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冥府の先まで 〜記憶喪失なんだけど、闇も執着も底が見えない男に捕まった〜  作者: アマヤドリ


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22/40

2-⑥



記憶の持ち主は慌てふためいて、ひたすら泣きながら申し訳ございませんを、繰り返すばかりだった。


「いやねぇ。…ちょっとぐらいの「失敗」は見逃してあげても良くてよ。」

「私は優しいから。…そうでしょう?」


有無を言わさない、見下ろしてくる圧倒的な気配に、自分も後ずさりしそうになる。


「誠意をみせてくれるなら…そうね、これがいいわ。」

そういうと、首元に手が伸びて、何かを引き千切られるような音がした。

どうやら、視界の人…女性の首にかかっていた装飾を奪い取ったのだろう。


(いくらこの美しい人でも、これはやりすぎなんじゃ…。)

もしかして、この人が私の知り合いなのかと思うと、あまりいい気持ちはしない。


そして、とられてしまったネックレスが、先ほどの強引な力を出したとは思えない、たおやかな手にわたる。



「これ、素敵ね。んふふ。私に似合うでしょう?」


そう言ったとたん、視界が突如切り替わる。


妖艶な美女ではなく、赤い髪の毛をした、俯く女の使用人を、なぜか自分が見ていた。


(これって…?どういう事???)


ーーーーー「レリア、これは、宝玉に宿る記憶の持ち主が、変わったためですよ。」

(うわ!!!!)


急に耳元で声がしたかのようだった。

(びっ、びっくりした…。)


「言ったでしょう?傍にいると。今、私は、貴方の頭の記憶に入り込んで見ています。」


(こんな傍にいるとは、思っていなかったもので…。)

てっきり、現実の方で手を握って励ましているとばかり思っていた。


という事は、宝玉の持ち主の記憶を見ている、その私の頭の中の記憶を読んでるって事???

(ややこしい…。)

どういう原理です?と質問しようとすると、次の持ち主になった彼女が、彼女が話し出した。




「…さあ、私はあの方の元へいくとしましょう。似合うと褒めて下さるでしょうか。」

そう話す彼女は、本当に先ほどの激情があったのかと思うほど、無邪気に、楽し気に話していた。

(二重人格か何か?)

怖い…とレリアは記憶の中で縮こまっていた。


美しい人は廊下の奥へ行こうとすると、振り向きざまに、使用人らしき人物に「そうそう。」と何か言い残したのか声を掛ける。





「では、落ちぶれた、元侯爵令嬢サマ、ごきげんよう。」




最後、言葉を吐き捨てると、優雅にドレスの裾を持って、彼女は去っていった。




ーーーーー(あ。)



俯いていた使用人の彼女が、悔しそうに少し顔を上げる。


その顔を見て、直感的にレリアは何かを感じ取った。



(…知ってる。彼女の事を、私は…知っている!)


そう思った瞬間、意識が引っ張り上げられるような気配がした。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「…リア……レリア…、醒めましたか?」


薄っすらと目を開けると、机に突っ伏した状態の自分に声を掛けるシルドが見えた。


「…はい、もう目が覚めました…。」

そう言うと身体を起こす。


「…。私、あの…。彼女、赤い髪の女性、知ってると思います。」

(既視感というのか、あの顔に見覚えがある。)

レリアは最初、あの美人さんが自分の知り合いなのかと思っていたが、もしそうなら、過去の自分の交友関係を清算した方が良いと思えるぐらい、あの苛烈さにはついていけないと感じた。


(確か、落ちぶれた 元侯爵令嬢って言ってた…。貴族の記録に名前があるかもしれない。)


「…シルドさん、私、今日このまま、本の所に行ってもいいですか?」

宝物庫の片付けは、また明日しますからと、レリアは頼み込む。

「かまいませんよ。貴方の助けになるなら、私も喜ばしいです。」

「ありがとうございます!」



そういえばと、レリアはふと思い至った。

(あのティアラの声…彼女の…美女さんの声しか聞こえなかったんだろう。)

元の持ち主の人の方が、私は知ってそうなのに、なぜあっちの人(圧倒的美女)の声が聞こえて来たんだろうと疑問に思う。



「…レリア?」


「あ、すみません、考え事をしてしまっていて。」

「かまいませんが…もう落ち着きましたか?」


シルドはそう言うと、レリアと握っている手を持ち上げる。


「…!すみません!」

(無意識だったなんて…。)

ずっと手を自分から握りしめているのに気付き、レリアは慌てて手を離そうとするも、逆に握りこまれてしまう。

すっぽりと覆われる彼の大きな手のひらに、不思議と嫌な感じがせず、むしろ離れがたく感じてしまった。


「いえ、いつまでも必要ならこの手、差し上げてもいいのですよ?」


手を彼の口元にまで運ばれ、口づけの一歩手前で止まる。

恥ずかしさのあまり、耳まで真っ赤になるレリアに、シルドはさらに追い打ちをかけてきた。


「どうです?四六時中私と一緒にいる事が、条件になりますが。」

くすくす笑いながら、こちらへ微笑んでくる。

もうこうなると、彼が満足するまで、揶揄われ続けるであろう事は、レリアにも想像がついた。




「…。もう何も言わないで下さい…。」

「ふふふふふ。」

「笑わないで下さい…。」





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




彼女が、蔵書のある部屋へと去っていった後、細く、折れそうなティアラを片手で男は持ち歩いていた。

廊下の明かりに照らされて、時折、冠の宝石が瞬く。


「どうりで、私が気付かないわけですね。2つの記憶をもっていたとは。…上手く隠れていたものです。」

「お2人にとって、これが…それだけ思い入れがあったという事ですか。」

ゆっくりと歩きながら、大変珍しいと、彼は一番上についている紅玉を見つめながら呟く。


「あの宝の山から…それに気づいた彼女も…まあ、流石ですね。」

視線を上げた時だった。




ーーーーーーーーーー「ねぇ…。」

唐突に、蛇の様な絡みつくような声が聞こえる。




「…。」

男は急に立ち止まった。


瞼を閉じ、目を開ける。


すると、先ほどまでは青いスターサファイアの様な瞳が、赤黒い、憤怒の瞳に満ち満ちていた。

呼応するかの様に、一気に、廊下の燭台の灯りが掻き消えた。





ーーーーーーーーーー「■■■■ 、…さま。」


濃い闇の中、なおも此方へと呼びかけるその「声」に、男の怒りが頂点に達する。




「不快極まりない。」




冷たい、凍える様な声で、手に持っていた冠を見下ろす。

一瞬で、男の腕ごと黒い炎に包まれていった。



さらさらと、砂のように、あっけなくティアラが崩れ去り、空気へと溶けていく。




「...貴方も存外執念深い。」


「…。待ち続ける「彼女」には悪いですが、「これ」だけ返して差し上げましょう。」





そう言うと、手のひらに残った紅の粒を摘み上げて、暗い城の奥へと男は消えていった。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ブックマークや評価を入れて下さった方、ありがとうございます!

2章は記憶探しがメインになってきますが、登場人物が出揃ってきたら、紹介ページを作ります。

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