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冥府の先まで 〜記憶喪失なんだけど、闇も執着も底が見えない男に捕まった〜  作者: アマヤドリ


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10/42



ーーーー北の棟の一室、霧が珍しく晴れた日の夜。



「・・・・・・・・。」


寝台の上で、大の字になってレリアは寝れずにいた。

無理もない。あの炎の光景が、目に焼き付いて離れないのだ。


ふいに、炎の色が黒ではなく、紅蓮に染まる光景が目の前に広がったような気がした。


目をこすると、いつもの寝台の綺麗な天井が見えるだけで、気のせいかと目を細める。


「はぁ…。」

レリアは深く溜息をつく。


お腹は空いているのに、あまり食べる気はせず、すっかり料理は冷めてしまい、そのまま机の上に残されていた。


(情けない…。)

元気は自分の長所だと思ってたけどなと、レリアは感じていた。


(…明日からは、「いつもの」自分に戻らないと。…いや、でもいつもってなんだろう。記憶もないのに。)

どんどん思考がうつむき加減になっていく。




未だ、消沈気味に気持ちを持て余し、寝ようと思えば思うほど、寝れなくなって、ごろりと枕を抱えて、姿勢を変えた時だった。



シルドがくれた蝋燭と、黒い炎が宿る燭台が目にとまる。


穏やかに、小さく揺れるその灯を見て、涙を拭い、自分を慰めてくれたシルドが頭を過った。


(…シルドさん。)

誘われるかのように、寝転んだまま、燭台の方へ手を伸ばす。

そして、指先でちょこんと炎の先端に触れる。


(…熱くない。)

生きているものには、効果がないと、前に彼が言っていたが、確かに仄かに温かいだけで、とくに熱さも、自分に燃え移るような事もない。

なんとも不思議な火だ。



指先に感じる温かさの移ろいが、彼のいたずらを思い出させる。


「ふふっ。」


シルドの笑い方がうつったかの様な、笑みが溢れた。




ーーーー笑っていてください。




私の笑顔が、少なくとも、彼の辛さを和らげるのであれば。



(…少なくとも、彼の前では笑顔でいよう。)



レリアの顔に、明るい日差しが戻り始めたその時だった。


蝋燭の灯りが風もないのに、ぼんやりとゆらいだと思ったら、急な眠気に襲われる。

流石に疲れが限界に達していたのだろう。

レリアは、誘われるがまま、重くなった瞼を閉じた。



(おやすみなさい)



手は、まだ温かさの残る燭台の近くに置かれ、安らかな寝顔で、彼女は眠りに落ちた。




暫くすると、控えめな寝息が聞こえ、カーテンの隙間から星々の光が入り込む。




レリアの近くにある蝋燭の灯りが、先程よりも小さくなっていく。






「…私の魂が、貴方に安らぎをもたらすなら、喜んで傍にいますよ。」


静かな夜の気配に、ささやく声が消えていった。






もう眠りの世界へと誘われていった彼女には、近くから声がするのに気付かず、ぐっすりと深く沈んでいった。





----------------






レリアは視界が白く覆われたと思った瞬間…。




周りはなぜか原っぱや草木になっていて、そこにポツンと立っていた。

青空が広がり、鳥が天高く飛び回って囀っている。


ここはどこ?と、シルドと出会った時の様な、デジャヴュを堪能する事になった。


しばらくすると、突然視界が上下に動く。

遠くの方に城が見えた。何処かで見たことがあるような…。と考える暇を与えてくれない。

なぜなら、自分の視界のはずなのに、きょろきょろと勝手に動く景色に、酔いそうになっていたからだ。


(どっどうなってるの…?これ、夢なの?)


夢にしては景色がはっきりと見える。

レリアは戸惑うも、目を閉じる事も出来ず、ただひたすら視界の暴力(物理)に振り回される


それにしても、なぜか目線がいつもより低い。


まるで、子どもの背の高さぐらい。


(私…、憑依した?それとも生霊???)

よそ様の身体に勝手に入っていたら、ごめんなさいと心の中で呟く。

現在、不法侵入は、したくてしている訳ではないので、許してください。



どうやら、周りを見渡しながら森の近くの草木をかき分けている様子だ。

足元の花を、しゃくしゃくと、こぎみよく踏む音が聞こえている。



しばらくすると森に入った。なおも、がさがさと何かを探すような素振りを見せながら、うろうろとしている。暗かったが、すぐに陽の当たる開けた空間に出た。

そこには、白い小さな木が生え、水色の花が一面に咲き誇っていた。


(この木…名前を借りてる白い木みたい。)

自分の見た木より、随分と小さいが、幹は太く、伸びしろが期待されるような、輝く太陽の祝福を貰って輝いている。



「…ねぇ、そこにいるの、だあれ?」

突然頭に響くような、高めの声が聞こえる。

(!!びっくりした…!えっ?誰の声?)


視界には特に何も見えないが、どうやらこの自分が憑依…?している小さな彼女には、見えているらしい。

「いるんでしょ。お話ししたいの!」




「…。」

がさがさと、白い木の後ろから、観念したように、マントを深々と被ったような布の塊が、のそのそと見えた。全身真っ黒で、表情も何も見えない。明らかに好意的ではなさそうな様子も、この身体の持ち主はお構いなしに、ずんずんと近づいていく。



「あの?…。聞こえてますか?」

「…。」


「ねえ、名前は?」

「…◾️。」

ノイズが入ったように、上手く名前は聞こえなかったが、ぶっきらぼうな返答故、子どもにしては、暗いような雰囲気を感じる。だが、不思議と自分も怖さは感じなかった。



「私はね、◆◆◆◆って言うの。」

どうぞよろしく!と手を伸ばす。


だが、伸ばされた手は摑まれる事なく、空しく伸ばされただけだった。

伸ばした本人は、気にしてはいない様子で手を引っ込める。

物凄いポジティブさ。



「よろしく?」

訝しげにマントから顔の半分が見える。顔からは、何言ってんだ?という表情がみえる。

やっぱり、よろしくはしたくないらしい。


「これが、れーぎって聞いたの!」

「でも、僕と一緒にいると、君もよく無いよ。」

「どうして?」

こてん、と視界が斜めになる。


「だって、僕といると、みんな不幸になるから。」


「ふこう?」


「…不幸。嫌な事が起こるって事。」


(なんか、可哀そう。)

自分を不幸の象徴かの様に語る子どもに、何があったのかは分からないが、少しばかり同情する。



「なんで?私、いま、■に会っていやなことはなかったわ。

きっと、嫌なことがあった時、貴方がたまたま近くにいたからよ。」

(そう、そう。)

うんうんと、自分の気持ちを代弁しているかのように、頭の中で聞こえる声に同意する。

その通り!




「それに、あなたに会う前、私なんて、モリアスにお花をとられたのに、怒ろうとしたら、泣き出したの。メリーがモリアスを泣かすなんて!って、怒られたのよ。しかも、嘘泣きよ!だから、■に会ったから嫌なことが起きたわけじゃないわ!」


「もう、私のせいじゃないのにー!!」

空に向かって叫ぶ子ども(自分?)…。



「…そういう嫌な事じゃない。」

(でしょうね…。)


恐らく、彼が言う不幸とは、もっとネガティブな事なのだろう。

多分、借金、病気とか…死とか。でも、まだ彼女はそんな事に遭遇していないから、自身の最上級の嫌な事が、これだったのかもしれない。




「んーじゃあ、分かったわ!私、また明日、貴方に会いにいく!それで、嫌な事があったら、教えてあげる!」



「なんで、ぼくにそこまで・・・?あったばかりなのに。」

「…?■の事を知りたいから、友達になるのよ!」


だって、貴方も自分のせいじゃない!ってスッキリするでしょ!

と当然かの様に自信満々に言う。


「実はわたし...ちょっと1人でお家をぬけてきちゃったから...お友達、全然出来なくてつまらないの...。

だから、お友達を探しにきたの。」


お友達って、がさがさと探すものなのかという疑問は、純真そうな彼女の手前、胸にとどめておこう。



「でも...。僕…。」

彼の渋る顔を、小さな少女は覗き込むようにして見る。


彼のフードに隠れていた顔が、視界一杯に広がる。


赤い瞳に黒い髪。

黒い髪はありそうだが、赤い瞳はきっと珍しいだろう。



(…もしかして、それが原因で「不幸」の象徴にされているのかな。)



そんな考えを吹き飛ばすかのように、少女が言う。


「貴方の髪色、とっても素敵!赤い瞳は見た事ないわ!まるで、朝に食べたベリーみたいに綺麗ね!」

ベリーかどうかはさておき、自分から見ても、確かに宝玉の様に美しいと思った。



「…そうかな?」

「そうよ!」

綻ぶ様な声色に釣られて、彼の顔に少しだけ笑顔が灯る。



すると、遠くで鐘の音の様な音が聞こえてきた。

「あ、大変!もう行かないと!」


そう言うと少女はスカートの皺を直して、彼と向き合う。


「じゃあ、明日ここで待っててね!私が「不幸にならなかった」って言いにくるから、絶対友達になりましょう!」





「…うん。」



「約束よ!」






ーーーーーーーーーーーー約束






(…変な気持ち。)




温かな子ども同士の友情の場面だというのに、

なぜか締め付けられるような、息苦しさを感じる。




約束と称して、彼女は、もう一度手を彼の方へと差し出していた。



明るい、太陽の様な輝きに見せられたのか、

赤い瞳の少年は、彼女の手に、ゆっくりと己の手のひらを重ね合わせた。





その瞬間、視界がまた真っ白に染まっていった。







彼にも彼女にもまだ謎が多いキャラなので、伏線頑張って回収します。


もっと話が進んだ何話目かで、昔やっていたようなリクエスト募集をしたいと思います。


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