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冥府の先まで 〜記憶喪失なんだけど、闇も執着も底が見えない男に捕まった〜  作者: アマヤドリ


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18/41

2-③

彼らの距離が少しずつ、縮まっていく回になります





ーーーーーーーーーレリアが少し記憶を取り戻した後、

渡し守の来る2週間前の事。



早朝の時間帯、廊下の方から、がたがたと何か物を運ぶ音がする。

それに続いて隣の部屋でも、急に騒がしくなった。



(なんだろう…?)

ドアを恐る恐る開けて、廊下を見てみると、体格の良い霊が棚や椅子を隣の部屋へと運び込んでいた。

廊下に出て、隣の部屋を覗き込むと、シルドが何やら持ってきた家財をどこに置くのか、幽霊たちに指示している所だった。



「それは、奥に運んで下さい。…おや、レリア、おはようございます。」

「…おはようございます。あの…何をしているんですか?」

部屋の中央にいるシルドに、声を掛けた。


「見ての通り引っ越しですよ。」

「引越し?」



(どなたがお隣りさんに...まさか。)


「もしかして、シルドさんですか?」



「…おや、言っていませんでしたか?」

「聞いてないです…。」

(お、お隣さんにシルドさんが来るのは知らないです...。)



すると、彼が軽く口元に手を当て、笑っているのが見えた。


「…わざと言いませんでした?」

「ふふふ。」

「笑って誤魔化さないで下さいよ。」



「やっぱり」と、レリアは心の中で、自分で遊ぶ彼に呆れていた。



---------------------



レリアは軽い朝食を、シルドととった後、再び引越してきた部屋に戻ってきた。

引越しの手伝いをするためだ。


「そういえば、どうして引越ししようと思ったんですか?」

レリアは分厚めのカーテンを、窓へと引っ張り上げながら、シルドに尋ねた。

(シルドさんは、仮住まいみたいな事を言っていたけれど、実質彼の城だよね。)

許可なく何処に引っ越しても、別に私がどうこう言える立場にはない。だが、元いたシルドさんの部屋...?と呼んでいいか分からないが、結構気に入っていたのも知っている。



「そこにいる必要がなくなったもので。」


「必要がなくなった?」


「えぇ、貴方が眠っていた場所を、見ておく必要がなくなったので。」

(…。まあ今思えば、不審者は、外で寝かして監視しておこうって事だったのかな。)

棺桶に入れられていたのは、なかなかに衝撃的だったけれど。と心の中で付け加えておく。


「その説はご迷惑をおかけしました。」

「いえ、あの場所は私も気に入っていましたし、不便ではなかったのですが…。」

シルドはそう言うと、言葉を区切る。


「北の棟は遠いので、この前の様に、何かあれば私がすぐに対応出来るでしょう。」

シルドは壁の燭台をつけ終えて、台から降りながらレリアに言う。


(記憶を読んで倒れないか心配なのかな?)


「でも、迂闊に触ったりはしないですよ。」




「...。」




沈黙が落ちる。


シルドを見ると、その言葉に嘘はないです?と言いたげな、全くこちらを信じていない目をしていた。




「...ごめんなさい。嘘です。触っちゃうかも知れません。」

レリアは、好奇心で触ってしまうであろう自分を信じ、速攻で手のひら返しをした。




--------------------



------大分部屋の引越しが済んだ頃だった。


「レリア、一度休憩しましょう。」

「はい!」


ジゼルと一緒に、カーテンをつけていたレリアに、シルドは声を掛ける。


「手伝っていただき、ありがとうございます。」

「いえいえ、タダ飯は流石に気が引けますから、これくらいは当然です。」


つけ終えて、台を降りようとした直後、ガタンと傾き、危ないと思った時には、すでに身体がふらついてしまっていた。




「うわっ!」

(落ちる!)


落ちる寸前のところで、慌ててシルドが抱き止める。




「っ、大丈夫ですか?」

「あ、はい、大丈夫です。」

此方を心配そうに覗きこむ、シルドの姿があった。



「....貴方はよく転びそうになりますね。」

目の端に心配の色を滲ませながら、少し呆れた様に言われる。


「...。」

「レリア?」

シルドを見上げながら、じっと此方を反応がない彼女に声をかける。


「あ、あの...いえ、驚いた顔が珍しくて、つい。」

(見入ってしまったなんて)

口が裂けても言えないと、彼の腕の中にいるレリアは思った。




(シルドさんの色々な表情が見れて)

------嬉しいだなんて、多分どうかしている。





恥ずかしさに当てられたのだと、レリアは自分の心を納得させた。




----シルドはそんな彼女を見て、何かを思いついたのか、口角が上がる。

「...ほう。」



「あ。」

(これは、何か企んでる。)


何かされる前に、退散が1番と、シルドの腕から抜け出そうとするも、びくともしない。



「...すみません...おろしてください。」


そんなレリアの些細な願いは、無常にも切り捨てられる。



「そんなに、私の驚いた顔が見たければ、もっと近くで見て頂いてもかまわないのですが。」


「いや、あの...近すぎます!」



ぐっと、レリアは、身体ごと顔に引き寄せられてしまう。細身の身体ではあるものの、筋肉がしっかりとある彼にとって、そのぐらいは造作もなかった。




「さあ、遠慮なく見て下さい。」

「ううう...。」


シルドの胸と頬を、レリアは一生懸命に突っぱねるも、びくともせず、逆に触れてしまったという意識から、彼の胸板の厚さや頬の温もりを感じて、より顔を赤面させる事になってしまった。





(モ、モリアス...助けて...)


レリアは何処にいるとも分からないひとに、助けを求めるまで、攻防は続いた。




ちなみに...

周りにいた幽霊は、2人の世界に入っている彼らを見て、壁になりきれと、皆で力を合わせて努力していた。

不穏な感じも好きですが、ラブラブな話しも大好きです。

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