表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
冥府の先まで 〜記憶喪失なんだけど、闇も執着も底が見えない男に捕まった〜  作者: アマヤドリ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/41

2ー⑤



「きゃあ!」

手を慌てて引っ込めて、レリアはびっくりと目を丸くする。


思わず悲鳴を上げてしまったが、その直後、護衛の幽霊さんが、一瞬で自分の隣にきた。

見えない敵…?を見つけようと、自分の周りをぐるぐる周回する。



ティアラ?

怪我したのか?

大丈夫か?


そんな感じの気配で、訴えてきている様な気がした。

屈強な彼らのこっちを見ながら、自分よりもおろおろとしているのをみて、少し可愛いなと思えるほど、レリアは動揺が収まっていた。



事情を伝えて、慎重に布巾にティアラを包む。


(今は何も聞こえてこない…。)


冠はそれきり声を出さなくなり、何も聞こえないが、

間違いなく、自分に関する事を握っている。


そんな気がした。




------------------




霧の彼方の片隅で、焔を苛立ちながらゆらめつかせ、覗き込む男がいた。



「まだあったとは...。

全て灰にしたと思っていましたが。」




彼女が手に持つ物「それ」を、柘榴色の目を釣り上げて、憎々しげに見つめる。



「だが、彼女が聞こえたのであれば、あれは間違いなく手掛かり。」

壊すのは早計と、気持ちを落ち着かせる。



「しかし、莫大な量の「声」が残る部屋から、なぜ、これを選んできたのか...。」

「私の思う様にいかないというのは、彼女の魅力とはいえ...。はあ。」


城の方向を見て、仕方がないと言いたげに吐息を吐く。



「彼といい、今回といい...。私でないのは、妬けますね。」

炎が掻き消え、男の輪郭が霧に薄らとうつる。



「やはり、今度は私自ら...そうですね...アレを持っていくとしましょう。」




水面下で進む思惑に、深淵の怪物が舌なめずりをしながら待ち構えているのを、

彼女は未だ、幸せな事に気付いていなかった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




ーーーー北棟に静かな時が流れており、その空間には、動かない彼女…レリアがいた。


机に置いたティアラと睨めっこしながら、彼女はシルドが来るのを待っていた。

暫くすると、扉の方から軽く叩く音が聞こえる。


「レリア、私です。」

「はい、お待ちしてました。」


そう言うと、レリアは扉を開けて、シルドを促す。

椅子に腰かけ、「護衛から聞きましたが…これが、例のものですね。」と冠を見る。



「今も何も聞こえないのですが、これから「声」が聞こえたのは間違いないです。」

シルドはその声を聴きながら、一度目をつぶり、机の中央のティアラに手をかざした。




「…ええ、貴方が最初に聞いたという、誘われた声は、私には小さいながら聞こえています。」

「全然聞こえないです…。」


(この綺麗な冠に、なんでそんなに嫌われるんだ…。)

記憶に意識でもあるのかと、納得いかないような目で、レリアはもう一度見てみる。

だが、やはり聞こえてはこない。



「このティアラの記憶を、読んでみますか?」

シルドに聞かれて、レリアは少し悩んでしまう。



「…。やっぱり触れても良いのかな…。」

(強く拒絶されてる手前…。どうしよう。)


自分に関係があるかもと思ったが、もしかして、あまりいい思い出ではないのかもしれないと、レリアは足踏みする。



「大丈夫ですよ。」


シルドはそう言うと、レリアの方に身体を傾けて、彼女の手をそっと握る。

不安そうな彼女の瞳が、シルドの目にも映っていたが、やがて互いの熱が伝わり、その知った少しひんやりとした肌に、なぜかレリアは恥ずかしさではなく、安心感を覚えていった。




「心配なら、私が一緒についていきますから、醒めたいと思ったら、私に意識を向けて下さい。」

「傍にいます。」



握った手に、力が込められる。

彼の真剣な眼差しを受け、立ち止まっていたレリアの心が動く。


(…こんなにも、協力を惜しまないシルドさんに申し訳ない。なにより、記憶を取り戻したいのは、私自身の願い。…見てみなくちゃ、何もはじまらない。)




「…分かりました。お願いします。」

レリアは記憶を読む事を決意し、シルドに頷きながら答えた。



手を繋ぎ、同時に怪しく輝くティアラにつく赤い宝玉に、レリアとシルドは共に触れた。






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





次に目を開けると、視界には煌びやかなシャンデリアが続く、豪華絢爛な廊下が広がっていた。


だが、その見た目とは裏腹に、明らかに前に見たような記憶とは違う、不自然なほどに冷たい気配が身体全体を包み込む。まるで牢獄にでも、囚われているかのような感覚だ。




どうやら、今見ているのは、どこかの城のようだ。

突然、後ろから声が聞こえ、視界の主も後ろを振り返る。


「あら、誰かと思ったら...灰色鼠のお気に入りじゃない。」

視界の主が、ある人物を捉えると、慌てているのか、頭を下げていた。



(一瞬だったけど…。)



物凄い美女が見えた。



髪は銀髪で、靡くような艶があり、豊満な身体つきを、惜しげもなく魅せるような赤いドレスが、彼女をさらに惹きたてていた。


多分、誰もが彼女を見たら、目を奪われるだろう。



「また、あの子鼠ちゃん、この城に来たそうじゃない。」

そういうと、美女の扇子があごにかかり、床を見ていた所から急に視線を無理やり合わせられる。

彼女の瞳は青く、サファイヤの様な輝きをしながら、此方へ微笑んでいた。


しかし、内心笑っていないであろうというのが、瞳の奥の氷の様な鋭さが物語る。



「ただ、自国を守るだけで、手一杯な癖に。

神王にお目通りなど、立場を弁えていないのかしら。」



お前になど、会いにくる価値もないのに、という声が聞こえてきそうだった。



「剣をとって、戦う事しか頭にない、野蛮な者達…。小言を言う暇があるなら、さっさと自分の国に帰って、国境に戻る事が、よほど国のためだと思わない?…ねえ?」

同意を求めるかの様に、答えを促される。



「あ、あの…。どうやら、セザール様と■■■■■様に、よ、呼ばれたそうで、仕方ないかと…。」

記憶の持ち主が、戦々恐々としながら、圧倒的な美を前に声を震わせながら答える。



「なぁに?…宰相とあの方に呼ばれたの?…そう…仕方ないのね。仕方ない…。」





ーーーーーーー「貴方、誰に向かって、 仕方ない  なんて言ってるのかしら。」



妖艶な手つきで胸元に手を置き、こてんと首をかしげながら、記憶の主の瞳は恐怖からか、視界の端に涙が溢れ続けていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ