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冥府の先まで 〜記憶喪失なんだけど、闇も執着も底が見えない男に捕まった〜  作者: アマヤドリ


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11/41



---------------------



「...ん....はっ!」



がばりとレリアは寝台から勢いよく身体を起こす。


辺りを見渡し、薄暗い、いつもの見覚えのある部屋の空間にいると分かって、ほっと胸を撫で下ろした。




「...夢...?」



夢にしては、随分とはっきり頭の中で記憶に残っていた。



(一体何だったんだろう。)


男の子と、自分が成り代わっていた少女は、あの後どうなったのか、少しだけ気になるが、夢で続きが見られるとは思えない。



それに...





------「約束」





その言葉が、妙にまだ胸をぐずつかせる。 


シルドと最初に出会った際、自分の名前を思い出したら、教えて欲しいという約束を思い出すも、それとは違う「約束」の響きを、何か知っている様な気がする。




(...うーん。唯の考えすぎ?

それに、寝過ぎたのかな?...頭が痛い。)



そんな、ぐらぐらする頭に鞭打って時計を見てみると、どうやら随分と寝過ごしてしまっていた。


(もう昼だ...。)



昨日の落ち込んでいた気持ちは、何処へ行ってしまったのか、2食も食べ損なってしまったと、食いしん坊な思考が頭の中で叫んでいた。




レリアは、布団から身を出して起き上がる。






机に昨晩置いてあった料理は、いつの間にかなくなっていた。


食べれなくてごめんなさい、と言う気持ちでいっぱいだったが、とりあえず、気持ちを切り替えて、支度を大慌てではじめた。


(昼食を食べにいくか、作るか、料理番の幽霊...ルークさんに尋ねてみよう。)






支度を終え、燭台を持ちながら勢いよく扉を開ける。





「え」





なんか同じ様な反応をした事が...あったなと思いつつ、そうも言いたくなる光景が広がっていた。





自室の扉の前の廊下に、びっっっしりと幽霊達が集まっていたからだ。





「い、一体、どう言う事なんでしょうか...。」


今から何か、廊下で儀式か何か始まるのかと、

訳が分からずに戸惑っているレリアに、突如転機が訪れる。




「昨日の出来事もあって、皆さん心配で様子を見に来ていたんです。こんなに集まってくるとは、私も想定していませんでしたが。」



「⁈」



開けた扉の横から、声が聞こえて、レリアは驚きのあまり、固まっていた。


聞こえた方に視線を向けると、自室近くの壁に少し寄りかかっていた身体を、すっと戻すシルドの姿があった。どうやら、自分が起きるのを待っていたらしい。



「...はじめからいました。

流石に今、揶揄おうとする気持ちは、ありませんよ。」

レリアの驚き様に、シルドは釈明を述べた。



そして彼女に近づくと、何やら手にある物を渡してきた。



「はい、これを。蝋燭はお預かりしますから、読んでください。」

「...?」



シルドから手紙の束を渡される。



とりあえず、かさりと、1番上から読み始めた。



ーーーーーーーーーーーーーー


「大丈夫ですか?

無理しないで下さい。」


「掃除は任せなさい!

今日は寝てなよ。」


「怖いなら、俺たちが窓の向こうにいるから、いつでも呼んでくれよ。」



ーーーーーーーーーーーーーー


「これって...。」


読み進めると、自分に宛てられた手紙だと分かった。

どれもこれも、自分を気遣う物ばかり。




「昨日の貴方の姿を見て、彼らが貴方を慰めようと、ここで待っていました。まだ伝える手段が文字だけなので、手紙を渡して欲しいと。」


「...皆、心配していましたが、貴方なら立ち直れると、信じてもいました。」



周りの幽霊達も、うんうんと頷き、彼の言葉に同意している。

ここにいる幽霊達は、本当に優しい人達ばかりだ。

勿論、シルドさんも。



「ごめんなさい皆さん。シルドさんも。

...それから、ありがとうございます!」


もう元気になりましたからと、レリアは笑顔で答える。




その直後、お腹が盛大に鳴り響いた。

誰かは、皆直ぐに分かった。




レリアは恥ずかしさのあまり、顔から火が出るほど赤くなるも、自分を囲む彼らが、肩を震わせて笑っている様は、不思議と温かな気持ちにもさせてくれた。



「では、昼食を食べに行きましょう。

…お手をどうぞ、お嬢さん。」



「...もう、さっそく揶揄わないで下さいよ。」

レリアは、怒るではなく、楽しそうにシルドに言いながら、差し出された手を取った。






すっかり元気になったレリアは、夢の事など忘れて、彼女にとっての現実の世界に足を踏み出した。






------------------------









ーーーー時は遡って、彼女がまだ起きていない頃の出来事





男は「収容所」と呼ばれる、悪霊になりかけた亡霊を閉じ込めている場所にいた。



収容所は薄暗く、深く地下に螺旋状に続いており、錆びついた檻が並んでいる。

捕らえた者を逃がさないように、檻は常に黒い炎に覆われ、時折、亡者のうめく声や慟哭が冷たい石壁に木霊していた。



そんな中、囚われていない亡霊たちが、何やら忙しそうに動き回っている。


「●●●!」

「はい…例の彼ですね。どうぞ此方へ。」

その言葉と共に、重苦しい音がして収容所の両扉が開かれる。



「ちっ、くそ、離せ!!この野郎!!」

暴れている亡霊の腕を、体格の良い亡霊2人が抱え込みながら入ってきた。



「あいつは、俺の物だ!!!」

「なのに…あぁ…くそっ!あんな野郎と…!」

「俺は悪くない…。悪いのはあいつらだ!!!」

髪を振り乱し、窪んだ眼はギラギラと、何かに飢えているようだ。


「戻ってくれば、許してやってたのに。」

「あいつを…あの女を…馬鹿な所も…全部、ぜんぶ、愛していいのは俺だけだ!!!」


暴言を吐き続けながら、未だ抵抗を続ける亡者は、引き摺りながら彼の前に連れてこられた。



罪人として裁きを待つ身の亡者は、胸の中心がひび割れ、

時折隙間から、黒い汚泥の様な液体が垂れていた。


「…おや、随分と呪いが濃くなりましたね。愚かさも此処まで極まるとは。…魂の消滅をお望みで?」


男は、彼の胸のあたりを見つめながら、冷たく言い放つ。


その言葉に、亡者は怒りで歪んだ顔を男に向け、唾を吐きつける。

だが、飛沫は男の顔をすり抜けていき、石畳へと消えていった。


「おや、随分と情熱的な方ですね。」

男は、不自然に口元だけ笑っている顔を亡者に見せたあと、瞬時に真顔に戻り、眼光を鋭くさせる。


拘束を続ける幽霊に、空きが出来た牢に入れる様に伝えた。

それを聞いた亡者の顔が、さらに歪になる。



「くそ、くそくそっ!くそ!!離せ!」

再び亡者は引き摺られ、螺旋の暗がりへと空しく消えてゆく。



「…では、さようなら。」

男は亡者の姿が見えなくなるまで、じっとその背を眺めていた。


その姿を見て、1人の幽霊が近づく。


「●●●?」

「何ですか?…別にあの悪霊堕ちが、気になるわけではありませんよ。」

「●●●。」

「…見送るのが珍しい?…いえ、なんといえばいいか。」



「あんな愚か者でも、私が少しばかり共感できる事がありまして。」




「…?」






「   彼女の全てを  愛していいのは  私だけだ   」



男の呟きは誰にも聞こえず、底の見えない螺旋の穴へと吸い込まれていった。


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