えぴろーぐ。
そして、次の日の朝。
(ふぅ……ペパーミント・ヒーローか……これからも続けなくちゃいけないとなると、けっこう疲れそうだな……でも、DCスクエアもそうそう毎日現れるわけじゃないだろうし……突発的ヒーローショーのアルバイトをしていると思ったほうが気が楽かな……)
英雄は昨日の戦いを思いだしながら、学園への道をてくてく歩いていた。
昨日のデビュー戦のあと、結局、英雄は上機嫌のノゾムから正式に特別風紀委員(それも委員長だ!)にされてしまい、
「とりあえず、ひと晩考えさせてください」
と答えたものの、
PMスーツの成功と英雄の活躍でやはり上機嫌になったサエによって、今日からはGUM製の制服を着ることと変身用のガムを常時携帯することを義務付けられてしまい、いつでもペパーミント・ヒーローとして活躍できるように、あれよあれよという感じで外堀が埋められてしまっていた。
つい先日までの平凡な学園生活はもう遠い日のことのようだ。
ちなみに、PMスーツを元の学生服に戻すには、もういちどガムのフーセンを割ればいいだけだった。
(でもまあ、学生とヒーローの二重生活ってのも考えようによっては悪くはないかな? 失敗はあったけどそれなりに気分は良かったし、ああいうのが嫌いだってわけじゃないし……とはいえ元の普通で、標準的で、ノーマルで、平凡な学園生活ってのも捨てがたいし。どうしたもんかなあ……どっちを選んでも父さんや母さんは別に反対はしないだろうし。ああ、でもノゾムさんとサエちゃんはヒーロー継続派というか強硬派なんだよなあ)
そんな事を考えながら歩いているうちに、学園の正門が見えてくる。
そのときだった。
「キャアーッ!!」
女の子の悲鳴が学園のほうから聞こえてきた。
(ん……? まさか!)
悪い予感が胸をよぎる。
「DCスクエアだっ! DCスクエアが出たぞォ!!」
(ああ、やっぱり……)
どうして、悪い予感というものはこうも的中するのだろうか。
「三年A組の三ツ谷りょう子さんがお化けニンジンたちに囲まれてるぞ!」
(な、なんで、昨日の今日で……)
ぐったりと疲れたように肩を落とした英雄の横を、
「すいませーん! ちょっと通して下さぁーい!」
カメラを手にした制服姿の桜が、
「特ダネ、特ダネ」
と喜々として走り抜けて行く。
「くっ、正義の味方は、ペパーミント・ヒーローはどこだ!」
「現れなくてもいいっ! さあ頑張れ、頑張るんだ、お化けニンジンたち!」
「ツユハル……男として人として恥ずかしくならないのか?」
松竹梅トリオの会話が風に乗ってというより学園のスピーカー越しに聞こえてくる。
「おはようございます、全校生徒の皆さん。秘密結社DCスクエアがまたもや出現いたしました! 実況はわたくし京野美琴が校門前からお送りしております!」
(……やるしかないのか……って、やるしかないんだろうなあ。よし、もう開きなおって考え方を切りかえよう。そう、学生でヒーローっていう、普通じゃなくて、標準的じゃなくて、アブノーマルで、平凡じゃない学園生活があってもいいじゃないか。いやアブノーマルってのはちょっと違うか。って、それはおいといて、そうと決めたからには、学生とヒーローの二足のわらじ、この状況で精いっぱい頑張ってやる! もちろん、DCスクエアから女の子たちも守ってみせるっ!!)
英雄は強く決意すると、まずは学園とは離れた場所へ移動し、あたりに誰もいないことを確かめると、大きく深呼吸。
そうしてからガムを取り出し、口へとふくむ。
PANッ!
そして、英雄はペパーミント・ヒーローへ変身すると、ざわついている校門前へと走り出していった。
「あ、皆さん、ごらんください! って音声だけでは通じませんね! ペパーミント・ヒーローです! ペパーミント・ヒーローが、正義の味方ペパーミント・ヒーローが少女の危機に、学園のピンチにさっそうと登場しましたーっ!!」
みこちゃんのセリフが朝から元気よく学園中に響きわたる。
こうして、ペパーミント・ヒーローこと数破英雄と、ドレスアップ・チャイナドレス・コミュニティーことDCスクエアとの、いつ終わるとも果てない戦いが始まった。
しかし、組織がその根底から倒れぬかぎり、DCスクエアは次々とその魔手を学園の女生徒たちに伸ばすことだろう。
悪(?)の組織DCスクエアを倒し、学園に平和が訪れるその日まで、
負けるな、英雄!
戦え、ペパーミント・ヒーロー!!
( おしまい )