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冥府の先まで 〜記憶喪失なんだけど、闇も執着も底が見えない男に捕まった〜  作者: アマヤドリ


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13/40

ジゼルとレリアのお手紙騒動①

1章の中の出来事の一つを、前編と後編に分けました。


小話で少しコメディ要素があります。



-------ある、霧の晴れない暗い朝の事。


この城で働く1人の幽霊が、北棟の階段を登り、レリアのいる一室へと足を運んでいた。

...正確には、足は地面から少しばかり浮いているが。



幽霊の名はジゼル。

長年、この城でメイドをし、

今では執事長と同じ立場のメイド長を務めている、大ベテランの女性である。



しばらく、この城には長らく客人も女性もおらず、主人の世話は基本的には執事であるルパートが、行っていた。

レリアの存在はメイドのジゼルにとって、自分の仕事を最大限生かせる、まさに輝かしい存在であり、分け隔てなく優しく、努力家な彼女の性格も相まって、ジゼルはレリアの事をとても気に入っていた。



その彼女から、昨日どうしても体内時計ではなかなか起きれないため、起こして欲しいと相談を受け、快くジゼルは引き受けた。レリア曰く、朝早くから蔵書の場所で自学したいとの事だった。



彼女の部屋の前に行き、金縁の重そうなドアノッカーを鳴らそうとした時だった。




扉の前に、一枚の紙が落ちているのを見付けた。




「...?」

ジゼルは落ちていた手紙を拾い上げる。


そこには簡潔に、文字が書かれていた。






-------------------


好きです。


レリア


------------------




「...。」



まだ歪なこの筆跡は、間違いなく彼女。

咄嗟にジゼルは、手紙を胸に抱える。



(こ、こ、これは恋文...?!)



まさか…主人以外の誰かに、心を寄せる事態が起きているのか。

滅多な事では動じないジゼルの頭は、真っ白に染まった。


不味いどころの話ではない。

幽霊のため、元から青ざめている顔が、更に青くなる。


もし、これを城の主人以外に渡そうと、彼女が考えているのであれば...手紙を送られた哀れな幽霊は、文字通り、火炙りにされるだろう。




いや、もしかしたら、主人に渡す可能性も考えられるが…。

(ですが、レリア様からは、まだそのような気配は感じられませんし…。)



周りに誰もいないかを確認し、

念のため、もう一度手紙をみてみるも、やはり宛先は誰かは分からず、内容に変わりはなかった。



(レリア様には悪いですが、誰にお渡しするのかだけでも…)






その直後、扉のドアが開き、彼女が顔を覗かせる。


「あ、ジゼルさん!」

彼女らしい、溌剌とした声が聞こえた。


「すみません、今朝、ベッドから落ちた衝撃で起きちゃいました。」

来ていただいたのに、すみませんと、素直に謝罪する彼女。


いつもならば、スマートにいえいえと、首を横に振っているかもしれないが、

今のジゼルにそんな余裕はなかった。



「…?どうかしましたか?…あ、その手紙!」

胸に抱きとめていた手紙に気付いて、レリアが声をあげる。


「ジゼルさんが、拾ってくださってたんですね。ありがとうございます!」

真っすぐ曇りない笑顔で感謝を述べられる。

そう言われると、渡さざるを得ない。


ジゼルは、レリアの前に手紙を差し出した。





「実は、ジゼルさんの他にも、手紙のやりとりをして練習してる方がいまして…。」

にこにこと晴れやかな笑顔を浮かべながら、やり取りしている相手がいるのを教えられる。



「クルルという、ここで働いている方なんですが。きっと返事を待っていると思いますから、ちょっと早速行ってきますね。」




主人であってくれというジゼルの願いは虚しく、レリアは、火炙りになるかもしれない男の元へ向かっていった。



------------------




小走りで、クルルという名前の男の元へ向かうレリア。

ジゼルは気配を消しながら、彼女の後をついていく。



(確か、最近料理人として入った、見習いの男だったはず。)


だが、それ以上の情報が思い出せず、

取り合えず彼とレリアの関係が、本当に手紙をやり取りする、友人の様な関係なのかを確かめなくてはならない。



やがて1階の台所の扉が見えてきた。

その近くに、1人の幽霊が野菜のかごを運んでいる姿が見えた。

背の高さは彼女より少し高いぐらいで、年も同じくらいに見え、

若くして、その幽霊は亡くなったのだろうというのが伺える。




「あっ!クルルさん!」

ぱたぱたと、彼のもとへと走り寄る。



「はい、これを。」

ジゼルの前でクルルという見習いに、手紙が渡った。


彼からはジゼルの事が見えているため、なぜレリアに引っ付いているのか分からない様子だったが、とりあえず彼女からの手紙を受け取っていた。



「じゃあ、またお返事待ってます!」

では、また明日の昼頃に、会いましょうね!と言いながら、廊下の奥へと消えていった。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



ジゼルは、彼女が去ったのを見計らい、クルルの前に姿を現す。



「あの…自分、何かしてしまったのでしょうか?」

素朴な顔立ちの青年の幽霊は、ジゼルが何故怒っているのか分からず、ただ首を傾げていた。


「彼女…レリア様と手紙のやり取りをしているというのは、本当ですか?」

「はい。そうですが??」


それが何か?と言わんばかりの彼の態度に、ジゼルが深いため息をついた。



「…どんなやり取りをしているか、洗いざらい全て今ここで吐きなさい。」

「なぜです?ただ、文字の練習に付き合っていただけですが??」


「貴方の魂を守るためでもあるんです!!」


あまりに真剣なジゼルメイド長の姿に、圧倒されて、クルルは黙ってしまった。





「いいです?事と次第によっては…。」






ーーーーーーー「・・・・事と次第によっては、何ですか?」



ジゼルの言葉は長く続かず、

彼女の背後から、今は絶対に聞きたくなかった、冥炎の主の声が寒々しく聞こえた。

後編もお楽しみください。

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