彼女の知らない話②
彼の、るんるん引越し後の姿です。
-------城の気配も寝静まる、静かな繊月の夜
北の棟に来た闇の主は、未だ眠らずにいた。
「...こんなにも、距離は近いのに、貴方の心にまだ触れられないのは、寂しいものですね。」
彼女と自分を隔つ壁に、男はそっと手を添えていた。
「さて、彼女が記憶を取り戻せる様、お手伝いをしなくては。」
「ええ...どの様な物がいいでしょうか。」
そう言うと壁から離れて、机の横に置いてある、白を基調とした装飾の入った大きめな箱の前に立った。
鍵はついていないものの、男が手を翳すと、蓋が開いて入っている物が露わになる。
羽ペン
指輪
宝石の様な欠片
本
手紙
統一性はなく、様々な物が入り混じっている。
だが、どれもこれも不自然な程、長いこと仕舞われていたとは思えない程に綺麗だった。
「まさか、彼の記憶を1番に思い出すとは...。」
妬けてしまいますと、男は呟きながら、宝石の様な蒼い欠片を取り出す。
「出来る事なら、彼ではなく、私の記憶を差し上げたい所ですね。」
楽しげに目を細めながら、薄らと入る月明かりに宝石を当てて、淡い反射に目を存分に楽しむ。
「◾️◾️◾️。」
部屋の扉の近くにいる亡霊が、突然男に話しかけた。
部屋の新しい主に、許可なく入り込む輩がいた様だが、男はそれを咎める事なく、一瞥しただけだった。
「なんです?」
折角の気分を、台無しにしないで下さいと、亡霊と接する男は、いつもこうだと言わんばかりに、眉を顰める。
「◾️◾️。」
「強引?...ですか...。」
亡霊が言った言葉に、男は暫く考え込む。
だがすぐに、口元を窓越しに見える、極限にまで細めた月の様に笑いだした。
「ふふふ、何をおっしゃる。」
--------恋も愛も、あらゆる策謀と戦略が許されているのですよ。




