2-③
彼らの距離が少しずつ、縮まっていく回になります
ーーーーーーーーーレリアが少し記憶を取り戻した後、
渡し守の来る2週間前の事。
早朝の時間帯、廊下の方から、がたがたと何か物を運ぶ音がする。
それに続いて隣の部屋でも、急に騒がしくなった。
(なんだろう…?)
ドアを恐る恐る開けて、廊下を見てみると、体格の良い霊が棚や椅子を隣の部屋へと運び込んでいた。
廊下に出て、隣の部屋を覗き込むと、シルドが何やら持ってきた家財をどこに置くのか、幽霊たちに指示している所だった。
「それは、奥に運んで下さい。…おや、レリア、おはようございます。」
「…おはようございます。あの…何をしているんですか?」
部屋の中央にいるシルドに、声を掛けた。
「見ての通り引っ越しですよ。」
「引越し?」
(どなたがお隣りさんに...まさか。)
「もしかして、シルドさんですか?」
「…おや、言っていませんでしたか?」
「聞いてないです…。」
(お、お隣さんにシルドさんが来るのは知らないです...。)
すると、彼が軽く口元に手を当て、笑っているのが見えた。
「…わざと言いませんでした?」
「ふふふ。」
「笑って誤魔化さないで下さいよ。」
「やっぱり」と、レリアは心の中で、自分で遊ぶ彼に呆れていた。
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レリアは軽い朝食を、シルドととった後、再び引越してきた部屋に戻ってきた。
引越しの手伝いをするためだ。
「そういえば、どうして引越ししようと思ったんですか?」
レリアは分厚めのカーテンを、窓へと引っ張り上げながら、シルドに尋ねた。
(シルドさんは、仮住まいみたいな事を言っていたけれど、実質彼の城だよね。)
許可なく何処に引っ越しても、別に私がどうこう言える立場にはない。だが、元いたシルドさんの部屋...?と呼んでいいか分からないが、結構気に入っていたのも知っている。
「そこにいる必要がなくなったもので。」
「必要がなくなった?」
「えぇ、貴方が眠っていた場所を、見ておく必要がなくなったので。」
(…。まあ今思えば、不審者は、外で寝かして監視しておこうって事だったのかな。)
棺桶に入れられていたのは、なかなかに衝撃的だったけれど。と心の中で付け加えておく。
「その説はご迷惑をおかけしました。」
「いえ、あの場所は私も気に入っていましたし、不便ではなかったのですが…。」
シルドはそう言うと、言葉を区切る。
「北の棟は遠いので、この前の様に、何かあれば私がすぐに対応出来るでしょう。」
シルドは壁の燭台をつけ終えて、台から降りながらレリアに言う。
(記憶を読んで倒れないか心配なのかな?)
「でも、迂闊に触ったりはしないですよ。」
「...。」
沈黙が落ちる。
シルドを見ると、その言葉に嘘はないです?と言いたげな、全くこちらを信じていない目をしていた。
「...ごめんなさい。嘘です。触っちゃうかも知れません。」
レリアは、好奇心で触ってしまうであろう自分を信じ、速攻で手のひら返しをした。
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------大分部屋の引越しが済んだ頃だった。
「レリア、一度休憩しましょう。」
「はい!」
ジゼルと一緒に、カーテンをつけていたレリアに、シルドは声を掛ける。
「手伝っていただき、ありがとうございます。」
「いえいえ、タダ飯は流石に気が引けますから、これくらいは当然です。」
つけ終えて、台を降りようとした直後、ガタンと傾き、危ないと思った時には、すでに身体がふらついてしまっていた。
「うわっ!」
(落ちる!)
落ちる寸前のところで、慌ててシルドが抱き止める。
「っ、大丈夫ですか?」
「あ、はい、大丈夫です。」
此方を心配そうに覗きこむ、シルドの姿があった。
「....貴方はよく転びそうになりますね。」
目の端に心配の色を滲ませながら、少し呆れた様に言われる。
「...。」
「レリア?」
シルドを見上げながら、じっと此方を反応がない彼女に声をかける。
「あ、あの...いえ、驚いた顔が珍しくて、つい。」
(見入ってしまったなんて)
口が裂けても言えないと、彼の腕の中にいるレリアは思った。
(シルドさんの色々な表情が見れて)
------嬉しいだなんて、多分どうかしている。
恥ずかしさに当てられたのだと、レリアは自分の心を納得させた。
----シルドはそんな彼女を見て、何かを思いついたのか、口角が上がる。
「...ほう。」
「あ。」
(これは、何か企んでる。)
何かされる前に、退散が1番と、シルドの腕から抜け出そうとするも、びくともしない。
「...すみません...おろしてください。」
そんなレリアの些細な願いは、無常にも切り捨てられる。
「そんなに、私の驚いた顔が見たければ、もっと近くで見て頂いてもかまわないのですが。」
「いや、あの...近すぎます!」
ぐっと、レリアは、身体ごと顔に引き寄せられてしまう。細身の身体ではあるものの、筋肉がしっかりとある彼にとって、そのぐらいは造作もなかった。
「さあ、遠慮なく見て下さい。」
「ううう...。」
シルドの胸と頬を、レリアは一生懸命に突っぱねるも、びくともせず、逆に触れてしまったという意識から、彼の胸板の厚さや頬の温もりを感じて、より顔を赤面させる事になってしまった。
(モ、モリアス...助けて...)
レリアは何処にいるとも分からないひとに、助けを求めるまで、攻防は続いた。
ちなみに...
周りにいた幽霊は、2人の世界に入っている彼らを見て、壁になりきれと、皆で力を合わせて努力していた。
不穏な感じも好きですが、ラブラブな話しも大好きです。




