星夜の邂逅①
色んな小説を読みあさり、丁寧系な口調の人物が刺さる〜!と思っていたら、思いつきました。
読みにきてくれた方、ありがとうございます!
誤字脱字があれば、投稿で教えて下さいな。
感想もお待ちしています。
肌寒い風が、星夜を駆け抜け、年季が入った古城の上には、大きい満月の月がのぼっている。
月明かりに照らされた大地に、水色をした花々が揺れ動く。
花は自ら輝いているのか、ぼんやりとした輪郭を描いていた。
「…ん」
花畑に囲まれた白い大樹の窪んだ辺りで、1人の女性がむくりと起き上がった。
「ここは一体…。」
辺りを見まわして、覚えのない風景に疑問を抱く。
綺麗な花に、綺麗な月。星々も煌めいている。
それに、自分の背後には大きな木があり、根元から枝、花に至るまで全て白い。
花弁が、はらはらと頭上を舞っているのが見えた。自身の着ていた、白くて長めの服や、黒に近い、紺色の髪についていた花弁も、きっとこの木から落ちたものなのだろう。
画家がいれば、とても素晴らしい絵が出来上がりそうな景色だ。
でも、自分がどうしてここにいるのか、そして、自分が何者なのかも思い出せない。
疑問ばかりが浮かんでくるも、寝起きからようやく覚醒しだした頭で、再び周りを確認してみる。
(綺麗な石…。等間隔で並んでるみたい。)
はじめは暗くて見えにくかったが、四角い長方形の石が一面並んでいた。
見に行ってみようと、手をついて立ち上がろうとした時だった。
(…なんか固い。)
掌に伝わる冷たさを感じた。どうやら、自分が起きたのは地面の上ではなかった様子だ。
触ってみると、木の感触で、足の先まで自分を囲むようにあった。
形も真四角ではない。台形とも違う。
そう、まるで棺桶のような…。
棺桶…。
「………!!!!!!」
声を出さずに器用に顔で絶叫し、凄い勢いで飛び起きる。
(棺桶のような、じゃない!本当にそうだ!)
自分の寝ていた場所を上から見下ろし、形を改めてみて怯えていた。
なぜか蓋はなかったが、蓋をされて埋められていたらとぞっとする。
(それに、石だと思っていたけど…これ、ただの石じゃない!墓石だ!)
周りに並んでいた石には何やら文字が刻んであり、故人である事をより一層伺わせる。
(なんで、なんで私、こんな所に…?)
脳内が大パニックを起こしている中、突然の事だった。
「こんばんは。」
「ひっ!!!!!」
心臓が口から出てくるかと思った。
背後から、突然声を掛けられた衝撃が抜けきれず、しばらく呆然としていたが、自分に声を掛けてきたのを自覚し、息を整える。
振り返ると、白い木の後ろから、全身黒づくめの人物がいた。
この時点で、もう一度悲鳴を上げそうになる自分を、頑張って堪える。
それにしても…見るとかなり背が高い。おそらく、私より頭1つ以上もある。フードを目深に被っているが、横から出ている髪は長くて黒いが、先が藍色の様に独特な色味をしていた。
手には白木の長い杖を持ち、先端には、大きめのランタンが下げられており、中には太めの蝋燭が、黒々しい炎をあげて、隙間から漏れ出てる様に靡いていた。
(ふっ不審者!!!!)
と思うも、それを声に出す勇気はなかった。
だが、声を掛けられた以上、何か反応したほうがいいのか考える。
「…貴方は?誰ですか?」
恐る恐る訪ねてみる事にした。
「…私はシルドと申します。ここの番人です。」
背の高い男性は、自らをシルドと名乗った。
当然だが聞き覚えはない。
「番人?」
「ええ、墓場の番人です。」
「はかば...?はかば・・・・・・・・・墓場????!!え??」
墓場と分かり、思考がしばし止まる。
「ええ、そうですよ。その証拠に、後ろを見て頂ければ、分かるかと。」
「……!!!!」
もう声も上げられなくなった。
なぜなら、自分の後ろに半透明のナニかが、ふらふわしていたり、飛び回っていたからだ。
しかも、人のような形をして、中には自分に向かって手を振ったり、こっちへと手をおいでの様な仕草まで。
(まさか、これって…幽霊????うそでしょ。私、幽霊見えるの???)
挙動不審になりつつある自分に、シルドがお近くに来てくださいと、手招きする。
だが、見知らぬ怪しい人物に近づく事も、ましてや、幽霊がいる方に行くことも出来ずに、その場から動けなくなってしまった。
「この灯りの傍にいれば、それ以上近づいてはきませんよ。」
見かねたシルドが、怖くありませんよとランタンを差し出し、周りが明るくなる。
確かに、幽霊が炎の明るさを避けているのか、こっちには来ない。
「えっ?除霊効果でも…???」
「……。」
にこりと口元が微笑むだけで、それ以上教えてくれない。
(何か言って…。)
怖い。怖いが…。
幽霊よりましだと割り切り、仕方なく彼の近くに寄る。
(覚えていない、お父さん、お母さん、私、気絶してもいいですか。)
ほっぺをつねってみるものの、残念ながら痛いだけで現実を突きつけられ、かつ気絶する事も出来なかった。
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起きて早々、自分の事も、なぜ此処にいるのかも分からないという事を伝えると、彼…シルドは、ふむと頷いて考えたはじめた。
「…ここは話すには向いていませんから、移動しましょう。」
貴方も聞きたい事があるでしょうと、静かに言われる。
シルドの方から提案を受け、素直に頷いて従う。
仕方ない。幽霊に憑りつかれたり、呪われたりするのは嫌だ。
ぼぅっと光る灯りを頼りに歩きながら、墓場の番人と名乗るシルドを後ろから見る。
長い黒髪の下…切先の方は白くなっており、全体的に服も黒っぽい。
所々、銀の装飾があり、鎖の様なベルトが幾重にも腰回りから見えた。
本人の趣味なのだろうか。それとも、あの鎖…使うのか。
それを見て、一気に仲良くなれないかもしれないと震え上がる。
「歩みが遅い様ですが、どうしましたか?」
少し遅くなった自分に声が掛ける。
声は優しげだが、こんな所にいる人が、まともだとは到底思えない。
あと、ファッションセンスも。街できっと見たら、5度見してる。
「…なんでもないです。」
ふり絞った声でなんとか返事をする。
その時、自分の方を向くシルドの顔を見た。
(…。きれい。)
顔はなんとなく整っている印象だったが、さっきは陰で見えにくかった目が、月に照らされて、とても綺麗だったのだ。
蒼い海に、星を落としたかのような…まるで彗星の様に煌々と輝く宝石みたい。
「…。」
「…。」
「・・・・!」
あまりに顔を見つめていたせいか、シルドも自分の顔を見ている事に気付き、慌ててごめんなさい!と謝る。恥ずかしい。穴があったら入りたい。(棺桶以外で)
「ふふ。」
そんな彼女の様子を見て、彼はうっすらと笑っていた。
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歩みを進めていると、向かう先が古城である事が分かった。
良く見ると、城の内部から灯りが見える。
彼が住んでいるのは、もしかしてこの城のような所なのだろうか。
「この辺から岩場になるので、足元が危険になります。お手をどうぞ。お嬢さん。」
手をそっと自然に差し出される。
(確かに、すごいゴツゴツしてる。なんでこんな不便な所に、お城を建てたんだろう。)
お嬢さんと言われ、自分の実年齢は分からないものの、少し気恥ずかしさを覚える。
少し考えた後、彼の手をとる事にした。
着ている白服の裾が長かったため、何度も岩肌を擦れて引っ掛かりそうになっていたからだ。
登っている途中、ふわりと、視界の隅に、幽霊らしき面影がうつる。
驚いてしまい、足元がふらついた拍子に、シルドの方へと少し身体が倒れこんでしまう。
「わっ!!っと、ごっごめんなさい!!」
彼の胸辺りに、自分の顔がある事に気付いて、慌てて両腕を使って身体を起こし、シルドから距離をとる。
彼は突然寄りかかられても、体もブレず、顔色を変えずにいた。
痩せていると思っていたが、思いのほか、体幹がしっかりしている様だ。
再び手を自然にとり、支えてくれる。
「…。あまり怖がらないで下さい。亡霊はいますが、住み心地は悪くないんですよ。」
(いや、幽霊がいる時点で、住み心地は保証されないと思います…。)
彼女の呟きは、住みやすいと感じているらしい彼には言えず、黙ることを選んだ。
「…あの…いつからここに?」
ずっと黙っているのも耐え切れず、話しかける。
「さぁ…長い時を過ごしましたよ。ですが、誰かがやらなくてはいけないものでして。」
「やらなくてはいけないもの?」
「えぇ、この黒い炎は、原初の炎…。この灯りを使い、彷徨う魂を正しく導く事が、私の仕事です。」
ランタンを自分の方に傾けながら、いずれお見せできると思いますが、それはまたと、シルドは伝える。
やはり、あの黒炎は普通の火じゃなさそうと思っていた。
どう使うのか気になると、先ほどから怖がりつつも、好奇心が沸く。
「それに、生きてると言っていいのは、この地で私と、貴方だけですから。」
「…。他に生きてる人がいないんですか?」
彼以外のあてがあるのか聞こうとした矢先、その線が絶たれてしまった。
シルドは持っていた杖の先を、後ろの方にさす。
「見えますか?」
「…え。」
今まで登ってきたかいがあり、上からよく見渡せるようになると、杖の先が見渡す限り水がみえた。
海なのか、遠くからざぶんという波の音も聞こえる。
「ここは島です。昔は生きている方もいましたが、寂れてしまいまして…。たまに、物資を運ぶ渡し守が来るぐらいですね。」
「…という事は。」
「えぇ、島を行き来する渡し守が来るまでは、島から出れません。」
「・・・・・。」
落胆を隠しきれなかったが、仕方ない。
この幽霊が沢山いる島で、何日過ごさなくてはいけないのかと思うと、気分がやはり落ち込んでしまう。
「島なので周りはあたり一面、水に囲まれています。次に来るのはいつでしたか…。あぁ、もう少し色々買い込んでおけば良かったですね。」
(そんな、激不便な所に、なぜお住まいに…??)
やはり、住み心地はどう考えても良くないのでは?と、彼女はもう一度思った。
初回は少しコメディな所がありますが、次回以降、話によって、不穏との落差があるかもしれないです。




