があったのは最初だけだった。
この後、ただただ時間だけが過ぎていき、シルドが来るまで何も進展がないまま、レリアは苦痛の時間を過ごす羽目になる。
(ない...。没落、没落...ぼつらくぅ...。)
没落貴族を懸命に探しては名前を確認していくが、悉く覚えがない。
それに、マイナスな言葉を考え過ぎて、自分の気分まで下降気味になりかけ、顔を机に突っ伏していた時だった。
ーーーーー「なら、名簿ではなく、違う視点から探しましょうか。」
耳元で突然声がした。
「わああ!」
驚いて顔を上げると、真横にシルドさんがいた。
「もう!いつも、いつも…驚かさないで下さい!!!」
「ふふふ。つい。」
にんまりと、成功したと言わんばかりの顔に、レリアはげんなりする。
(なんでこの人は、こうも悪戯好きなんだ…。)
急募、驚かない方法と頭の中で探してみるも、とくに思い浮かばずにレリアは諦めた。
ちなみに、扉の向こうにいる亡霊が、反応が楽しいからやめないと思うという、明確な解答を頭の中で出していた事は、部屋の中にいる2人には知る由もなかった。
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「進捗のほどは、どうですか?」
「見ての通り、まだ何も…。」
すると、彼から何冊か本を差し出される。
「参考になるかもと思い、持ってきました。」
レリアは受け取ると、ぺらりとページをめくってみる。
名前と肖像画が描かれており、どれも妙齢の女性ばかり。
「これは...?」
「貴族の見合い画集とでもいいますか、とある富豪の伯爵家が沢山見合いが来たと、仲間内で自慢する為に作ったものです。」
(趣味悪...。)
お金持ちはそれだけ引く手数多なのだろうが、こんな物を作る人の気がしれない。
「私も記憶を見ていましたが、赤毛の彼女の名前を探そうと思い、こちらを見ていたのですが…。」
ぱらららと、一冊の本をシルドがめくりあげ、中央付近で指を使って栞にする。
「こちらの女性…似ていると思いませんか?」
シルドの指が、1人の女性を指さす。
「…ほんとだ。」
(記憶で見た彼女には、そばかすがあったけれど、それ以外は瓜二つ!)
じっと絵を見ていると、ある事に気が付いた。
「あ。」「…気づきましたか?」
彼女の首元に、赤い宝石のついたネックレスが描かれていたのだ。
「これ…。あの時の。」
「貴方が見た記憶の女性は、こちらでほぼ間違いないと思います。」
「名前は、アリス・フィルニール」
「アリス…。」
ーーーーーーーーーー「残念ですが、もう既に、亡くなられている方です。」
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「そうなんですか…。」
(名前が分かっても、全然彼女に関して思い出せない。)
生きていれば、自分に関する事が聞けると思ったが、肩をがっくり落とす。
「落ち込んでいらっしゃる所、悪いのですが…亡くなられていますが、彼女はまだ天には行っていません。」
「え?」
彼女を知っているんですか?と言いたげな目で、レリアはシルドを見つめる。
「ええ。若くして亡くなられたあと、この島に来ていたのを私も思い出しまして。」
「という事は…。」
「この島の墓の中で眠りについていますが、もしかしたら亡霊として出てきてくれる可能性があるという事です。」
「ですから、明日、そこに一緒に行きませんか?」
レリアの瞳に、希望を求める光明が戻ってきた。
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記憶の手掛かりが見つかり、ほくほくな顔で、レリアは自分が出してきた本の数々を棚にしまう。
「流石に今日は疲れました。シルドさんも、色々と付き合っていただきありがとうございます。」
記憶を覗いた事がきっかけで、どんどん記憶が戻る可能性が開けてきた事に、ご機嫌だった。
「構いませんよ。貴方の傍にいるのは飽きないですから。」
「それって…。」
また揶揄おうって魂胆…いや、言わないでおこうと、心の中で首を横に振る。
「あー!今日は前みたいに、ほのぼのできる夢がいいですね。」
片付けの途中、凝っていた肩を思いっきり伸ばす。
「…素敵な夢をみたんですね。」
シルドは優し気に、彼女の方を見つめていた。
ーーーーー「はい!赤い目をした、黒髪の男の子と友達になる夢なんです。」
レリアがそう答えると、彼の目が驚きに満ちる。
そんな事には気付かず、おかまいなしに、彼女は机の上の本を手に集めながら、「夢」について話し出す。
「だけど、記憶を読む感覚と似てたんですよね。夢かなって思っていたんですけど、今思えば、やっぱりあれも、最初に取り戻した自分の記憶だったんじゃないかなって。」
あれ、でも…と彼女はふと本を持ったまま考え込む。
「でも変ですね...私、何か声が聞こえて、触れたわけじゃないと思うんですが...。」
首を傾げながら、レリアは本を仕舞っていく。
「…それは、いつ頃のお話しでしょうか。」
男の顔は彼女からは見えなかったが、一瞬、口元が三日月の様に異様に広がっていった。
「モリアスの事を思い出した時よりも...たしか前に見ました。」
彼女が振り向くと、男の顔は元に戻り、微笑みを携えた瞳で続きを聞く。
ーーーーーーー「あの、私が落ち込んでた日の夜です。」
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男と女は明日、ホールで待ち合わせをする約束をし、1人は自室へ、1人は外へ出るために二手に分かれた。
男はホールに着くなり、顔を下にする。
何かを堪えて、今にも決壊しそうな雰囲気だけが、ホールに漂う。
「ふふふ。」
小さな笑い声が、男の口からついに漏れた。
「…ふふふふふ。あははは!思い出していた!思い出していたんですね!」
狂ったように笑いながら、メインホールで男はくるりと回る。
まるで、誰かと舞踏をしているかのように。
「それも、私が1番だったとは。最初…なんて素晴らしい響きなんでしょう!」
ゆっくりとターンを決めて、ホールの中央に立った。
「…ああ、こんなに胸が高鳴るのは、久しぶりですね。」
男は歓喜の胸の激情を抑えきれず、悦にまみれた顔をしながら、上を見上げ、ステンドグラスにうつる女を見つめる。
「もう少し...いや、慌てるのは愚の骨頂。」
足を止めて、口元に片手を置いて被せる。だが、抑えきれない笑いが、くつくつと漏れていた。
「まさか、私の記憶を無意識に読んでいたとは。」
「...覚えていないかもしれませんが、貴方の手は、確かに「私」に触れていた...。」
いやはや、貴方に触れる時は、気をつけなくてはなりませんねと、楽し気に男は語る。
「ええ、待っていますとも。きっともう、私の所に堕ちるまで、ただ、時間の問題でしょうから。」
そう言い残すと、まるで、瞳にうつる女を捕まえるかの様に、男は天に向かって手を伸ばしていた。
どっかで目標PV突破の記念をしたいですね。
何にしようか考え中ですが、もしリクエストがあれば感想で送ってください。




