夢で会いましょう 2-①
2章の始まりです。
今回は、彼女に焦点が当たります。
約束の3ヶ月が近づいてきた、とある日。
一緒に朝食をとっていると、
シルドが珍しく頼み事をしてきた。
「んぐ…。そこを片付ければいいんですね。」
デザートを頬張りすぎたレリアが、少し慌てて飲み込みながら答える。
大分マナーは覚えたのだが、どうしても小さく少しづつ食べるというのは、意識をしていないと難しく、偶に大き目で食べてしまう。
「えぇ。今後、その部屋を使う予定なのです。私も、帰った後に手伝います。」
シルドは食べ終えたのか、優雅な佇まいで、口元にナプキンを添えていた。
(私よりも多い量なのに…。)
まだまだ練習が足りないなと、彼をみながらレリアは思っていた。
ーーーーーー話してきた頼み事というのは…
北棟の自室にしている部屋の隣にあたるが、どうやら美術品が沢山置かれている様で、そのまま今まで放置されてきたそうだ。なので、品々を綺麗にした後、専用の倉庫に運び出してほしいという依頼になる。
前に言われていた、掃除の要望がついに来たのだ。
「いや、シルドさん仕事から帰ってからは大変では…?なるべく頑張って終わらせますから。」
「ですが、かなりの量がありますので、力仕事になるかと。宜しければ、ジゼルが護衛以外に手伝ってくれる亡霊を呼んでくれますから。遠慮なく彼女に仰ってください。」
そう言うと、シルドは立ち上がった。
ここ暫く仕事が忙しいのか、朝早く出る事が多い。
「分かりました!」
レリアは、まず行ってみてどうするかを考えようと、食べ終えたレリアも立ち上がる。
「では後ほど。」
「はい、行ってらっしゃい!」
シルドは微笑みを返し、レリアの自室を後にした。
(さて、今日も1日頑張ろう!)
支度を終えると、レリアはジゼルをベルで呼び、
早速言われた場所に、彼女と護衛の幽霊と共に向かっていった。
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「この部屋ですか...。うわ、凄い量の絵画ですね。」
部屋を埋め尽くす、絵画や壺、よく分からない像等、芸術の海が広がっていた。
だが、小さいものから大きなものまで、沢山埃や布を被っていた。
(文化的価値もあるかもしれないのに…そのままなんて勿体ない。)
埃を被っていた大き目の絵画を手に取った。
瑞々しい果物の入った籠の絵は、見る人を惹きつけようと誘惑してくる。
そういえば、この城の廊下にも肖像画を見かけた事を思い出す。
王冠を被る男の人や豪華なドレスを身にまとう夫人らしき人等、多分、この城の王族の肖像画だろうと思うが、どれもこれも歴史を感じさせる一品ばかり。
(気に入ったものがあれば、部屋に飾って下さいって言われたけど、こんなにあるなら、何か一つ持って行こうかな。)
レリアは部屋を見渡して、どうやって掃除を行おうかと考える。
「うーん、まずは廊下に運び出しましょうか。」
「護衛の方々は、お手伝いは難しいんですよね。」
うんうんと、護衛の幽霊2人が首を縦に振る。
守る というのを仕事にしているからか、彼らは扉や窓の近くが定位置な様で、手伝っていると万が一の事があると直ぐに助けに行けないとの事だった。
「ジゼルさん、力自慢の幽霊さんっていますか?」
「…。」こくりを頷き、ジゼルの気配が消える。
どうやら呼びにいったらしい。
「よし!じゃあやるぞー!」
がんばれーと、護衛の幽霊からも、腕を振り上げられて応援される。
絵画の大きさで、分類しながら片付けようと、心の中で「おー!」と気合いを入れ直し、レリアは腕の服の袖を捲り上げた。
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暫くすると、ジゼルさんが戻ってきて、2人を紹介される。
使用人のマルクと、ロイという名前の幽霊さん達が手伝いにきてくれた。
「よろしくお願いします。」
「…(こちらこそ)。」
手紙を渡され、挨拶が済むと、皆でてきぱきと行動を開始する。
マルクさんとロイさんは、運搬係。
ジゼルさんと私は、美術品の掃除で分担する事にした。
「わぁ、これも埃だらけ。」
布を引っぺがし、布巾で額縁を磨く。
(この絵も素敵だなぁ。)
掃除をしながら見とれそうになり、慌てて視線を外して拭いていく。
半分ほどが終わった頃だった。
ーーーーーーーー「●●●●。」
「…ん?」
(何か聞こえた気がする。)
拭いていた手を止めて、あたりを見渡す。
「ジゼルさん、何か声が部屋から聞こえませんか?」
いいえと首を振られてしまう。勘違いだったのかと思うも…。
ーーーーーーー「●●●。…こっち。」
「やっぱり何か聞こえる気がする。」
(ここにも、もしかして幽霊さんがいたりするのかな?)
廊下にいたレリアは、扉から部屋の中を見ながら、幽霊と共に、幽霊がいないか確認する。
だが、彼らにも分からないのか、聞こえなかったのか、ジゼルも、護衛の2人も首を傾げていた。
「●●●●。」
(やっぱり、誰かいる。)
前にも同じような感覚があったが、それよりもはっきりと「声」のようなものが聞こえる。
誘われるがまま、どんどん部屋の奥へと進む。
そして、少し小さめな肖像画を手に取った。
(これだ…。)
ついていた埃を、ふっと息を吹きかけて払いのけた。
後ろからジゼル達も絵を覗き込む。
「この人…、なんかどこかで見たような…?」
絵には灰色のような髪をし、水色と青のグラデーションがかかった花を持った、小さな横顔の少女が描かれていた。目は水晶のように薄い水色をしている。
だが他の絵とは違い、なんとなく、どこか拙さが残った筆使いだ。
突然、レリアの視界がぶれ、横向きになった。
(あれ、私、倒れてる???)
周りの亡霊達が、心配そうに此方を覗き込んでいる。
大丈夫ですとも言えず、そのまま彼女の視界は真っ暗になった。
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北棟の一室 寝台の周りには、男と亡霊が話し込んでいた。
「そうですか。何か聞こえたと。」
周りの霊が男を取り囲みながら、慌てふためきながら、何かを伝えている。
「大丈夫ですよ。ちなみに、何処から聞こえてきたと?」
手伝いにきていた霊の1人が、絵を差し出した。
「この絵...。まさか。」
シルドは絵の裏を返す。
そこには小さな文字で
「モリアス」
と、人の名前が書かれていた。
「...これを握りしめていたとは。偶然ではないでしょうね。」
男はその絵を見ながら、懐かし気に目を細める。
「貴方方は先に仕事に戻ってください。彼女は私が見ておきます。」
心配そうにしていた亡霊は、名残惜しそうにその場から消え去っていった。
絵を机の上に置いた後、
男は部屋に寝かされていた彼女を、そっと抱き起こす。
「…レリア。心配しないで下さい。」
頬の輪郭を撫で、顔を近づける。
安らかに寝る彼女を見て、胸の辺りの奥を覗くかの様に、じっと見つめた。
「随分と馴染んだようですね...。」
何かを確信したかの様に、切長の目が更に細まる。
「ふふふ。これで貴方は私と「同じ」景色を覗けますよ。...寂しくはないでしょう?」
もう一度、彼女を寝台に寝かし、上から見下ろす。
影のかかる男の表情は、誰も見ていなかったが、亡霊達がすくみ上がる様な目をしていた。
「私と共に....永遠を。」
黒炎が男の全身を包み込み、小さな火種を残して消えてゆく。
「夢でお会いしましょう。」
部屋の灯りが、全て暗くなり、彼女の静かな眠りの音だけが響いていた。




