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その さん。

 ここで、ちょいと時間を戻しまして。

 ついでに、場所も校庭に移したりなんかいたしまして。

 甲乙丙学園第1校庭、俗に言うところのグラウンドには5限目に行われる体育の授業をひかえ、ジャージの上下に着替えた生徒たちがぞろぞろと集まっていた。


「しかし2年になってもいつもと変わりばえのしない日々が続くのー」

「平和なことはいいことじゃないか」

「なにふたりで縁側談義みたいな会話をしてるんだ」                    

 会話の順に、梅雨晴つゆはる大助だいすけ松飛台まつひだいさとる竹ヶ花(たけがはな)真友まさともという名の男子生徒で、明るいスケベである梅雨晴、飄々としてつかみ所のない松飛台、何の因果か前記のふたりとつるんでいる竹ヶ花と、さほど共通点などなさそうなのに中学の時からくされ縁で結び付いているこの3人組(トリオ)は、名字の先頭にある文字を使って、周りから『松竹梅しょうちくばい』などと呼ばれていたりする。


 松竹梅の3人は英雄と同じ2年C組で、2年生であることをあらわす乙のワッペン(3年が甲、2年が乙、1年が丙)がつけられた赤いジャージの上下に身を包んでいる。


「いやなんというか高校生活ってのはもっとなんというかドラマチックで面白いものかと思ってたからなあ」

 ツユハルが言い、

「そう言われるとたしかになぁ」

 竹ヶ花がうなずく。


 しばしの沈黙。

「まったくいやになるほど平和だ……」

 空を見上げながら、ツユハルが呟いたとき、

「な、なに、あれ!?」

 誰かが大声をあげた。


「な、なんだ?」

 ツユハルが何事かと空を見上げるのをやめ、他の生徒たち同様に校庭を見渡す。


 校庭中の視線がたどり着いた先にいたのは、まるでマンガの中から抜け出してきたような2メートルに近い背丈でマンガチックな細い腕と脚、そして大きな手と足をもち、巨大なサングラスをかけた直立歩行するお化けニンジンの集団だった。

 そして彼らは巨大な長方形の箱、AI搭載全自動更衣室ジーナ(※ギンナン会長が発注した物でノゾムのところにあった物とは別製品)をかついでいた。


 そして、そんなお化けニンジン達はある標的を目がけて校庭を突き進んで来た。

 彼らが目指す標的とは、2年C組の女生徒、二宮にのみやあい子だった。


 あい子はお化けニンジンの標的が自分と気づくのに、やや時間がかかったが、やはり自分めがけて迫ってくるニンジンたちが不気味なので当然逃げ出す。

 ひたひたと合奏のように足音を立てて、無言で彼女を追いかけるニンジンたち。

 それはマンガの中のひとコマとしか思えないシュールな光景だった。


「ちょ、ちょっと、どうして、あたしばっか追いかけてくるのよ~ッ!!」

 他の連中には目もくれず、自分のみを狙うようにして追いかけてくるニンジンに対し、あい子が悲鳴をあげる。

 そうやって逃げまどっているうちに、あい子はお化けニンジンに包囲されてしまった。


「きゃあああっっ!!」

 たちまち、お化けニンジンたちがあい子をグラウンド上に設置したジーナの中へと押し込んでいく。

 そしてジーナを守るように円陣を組んで、周囲に睨みをきかす。


「なんかの撮影か?」

「なんにも聞いていないけど」

「迷惑配信にしては手が込みすぎだよなあ」

 グラウンド中に困惑が広がる。


「ニンジンのお化け?」

 呆然として呟く竹ヶ花の隣で、

「二宮さん、お昼にニンジンでも残したのかな?」

 松飛台が呟き、

「ん、なんじゃそりゃ?」

 ツユハルが聞き返す。


「あれ、もったいないオバケとかいうヤツじゃないのか?」(松)

「お、おまえ、まさか本気で言ってないよな」(梅)

「本気で言ってたらどうする?」(松)

「友達という関係を少し考えさせてもらうよ」(梅)

「我輩、男の恋人なんか欲しくないぞ」(松)

 すごくイヤそうに、松飛台が答える。


「なんで、より親密にならにゃあかんのだ!」

「相変わらず、アホな会話だな……」

 松・梅のやり取りを聞きながら、ぼやく竹ヶ花のもとに何かが飛んできて、彼の顔に覆いかぶさった。


「ん? なんだ、これ?」

 顔から払いのけて、両手で広げて、それが何か確かめてみる。


「こ、こ、こ、これは……」

 まごうことなきジャージのズボンだった。

 真っ赤なズボンの腰のところには、小さく『二宮』と刺繍されている。


「か、彼女のジャージ……ってコトは……」

 竹ヶ花は、二宮あい子が押し込められた直方体の箱へと目をやった。

「あの箱みたいなのは、たしかAI搭載の全自動更衣室のはずだから、あの中で服を脱がされてるというコトだろうな」

 横からそっと松飛台が呟く。


「どこの世界に着ていた服を外に放り出す更衣室があるんだ」

 あきれたように言うツユハルにたいし、

「そう聞かれたら、いま目の前にとしか答えられんな」

 松飛台はもっともな答えを返す。


「のんきな会話しているばあいじゃないだろ! 助けなくちゃ!」

 駆け出そうとする竹ヶ花を、

「いや待て、竹ヶ花!」

 ツユハルがその肩をつかんで引き留める。


「なんだ、ウメスケ?」

 竹ヶ花が悪友のほうへと振り返る。


「いま突っ込んでいくのはオススメしない」

「なんでっ?」

「助けにいくと言っても無策であのお化けニンジンに向かっていくのは無謀だ、とツユハルは言いたいのではないか」

 松飛台がフォローのように言うと、


「いやそうじゃなくて、このまま待っていれば彼女のセミヌード、もしくはそれ以上のものが拝めるんじゃないかなあと思って」

 ツユハルはどうしようもない理由を口にする。


「セミっていうと、夏になるとやかましく鳴くあの……」

 真顔で答えた竹ヶ花に、

「お、おまえはセミの脱皮を見て楽しいのか?」

 ツユハルが脱力したように言い放つと、

「それはそれで楽しいかもな」

 松飛台が呟く。


「おのれは黙っとれ」

「なんだかよく分からないけど、いまはセミの脱皮に興味はない! 僕ひとりでも彼女を助けに行くぞ!」

 竹ヶ花はツユハルの手を振り払った。


「待てというのに」

 ふたたび竹ヶ花の肩をつかむツユハル。

「しつこいなぁ……」


「いいかい、お竹さん。俺が言いたいのはな、『彼女はいま理由は分からないが、あのお化けニンジンに囲まれた箱の中で服を脱がされている。つまり、しばらくすれば彼女の下着姿、もしくは産まれたまんまの姿が見られるかもしれない』ってことなんだ!」

 ツユハルは竹ヶ花の肩に置く手に力を込めて力説(ただし周囲に聞こえない程度の声で)するが、


 竹ヶ花と松飛台のふたりは、

(うわ、こいつサイテー)

 とあきれ果てた表情で見返す。


「男子としても人としてもあきらかに同意しかねるな」

「そこはなにとぞ同意を!」

「同意なんかできるわけないだろうが!」

 松竹梅がそんな会話を交わしていると、3人とも後ろから頭をピコピコと叩かれた。


「バカモノ!」

 背後からの襲撃とその言葉に3人が振り向くと、そこにはオモチャのピコピコハンマーを手にし、目の部分だけがくり抜かれたとんがり白覆面をつけた灰色スーツ姿の男が立っていた。


「な、なんだ、あんたは?」

 見るからに怪しげな男の格好を見て、3人が異口同音に問う。


「初対面の人間に対する言葉遣いを知らない残念な生徒たちだ……それだけでなく、下着姿やハダカなんぞをありがたがるとは、女性の美しさをでる心もまだまだ未熟・未成熟・発展途上のようだな」

「そーゆーことなら、我輩と竹ヶ花がぶたれるのはスジ違いだ」

「うん」

 松・竹ふたりの抗議を、ウォホンと咳ひとつでしりぞけると、     


「女性の本質的な美しさを体現たいげんさせるものは下着姿でも全裸姿でもないのだっ! さあ、男子のみならず生徒諸君、あれを刮目かつもくして見よ!」

 覆面男がお化けニンジンたちが守る箱、全自動更衣室ジーナを指さした。

 それが合図だったように、どこからともなくドラムロールが聞こえてきて、ニンジンたちがゆっくりとジーナの扉を開いていく。


「おいおいおいおい、真っ昼間からそれはまずいんでな……な、なにぃっ!?」

 うれしそうに声をあげていたツユハルが途中絶句したのにはわけがある。


 そこに現れたものは、彼の想像を絶していたからだ。


 全自動更衣室の中から現れたのは、呆然とした様子の二宮あい子だった。

 ジャージの上下も体操服も身につけていない。

 しかし下着姿でもハダカでもなかった。


 そんな格好ではない代わりに……、

 肩まであった髪は頭の両わきに白いリボンとシニョンで丁寧にお団子にまとめられ、身につけているものといえば、光沢のある青い生地、黒い縁どりの立て襟とももの脇に開いたスリット、全体に渡るハデハデな華と蝶のゴールドによる刺繍、腕よりちょっと長めのラッパ袖。


 それはしつこいようだが例によって……、


「チャ、チャイナドレス!?」

 校庭にいた一同の目が点になる。


「そう! チャイナドレスことチーパオこそが女性の美をその極限まで引き出すスーパーウェポンにしてスーパーフェロモン! これを知らずして、女性の『美』を語るなかれっ!!」


「美か……?」

 ツユハルがあきれたように呟く。


「いや待て、梅の字。古き良き外国映画で、悪党が美女を周りに侍らせている、って光景あるよな」

 松飛台が少し考えてから、ツユハルに問う。


「なんだ唐突に。それがどうかしたか?」

「そういうとき、彼女達が着てるのは、たいていチャイナドレスか水着のどっちかだったりしないか?」

「とととと、とゆーコトは……」

「案外、この覆面の人の言うことは当たってるってこと?」

 と竹ヶ花。


「ウムウム、分かってくれるか、少年たち」

 覆面男は親しげかつ誇らしげに、松飛台の肩をたたいた。


「チャイナドレスの理由はなんとなく分かったけど、なんでこの学校に?」

 竹ヶ花が不思議そうにたずねる。


 その言葉を待ってましたといわんばかりに、

「ふははははははっっ!! よくぞ聞いてくれたっ!! 幹部Jくん、ハンドマイク!」

 覆面男が声高らかに言うと、どこからともなく背の高い別の覆面男が現れて、メガホンタイプのハンドマイクを手渡し、代わりにピコピコハンマーを受け取る。


 ハンドマイクを受け取った覆面男は軽くセキばらいをすると、

「ア、アー、本日は晴天なりトゥデェ・イズ・ファイン。私はドレスアップ・チャイナドレス・コミュニティー、通称DCスクエアの総統Xである。私の野望は全世界にチャイナドレスを広めること。その足がかりとしてこの学園の女生徒の皆さんには、今日よりチャイナドレスを制服として着用していただく! なおこれは番組撮影でもドッキリ企画でもないのであしからず!!」

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