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冥府の先まで 〜記憶喪失なんだけど、闇も執着も底が見えない男に捕まった〜  作者: アマヤドリ


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12/44


霧が少し晴れて、雲の間から月明かりが漏れる夜。

石畳みを下る足音が、1人分聞こえていた。



「あー!やっばり外の空気は違うなー!」



レリアは喜びの声を上げながら、念のためと持ち歩いている蝋燭を、今夜はランタンに入れ、シルドと待ち合わせている場所へ向かう。




久しぶりの外歩きに、幽霊はいるも、やはり心が踊る。この前の事があって、城の中でも外でもマッチョさんが護衛を進んでしている。

ちなみに、本日の護衛さんは、エリックとカインという方々。



護衛については、どうやら、シルドさんが言ったらしいが、大人数で取り囲んでくるので、いかんせん視界の筋肉暴力が凄かったし、何より申し訳なくて...。

人数を減らして欲しいと頼むと、仕方なく、すごすごと2人ぐらいまで人数が減った。




相変わらず、筋肉の祭りはしてくるが、彼らなりに、知らない幽霊が近づいてくると、素早く待ったをかける護衛らしい一面もちゃんとある。




ようやく待ち合わせの、白い木に到着した。

すると、エリックとカインは、空気に溶ける様に見えなくなっていった。恐らく、私から見えなくなっただけで、近くにいるのだろう。



(ここで、私は目が覚めたんだよね。)



木の葉も、花も、すっかりなくなっており、

起きたばかりの日々が、遠く感じてしまう。





「あれ?これって....。」

レリアの木の下に埋まったままの、自分が起きた棺桶が残っていた。


よく見ると、木の後ろに同じ様な棺桶が、もうひとつ並んでいる。



(色も似てるけど、こっちの方が大きいなぁ。これも、シルドさんが作ったのかな?)



もしや、これから来る人?いや幽霊用かな?

しげしげと眺め、再び視線を上げると、ふよふよと周りで遠巻きに見ている幽霊も、いつの間にかいなくなっていた。


どっかいっちゃったのかな?と思っていると...。





「お待たせしました。」




「?!」

心臓に悪い登場の仕方をされたが、木の近くからシルドが顔を覗かせていた。


顔を見ると...笑っている。

恐らく自分を驚かそうと、気配を消してこっちまで来たなとレリアは推測した。



ジト目でシルドを見る。

「ふふ、失礼しました。」と涼しげな顔だ。

ここ最近、彼は私を驚かす事に余念がない。


(やっぱり、その趣味はどうかと思います。)

今日こそは驚かないぞと決めていたのに...!と、

悔しげに、レリアはシルドを見上げていた。




------------------..



「さて、外回りをご案内しましょう。

こちらへ」

促され、隣に並ぶ。自身の首が痛みそうなぐらい、身長差があるが、見下げる彼も同じなんだろうなと思う。


「では、行きましょう。」

さくさくという小気味良い音をしながら、進んでいく。歩幅が大分違うのにも関わらず、自分が遅れないのは、シルドが歩調を合わせてくれているからだと、最近気付いた。



「ここ暫く、城の中ばかりで、退屈だったでしょう。」

「いえ、そんな事はありません!

最近、文字が書けるようになったので、お城にいる幽霊さん達と沢山交流出来て、楽しいです!

掃除のコツとかも、教えてもらえますし。」



本当に、ここで過ごす日々は毎日楽しいと感じている。

あと少しで去らないといけないのを、惜しく感じてしまうぐらい、レリアの生活は充実していた。



「そうですか。貴方はやはり適応力が高くていらっしゃる。」

突然シルドに褒められて、思わず頬が赤くなる。


「ありがとうございます。」

「シルドさんも、お仕事の合間に、文字の練習に付き合って下さって、感謝しています。

残り1ヶ月ぐらいになるかもしれませんが、よろしくお願いします。」


島の海岸線近くを歩きながら、レリアはシルドと話しを続ける。




「...ええ、こちらこそ。楽しい時は、あっという間に過ぎていくものといいますから。」


ふいに、隣にいるシルドが歩みを止め、レリアに視線を真っ直ぐ向ける。


「貴方がいてくれるだけで、私も毎日が色鮮やかに見えます。早く城に帰りたいと、願っていますから。」


そう言われて尚のこと、レリアの顔が耳まで赤く染まった。



隣の彼の顔を直視出来ず、レリアは目を逸らしてしまったが、そのうち、ふふっと笑う声が聞こえてきたため、ちらっと上を見ると、案の定、目を細めて笑っていた。


「もう!」


(か、勘違いしそうになる...。)

火照る顔に、夜の冷んやりとした空気が、心地よく頬に流れていく。



(顔も悪く無いし、性格も優しいし。

...意地悪な所は、まああるけれど。

お付き合いされる方は、今までいなかったのかな?)


そう言えば、私が使っている部屋...女性部屋で到着した時から手入れがされていた....。


(まさか、過去に別れた人でも...!)


女性に慣れた様なエスコートや、言い回し。

間違いない!



ぴーんと、レリアは冴え渡る自身の考えに拍手した。



そんな彼女の様子をみて、また変な事を考えているなと、シルドは小さなため息をついていた。




「...良ければ記憶が戻るまで、此方にいていただいても構わないのですよ。」

「いやいや、そんな!

お世話になりっぱなしになっちゃいますよ!」


流石にこの島では、自分がお荷物である事に変わり無い。それに、レリアはあくまで、ここでは居候という考えだった。



「シルドさんにとって、ここは大切な居場所なのは、分かります。だからこそ、私も、記憶がなくても、自分の居場所を見つけたいんです。」



まだ、頑なな彼女の気持ちに、

シルドは、口元の笑みを壊さず、目だけを細めていた。



「そうですか...。もし、気持ちが変わったら教えて下さい。」

残念そうなシルドの様子に、レリアはそのぐらい、自分との距離が縮まっていたというのを、少し嬉しいと思っていた。




---------------



暫く散歩を続けた後、はじめに待ち合わせた木の近くに戻ってきた。



「...ここへ。」

シルドの言葉と共に、先程の護衛さん2人が自分の後ろに立つ。


「では、今夜の散歩はここまでにしましょう。」

シルドはそうレリアに伝えると、外していた外套の頭を被せ、彼女の正面に立つ。


「私は、用事を済ませて戻ります。もう夜更けですから、先に寝ていて下さい。」


「はい、分かりました。お仕事気をつけて下さいね。お休みなさい。」


「えぇ、良い夢を。」


手を振って、レリアはシルドと別れを告げ、護衛の幽霊と共に、城へと戻っていった。





-----------------------




彼らの姿が見えなくなり、静かな気配の中、唯、夜風が耳を掠めていく。




「...いつか、同じ時に眠りたいですね。」



2つの棺桶を見つめながら、控えめに呟く音が儚く消えていく。

未だ独りよがりな願望を、共に出来るかを思案する男の横顔は、酷く寂しげだった。





だが、それも一瞬の事。

男の持つ杖が、ギリギリと音を立てる。

尋常ではない、手の力が、杖に伝わっていた。





「...外に行きたがるのは、彼女の定め。ですが、この地を永遠に去る事は許さない。」

そう言うと、感情が昂るまま、杖の下を地面に叩きつける。



「ならば...。」


深淵から出てきた幽鬼の様に、全身に黒い炎が吹き上がる。




「...否が応でも「居場所」とやらを、作ってさしあげましょう。」




彼の気性が乱高下するので、書いていると自分の気持ちも乱高下しそうです。

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