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ぷろろーぐ。

 女子高生、一刀いっとうゆう子はセーラー服の襟と黄色いスカーフ、紺色のスカートの裾をひるがえしながら、陽が落ちた夜の街をひとり走っていた。



(早く帰らないと、椚山くぬぎやま警部が始まっちゃう!)

 彼女は今が旬のドラマ『椚山警部・追跡』を見るために、息を弾ませ、家までの道を急いでいた。


『椚山警部・追跡』とは、最近始まったばかりのアクション色の強い、カーチェイスあり銃撃戦あり大爆破ありという破天荒かつ派手な刑事ドラマで、そのスタートと同時に高視聴率を得ていた。


 ゆう子のお目当ては、ドラマそのものではなく、主役である椚山警部を演じている俳優の青辺あおべ理男まさおだ。

 かつて特撮ヒーロードラマ『銀炎ぎんえんのイグニス』、『超人ナイルガー(ワン)R』に出演して、子どもたちよりも奥様やお姉さまの人気を集めてしまった青辺に、ゆう子も今さらながらハマってしまったくちなのだ。

 番組がスタートすると同時に、高視聴率をマークしたのはひとえにそういった彼のファンが多かったこともある。


(録画予約はしてあるとはいえ、ファンたるものリアルタイム視聴をしないのはコケンに関わる!)

※ゆう子は『沽券こけんに関わる』という言葉と意味は知っていますが、とっさに漢字が出てこなかったのでカタカナ表記でお送りしております。


 おのれの甘さと不運ともいうべきタイミングの悪さを悔やみながら、ゆう子は走る。


 帰宅途中で、親友である桜井さくらいマヤミと巡季めぐるきオリオのふたりと一緒に、ファミレスに入ったところまではよかった。


 ここで時計の針を少し前に戻して。

「久しぶりだね、ここ入ったの」

 ゆう子はファミレスの座席に腰掛けながら言った。


「なになに……今日のおすすめはキャロットケーキか……。ゆう子、挑戦チャレンジしてみたら?」

 オリオが店内のミニポスターを見て言うと、

「キャロットってなんだっけ?」

 ゆう子が聞き返して、

「ニンジンだよ、ニンジン」

 マヤミがそれに答える。


「や、やだよ、あたしニンジン大っ嫌いだもん」

「あっ、そんなワガママ言ってる子にはニンジンがバケて出るぞ~」

 茶化ちゃかすように言って、オリオは胸の前に両手をもっていくと、いわゆる『うらめしや~』のポーズをとってみせる。


「あれれ? ニンジンがオバケになったら、大っきなニンジンみたいのが出て来るんじゃないかなあ?」

 と、マヤミ。

「あのね……オバケなんているわけないっしょ。そんなの、子どもの好き嫌いをなくそうとする大人の陰謀だから」

 ふたりに対して、ゆう子はぼやくように答える。


 そんな他愛たあいもない会話から始まって、

「……そうそう、これはウワサなんだけどね、うちの学校に、ゆう子のお気に入りの青辺理男の子どもが通ってるらしいよ」

「うそぉ!」

「いや、ウワサの段階だからね、まだ何とも言えないんだけど」

「ふ~ん、でも本当にあの人の子どもならかっこいい男性ひとなんだろうな~」

「まだ男と決まったわけではないぞ、ゆう子」

 などとまあ、楽しいおしゃべりを続けているうちに、時刻は『今すぐ帰らないと、ドラマ始まっちゃう』ってまでに進んでいたのである。


 というわけで、ゆう子はファミレスを飛び出すと、マヤミ、オリオのふたりと別れて、帰り道をひとり急いでいるのであった。


公園ここ横切ると、ちょっと早いんだよね)

 朝、遅刻しそうな非常事態に使う近道(ショートカット)へと、ゆう子は足を向ける。


(時間が時間だから、人どおりがないのと暗いのがちょっとなんだけど……いっきに駆けぬけるとしますか)

 そう思いながら公園へと入ろうとして、ゆう子はふと足を止めた。


(?)

 視界のすみでなにかが動いたような気がしたのだ。

 だが、さっと辺りを見回しても、なにも不審なものは見あたらない。


(気のせいかな?)

 とりあえず公園へと足を踏み入れる。

 そして、妙な静けさに包まれた公園の中を進むうちに、ゆう子は異変に気づいた。


 ひたひた。

(?)

 今度は、聞こえてきた音を不思議に思って足を止める。


 ひたひたひた。ひたひたひた、ひたひたひた……。

 足音らしき怪しげな音が姿も見せず、後ろから彼女を尾行つけてきているのが分かった。

 その音はひとつだけではなく、ひたひひたひひたひ……と輪唱を始めるように増えていく。


(ちょっと、なんなの……)

 ゆう子は気味が悪くなったので、歩調を速めた。

 それにつられるように怪しい音のリズムもアップテンポになる。

 ひたひたひたひたひたひ……。

 ゆう子も追いつかれまじ、と速度をさらに上げる。

 ひたひたひたひたひたひたひた……。


(やだ! 気持ち悪いッ! あっ……!!)

 つきまとう不気味ぶきみな音からのがれようと、速度を上げ足元をおろそかにしたのが失敗だった。

 普段ならつまずかないような所でつまずいて、ゆう子は盛大にコケた。


「イタタッ……」

 起き上がろうとして、ゆう子はハッと息を飲んだ。

 薄暗い闇の中で怪しげな影たちが、彼女を遠巻きにして取り囲んでいたのだ。

(!?)


 ひたひた……。

 影がゆっくりと包囲の輪を縮めていく。

 近づいてくるにつれて、影の正体が明らかになる。

「きゃ……きゃあぁぁっっ!!」

 その正体を知って悲鳴をあげたゆう子の上に影たちが覆いかぶさっていった。

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