マリッジプラン
門井「お前は悩み、ないのか? 羨ましい奴だな。」
木崎「お前、いくら同期でも失礼だぞ?」
門井「俺はもう、何がなんだか、人生がサッパリだ。」
木崎「どうした? お前、ホントにどうした?」
門井「・・・・彼女と別れて、・・・・あれから、ずっと、ついていない気がする。俺はもう駄目だ。」
木崎「お前なぁ、・・・・彼女?だっけ?前の女。その女と別れて、もう、五年以上経つぞ? 何年前の話、してんだよ?あと、引きずり過ぎだぞ?」
門井「俺はあの時、結婚していれば、こんなに悩まずにすんだんだ。それなのに、それなのに、・・・・・なんで別れちまったんだ、俺は?」
木崎「知らねぇよ。お前が決めたことだろ?」
門井「木崎ぃ! なんでお前は、そんな悠々自適なんだ? あ? おい? お前! ふざけんなよぉ!」
木崎「悔やみ酒の次は、怒り酒か、・・・・忙しいなお前は?次は泣き酒か?」
門井「俺の事は放っておいてくれぇ!」
木崎「お前は本当に、面倒くさい奴だな。」
門井「・・・・それよりお前ぇ、お前こそ、女っ気がねぇのに、よく元気でいられるな? お前、こっちか?こっちなのかぁ! 俺の事、そういう目でぇ見てたのかぁ!」
木崎「門井。それは昔なら笑って話せる話だったけど、今は、ご時世的にアウトだぞ? 恋愛は自由だし、結婚も自由だ、ただ、お前は俺のそういう対象じゃない。俺にも選ぶ権利はある。」
門井「俺はお前にも見向きされないのかぁ。ああ、悔しい。悔しい。」
木崎「・・・・お前こそ、こっち系なのか?」
門井「俺には選ぶ権利がある!」
木崎「うるさいよ」
門井「なぁ木崎。」
木崎「なんだよ、気持ち悪いな。」
門井「お前、女っ気がないのはいいとして」
木崎「よくねぇよ」
門井「親に結婚しろ、とか、言われないのか?」
木崎「あ、ああ。ああ。そういう話。・・・・・もちろんあるに決まってるだろ。家に帰って、空気が重たい時は、だいたいその話だ。そりゃ、親だって心配するだろう?いい歳の息子が彼女もいなく、一人モンなんだからよぉ。」
門井「お前もか?」
木崎「そういうお前もか?」
門井「うちの親はそんなに言わない。ほら、俺、彼女、けっこう家に連れて行くから。」
木崎「・・・・だからそれ、五年も前の話だろ?」
門井「俺、結婚相談所に登録したんだ。」
木崎「ふぅ~ん。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なぁ、門井、こういう時、どうリアクションしていいか、俺、分からないんだ。」
門井「・・・そうか。」
木崎「話の流れ的に驚いた方が良いんだろうが、別段、驚く話でもないし。そういう奴もいるだろう?・・・だから、リアクションに困るんだ。」
門井「お前は素直でいいな。」
木崎「だからそういうのが気持ち悪いんだよ。でもな、門井。ほら、今、別に、結婚相談所じゃなくても、マッチングアプリとか、街コンとか、色々あるだろ?どうして結婚相談所にしたんだ。」
門井「いや、俺は当然、マッチングアプリもやった。街コンにも行った。相席なんとかにも行った。」
木崎「・・・・コンプリートじゃねぇか。何やってんだ、お前は?」
門井「俺はな、結婚したいんだ。」
木崎「・・・・ドストレートだな。」
門井「お前と違って、俺は、昔から結婚願望がある。結婚して、家庭をつくり、子供もつくり、家庭をつくり・・・・子供もつくり・・・・・」
木崎「わかった。わかった。言いたい事はわかった。お前は結婚したいんだな。」
門井「まぁ、そうだ。俺は結婚したいから、・・・・・彼女と別れてから、結婚する為に、結婚する相手を探したさ。」
木崎「そうか。」
門井「マッチングアプリは、出会える。デートまではいける。けど、結婚となると、ちょっと違う気がした。」
木崎「俺はやった事ないから、分からないけど、そうなのか?」
門井「テレビとか雑誌で、マッチングアプリで出会って結婚しましたとかやってるから、俺もそれを期待してやってみた。料金も、そこそこ、かかる。専用アプリで、メッセージを送るのに金がかかる。どういう訳か、女はタダで送れるが、男は、金がかかる。それってズルくないか?」
木崎「・・・・まぁ。女をエサに、男を呼び込む為の仕組みだろ?」
門井「だからなんだよ。女に真剣さがまるでない。俺は本気で結婚したいと思っているのに、マッチングしてデートする女、ほんとんどが、結婚するつもりは無いと言う。・・・・おかしくないか?」
木崎「マッチングってそういうもんだろ?マッチングは成立しているんだから、アプリが嘘を言っている訳じゃない。マッチングした後は当人同士の問題だから、結婚が目的なのか、セックスだけが目的なのか、それはもう、当人同士の問題として処理してくれ、って話だろ?」
門井「お前、・・・・俺が言いにくい話をズバズバ言うな。凄いな。まぁ、そういう事だ。今はどういう仕組みかは知らん。けど、俺がやっていた時は、そういう仕組みだった。あれだって、俺が、二十代後半ぐらい、三十あたまくらいで、しかも、俺のルックスが良かったからマッチングできたんだ。」
木崎「そうなのか?」
門井「あれで四十、五十になったら、マッチング自体、難しくなるだろう?誰がジジイとマッチングしたいと思う?」
木崎「・・・・だから、マッチングってそういうもんだから。トゥマッチ?トゥマッチ。需要と供給。需要がなければマッチングしないのは当然だろう?」
門井「俺の目的と、女の目的が違うから、マッチングアプリはやめた。あと、街コンも行った。あれはもっとダメだ。」
木崎「ダメなのか?」
門井「お前、世代じゃないと思うけど、ねるとん紅鯨団みたこと、ある?」
木崎「ねぇよ。流石に。・・・・誰がとんねるず、なんて知ってるんだよ。」
門井「それから、パンチDEデート、見たことあるか?」
木崎「マンガトリオなんて誰も知らねぇよ。」
門井「街コンっていうのはな、初対面同士の男と女が出会って、男十人、女十人、とかでな、一人あたま十分前後で、総当たり戦で、短いお見合いをしていくシステムなんだよ。」
木崎「まぁ総当たりじゃないと、全員、しゃべれないしな。」
門井「十人いてみろ、一人十分だとしても、百分だぞ?百分。・・・・一人の女と話す時間が短いっていうのもあるけど、全体でみたら、長い時間、拘束されるっていうのもある。どっちにしてもダメなんだよ。一人の時間は短いのに、全部で長い。・・・・・要するに、印象に残らない会話を永遠、繰り返すだけで街コンが終わってしまうんだ。お前さぁ、十分ぐらいで、相手の何が分かると思う?第一印象だけじゃねぇか?」
木崎「その、第一印象で、知り合うキッカケを作るのが街コンだろ?」
門井「だから、誰も知りあえないんだって。」
木崎「誰もってことはないだろ?」
門井「誰もだよ。誰とも知り合えなくて、金だけ取られて、もうかるのは、街コン主催者だけだよ。・・・・あのなぁ、十分程度で、何話せる?世間話だって出来ねぇよ。おはようございます、こんにちは。好きな物はなんですか?どこから来たんですか?はい、ピピーお時間終了です。おい! まだ、テレクラの方が具体的な話が出来るぜ?」
木崎「・・・・今、テレクラなんて存在してねぇよ。テレクラ自体が博物館行だよ。」
門井「試行錯誤してわざと印象に残るような事をすれば、悪ノリするだけで、印象は悪くなるし、地味に振舞えば印象に残らないし。そもそも奥手の奴は駄目だし。半分、サクラだし。」
木崎「サクラなのか。」
門井「だいたい愛想の良い女はサクラだ。・・・・三回か四回いくと、同じ顔の女がいる事に気づく。向こうも俺に気づいているだろうがな。」
木崎「ああ・・・・・・そう何度も街コンに来る奴がいない、って事だな。だいたい一回で懲りるから。」
門井「六回目くらいで、参加を拒否される。向こうも俺をどっかのスパイと勘違いしているんだろうが、俺は、至って、本気で結婚相手を探しているだけなのに。」
木崎「・・・・・お前も不憫だし、街コンも不憫だな。」
門井「もちろんお前、市が委託している結婚相談事業、知っているよな?」
木崎「ああ。市町村によって違うが、あれだろ?東京みたいに行政が直接、運営している所もあれば、協議会に委託している所もあるよな。俺は、廃品回収とか炊き出しで、お世話になってるけど。」
門井「それは仕事でだろ?」
木崎「まぁ、そうだけど。」
門井「俺は結婚したくて、登録した。」
木崎「そうか。・・・・・でも、結婚相談事業って、やってる割に、そんなに力を入れているようには思えないんだけどな。全面的に宣伝している訳でもないし。」
門井「ああ、そうなんだ。結婚相談事業は、うちの市は、あれだぞ?隔週一回。隔週一回の相談会だけだ。」
木崎「そうなんだよな。あれ、おかしいよな?別に、毎日でもいいのに。隔週一回、ぶっちゃけ、月二回だもんな。」
門井「登録するのに、こっちのプライベート情報を根ほり葉ほり、小一時間ぐらい、聞かれて、写真も渡して。顔と、全身。・・・・それで、登録したら、同じ結婚希望者が乗っているリストを閲覧できるのだが、今時、紙だからな。コンピュータじゃないからな。」
木崎「それは地方自治体によって違うけど、うちは、もっぱら金がないから、紙だろう?」
門井「登録しているのは、男も女も、だいたい三十から上。十万人都市で、男女合わせて、四十人程度しか登録していないんだぞ? それで、結婚相手を選べって、そりゃ無理があるってもんじゃないか?しかも、しかもだ。一年経っても、二年経っても、登録者が増えない。極めつけが、登録期間が決まっていて、時期が過ぎると、延長するか聞かれる。・・・・正直、登録者がいないのに増えないのに延長する意味がない。登録名簿が紙だから、わざわざ仕事を休んで、平日、その紙を見にいかなければならない。」
木崎「行政だからな。日曜日は行政は休みだ。」
門井「取りたくない有給を取って、結婚相談の紙を見に行くんだ。ダメだろ?」
木崎「・・・・・俺は何とも言えない。結婚相談で世話にはなっていないが、他の仕事で非常にお世話になっているから、俺には何とも答えられない。」
門井「行きついた所が、本物の健康相談所だ。」
木崎「市の奴も、本物だろ?」
門井「市のやつは、やる気が感じられない。」
木崎「それはお前の受け止め方、次第だろ?・・・・・・・月に2回しか、やらない結婚相談にやる気を感じるかと言われれば、結婚相談以前に事業としてどうかと思う節はあるが。」
門井「それで、ちゃんとしている結婚相談所に登録したんだ。」
木崎「その、ちゃんとしている、っていうのが、どういう意味かは分からないが、そうなんだな。」
門井「・・・・ま、もちろん身分証明を取って、自分がいかなる人物かを登録する。」
木崎「それは行政の奴とも同じだな。」
門井「だが、登録された情報はコンピュータで行う。紙媒体ではない。ハイテクだ。」
木崎「今の時代、コンピュータを使ったぐらいでハイテクとか言われても、困るのだが?」
門井「いや、だからな。俺が言いたいのは、結婚相談なんてものは、アナログなんだよ。非常にアナログな世界。いろいろ工程を踏むだろうが、最後は、当人同士の気持ちの問題だろ?」
木崎「それは確かだ。」
門井「コンピュータで、こちらが希望する女性を検索できるのは当然。行政に登録してある数とは雲泥の差だ。紙でペラペラめくって、あら、終わり程度じゃない。・・・・・全国区だからな。」
木崎「・・・・チェーン店か。」
門井「いや、チェーン店という言い方はおかしい。会社は一つで、窓口が、各地にあるという感じだ。だから、やろうと思えば、北海道で沖縄の人と、交際が出来る可能性もある。」
木崎「うん、理論上はな。」
門井「登録者数も、一万人、二万人いるようだ。」
木崎「・・・・・それは凄いな。それは雲と泥んこだな。」
門井「もちろん、動いていない幽霊会員もいる。」
木崎「????・・・・・・おかしくないか?お金、払って、結婚相談所に登録するんだろ?お金払ったのに、結婚に向けた行動をしないなんて、おかしいだろ?」
門井「いやぁそこにも、トリックがある。女、無料登録制度だ。」
木崎「女、無料?登録制度!・・・・・・女っていうのは、優遇されているな。」
門井「いや、分かっている。それは俺も分かっている。若い女は、基本、登録、無料なんだ。」
木崎「やはり若い女で、男を釣る仕組みか?」
門井「それは否定しないが、軽い気持ちで登録する女がいる事は事実だ。だが、俺の様に、真に結婚を求める男は、遊びの女はすぐ分かる。こいつ、結婚する気がないってな。」
木崎「お前、凄いな。」
門井「バックボーンが見えないっていうか、薄いっていうか、生活感がないプロフィールが多い。そういう女は、サクラか、無料のやる気のない女だ。・・・・・俺にしてみればハタ迷惑な女だよ。」
木崎「お前にしたらな。」
門井「コンピュータで検索できるだけならマッチングアプリと一緒だ。他に、相談所主催のパーティーがある。まぁ、街コンと一緒だ。」
木崎「・・・・マッチングアプリと街コンを一緒にやっているようなもんか。」
門井「まぁ、その理解でだいたい合っているが、パーティーは、当事者同士が直接、相対する貴重な機会だ。気になっている女性がいた場合、本物に会えるからな。ただ、金を取っている以上、それだけだったら続ける人、いないと思うが、相談所の職員が、評価してくれるんだ。」
木崎「評価?」
門井「パーティーで結果を残せなかった場合、職員が、逐一、評価してくれるんだ。そうしたら次のパーティーでフィードバックできるだろ? 例えば、服装、身だしなみ、会話の内容。そういうのをしっかり評価してくれる。」
木崎「・・・・見た目はまだ分かるけど、話の内容まで、チェックしてくれるのか?」
門井「そうだ。高い金、払っているからな。そのファクトチェックで、だんだん仕上がっていくんだ。」
木崎「・・・・・仕上がる?」
門井「仕上がるんだ。」
木崎「仕上がる?」
門井「仕上がる。」
木崎「あのさぁ、門井。真剣なお前にとっても言いづらい事なんだけど、いいか?」
門井「言いづらいなら、言うな!」
木崎「じゃあ、言わん。」
門井「言えぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
木崎「ジャスティスか、お前は。」
門井「そこは池崎とかサンシャインの間違いだろ?」
木崎「・・・・・・・・・。あのな、お前、無理しているんじゃないか?」
門井「無理だと? どういう事だ?」
木崎「あのなぁ、俺んとこの客に瀬能さんっていう人がいるんだよ。・・・・・女の人なんだけどな。」
門井「婆か?」
木崎「・・・・俺んとこの客が、全員、爺さんと婆さんだけだと思うなよ?俺達より下だ。」
門井「・・・・・・厄介案件じゃねぇか。」
木崎「まぁ。若いのに、生活うんぬんの支援を受けている時点で、お察しする人なんだけどな、ま、とにかく、非常識な人でな。」
門井「社会に出しちゃいけない人だろ?その人。」
木崎「見た目は、・・・・・化ければ、そこそこ。いや、あれは、化けると、可愛いな。いや、とにかく、その容姿の良さを台無しにするくらい、おかしな人なんだ。」
門井「そうか。」
木崎「その人が、俺に結婚する気がないのかと聞かれた事があってな。」
門井「お前、そんな人に心配されているのか? お前も残念な奴だな。」
木崎「いいよ、俺のことは。そん時は、なんで、この人、そんな事、俺に聞いてくるのかな?と思ったんだ。お前と一緒だよ。ある程度の年齢の男が、結婚していないのは、奇異の目で見られるってな。とくにここは都会と違って、古い日本の風習が色濃い部分もあるからな。」
門井「それは当然だろう。その女の人が言っている事は正しい。お前、おかしいよ?」
木崎「俺がおかしいのは、ま、いいよ。今回は。そこじゃねぇよ。・・・・・それで俺は確かに、親から結婚については言われるって答えたんだ。そうしたら、俺には女の影がない。そういうのは女の自分が一番よく分かる。結婚する気があるなら、結婚相談所に登録した方がいい、なんて、今のお前みたいな事、言うんだ。」
門井「いや、だから、その子、正しいよ。」
木崎「入会したら、そのポイントだけ、くれ、って言うんだ。・・・・・欲しいのはポイントで、俺の結婚相談をダシに、ポイントだけ分けてくれって。おかしいだろ?」
門井「・・・・・・・ああ、う、うん。おかしいな。」
木崎「瀬能さんが言うには、俺は、優良物件らしい。俺みたいな、三十前後、そこそこ身長があって、大学も出てて、ま、一流じゃないけど、」
門井「お前、国立だろ?」
木崎「・・・・国立、授業料、安いからな。それに家から近いし。それで役所勤め。完全な優良物件だから、結婚相談所に登録したら、すぐ、女が見つかる。女の方から寄ってくるって言うんだ。」
門井「・・・・」
木崎「それで婚約が成立したら、がっぽりポイントが付与される。・・・・それをよこせ、と。ふざけてるよな?俺の結婚、なんだと思ってんだよ、って思ったんだ。」
門井「・・・・正直、俺は、それを狙っているけど。」
木崎「話に続きがあってな。別に結婚相談所で、婚約が成立したからと言って、結婚は必ずしもしなくてもいいんだ。ま、確かに、結婚相談所に強制させられているわけじゃないからな。だから、婚約が成立したら、破棄すればいいと。そうしたらまたフリーになって、女が寄って来て、婚約が成立して、無限ループでポイントが稼げる、なんて言うんだ。・・・・・・頭、おかしいだろ?」
門井「・・・・・・・頭はおかしいな。」
木崎「結婚相談所内での婚約が成立した所で、それは、法的な制約は受けないかも知れないが、結婚したいから結婚相談所に入会するわけだろ?ルールの抜け穴みたいなのを見つけて、ポイントを稼ぐって詐欺じゃん。俺は詐欺の片棒は担げないって言ったんだ。阿呆な顔、してたよ。・・・・・・ただ、女もある程度の年齢を過ぎると、需要と供給のバランスが崩れて、俺みたいな奴にも、ドサっとお見合い希望みたいのが来るんだって。」
門井「ああ。・・・・まぁ、そのなんとかさんが言う通りだよ。ポイントの粗稼げは論外だとしても、女は、ある意味、男よりシビアなんだ。」
木崎「さっきは、女は無料登録できるって言ってたじゃねぇか。」
門井「あれは若い女限定。・・・・女は物理的な寿命があるから、結婚を希望する女は、男より真剣だ。」
木崎「物理的な寿命・・・?ってなんだ?」
門井「出産年齢だ。特に、初産は若ければ若い方がいい。これは医学的にも明確だ。若い方が出産に対する体力がある。年齢が高齢化すればするほど、リスクが高まる。だから、女は焦るんだ。特に、三十後半。・・・・男は、精子を入れるだけでいいけど、」
木崎「・・・・・それもどうかと思う表現だけど」
門井「女は、受精のタイミングは限られている。そのタイミングで受精して、妊娠して、出産は十カ月後だ。すぐ結婚してすぐ子供が産めるわけじゃない。最短で一年はかかる。一歳、歳を取るってことだ。わかるか?一年分、体にかかるリスクが高まるんだ。いくら医療が高度化したっていったって、出産するのは人間だ。二人目、三人目ならまだ産道が開いているからいいかも知れないが、初産だぞ?・・・・・勤めている仕事だって分からなくなる。結婚、出産は女にとって重大なライフイベントなんだ。そりゃ焦るに決まっているだろ?」
木崎「・・・・・お前、詳しいな。」
門井「当たり前だ。結婚に対する意気込みが違う。ああ、それに、妊娠だってな、うまく行ったらの話だぞ?妊娠はな、精子と卵子が受精して初めて、出来るんだ。」
木崎「お前、理科の授業みたいに話するな。」
門井「精子と卵子に、問題があったら、受精は成立しないんだ。当然だろう? 子供を望むなら、不妊治療をしないといけない。保険の適用範囲でするか、適用外でするか。適用外なら、また、莫大な金がかかる。一千万くらい平気で飛ぶからな?不妊治療の保険適用外は。」
木崎「・・・・そんなに?」
門井「不妊治療で妊娠できれば、まだ、運が良い方で、それだって成功率は低い。卵子の数は生涯個数が決まっているし、弱った精子じゃ、受精できないし。・・・・・難しい問題よ、望まない人間に赤ちゃんが出来て、欲しい夫婦に赤ちゃんが出来ないとかな。」
木崎「社会問題だからな。」
門井「普通に、男と女がセックスしたって、妊娠確率は、確率だけでいったら五十%程度だ。子供が欲しくて、妊娠するには、逆に、大変なんだぞ。」
木崎「・・・・大変なのは分かった。」
門井「そういう三十代後半の、出産も年齢的に大変な時期の女は、高額な入会料金を取られる。需要と供給が逆転するからな。女だからって、優しい世界じゃない、結婚相談所の世界はな。」
木崎「そうなのか。」
門井「・・・・・結婚に真剣になればなるほど、何故か、売れ残っていく。それが、俺は、理解できない。結婚したいだけなのに、結婚が遠のいていく、そんな気がしてならないんだ。」
木崎「あの、な、瀬能さんが言っていたんだが、その評価っていうのか?そのダメ出しが、反対に、結婚を遠ざけているんじゃないのか?」
門井「・・・・・・・・・どういう意味だ?」
木崎「要は、結婚相談所は月額の料金と、その他、サービス料金。一番大きいのが、婚約が成立した時の報奨金だよな。自分達の客から報奨金取る時点で、ちょっと違うかな、とは思うけど、だいたいそんな感じだろ? だから、若い男と若い女で、ちゃっちゃと婚約を成立させちゃった方が金になるんだ、会社としてはな。そうなると、結婚相談の目的と手段が、逆転する。・・・・・こうやったら相手に好印象を与えやすい、婚約の成立しやすいっていう型に嵌めていこうとするんだ。」
門井「・・・・・・・型に?」
木崎「だいたい誰でも言われるアドバイスは同じ。女から嫌がられない最低限で、最大公約数の、アドバイスだ。清潔感を持て、仕事の報酬はこの金額以上の場合だけ言え、低い奴は言わなくていい。身長が低い人間は、なるべく底の厚い靴を履け。スーツはファッションがバレないから、スーツを着てこい。髭は剃れ。髪はサッパリ。来る前に美容院に行け。スマホはいつでも最新に。趣味は、スポーツ系と文科系の両方を用意。料理はしなくても、手伝うと言え。普段から家で料理をすると言え。掃除と洗濯はマメにしていると言え。・・・・・・当たり前に言われるはずだ、って瀬能さんが。」
門井「いや・・・・・・・その通りだ。その女の言う通りだ。」
木崎「情報操作だよ。情報操作。言って良い話だけして、相手に不都合な話は出さない。・・・・ここ、重要で、嘘じゃない。聞かれていないから話していないって言う点だ。それに自分に不利な情報を話す馬鹿はいない。それは切羽詰まった男も女も一緒。そこに真実はない。届かない所で、ジャブの打ち合いをした所で、届かないし、シャドーやっているのと同じ。
若い女が何故、需要があるかってそれは、若さっていう武器があるからだ。若いっていうだけで、パンチが届くんだよ、ここに。それは、男も同じ。優良企業に勤めて年収が何千万ある奴は、それが武器だろ?他が隠れていても、一つ、武器になる物があれば、それで戦えるんだ。・・・・・売れ残り・・・・瀬能さんが言っていたんだからな、俺が言ったんじゃなくて。売れ残っている人間は、武器がないんだ。武器がないから、戦えない。」
門井「俺は・・・・・・武器がないのか。」
木崎「もしかしたら、結婚相談所によって武器を取り上げられてしまっている可能性もある。アドバイスで全部、直されて、本来お前の武器だったものが、見えなくなっているかも知れない。」
門井「・・・・・」
木崎「本当だったらだぞ?結婚なんてものは、昭和以前、仲人さんがいて、本人の意思に関係なく、それもどうかと思う時代だけど、ほとんど強制的に結婚させられていたんだ。・・・・・いや、俺もお前もその世代じゃないから俺にもピンと来ないけどな。瀬能さんが言うにはだぞ? いや、だからな、人を見る目がある仲人の人が、この人とこの人ならうまく夫婦でやっていけるって、客観的に見て、仲を取り持ってくれるわけだ。でも結婚相談所はそうじゃない。結婚を相談したところで、自発的に動かなければならない。そこが違うんだ。その、仲人は、良い所も悪い所も普段のを見て、決めているけど、結婚相談所は、良い所、上辺っ面しか見せないから、反対に、上手くいかないんだ。薄っすら、後ろの、隠している部分が透けて見えるっていうかな、そういう感じ。」
門井「わかる。わかる。俺はわかる。隠しても、隠しきれない、何かが、見えるから、パーティーとかそういうのでうまくいかないんだ。」
木崎「家庭の事情とかおかまいなしだもんな。聞いた話だと、単身親世帯で育ったのに、それをあえて、隠すなんて話も瀬能さんから聞いたぞ?俺は理解できないけどな。」
門井「ああ。・・・・・単身親だと金がないイメージがあるらしくマイナス印象らしい。別に、金、持ってる社長とかやってる片親だっているけどな。表面上だと、そういう印象だから聞かれない以上は答えなくていいなんて話は聞く。片親だから確実に、老後の面倒を見るのが分かるから、それもマイナスポイントらしい。」
木崎「結婚ってさぁ、家と家でするもんだろ?当人どうしじゃなくて。今は、それがハシゴ、外されている感じあるよな?」
門井「家と家で結婚するっていうのは古い考えらしい。当人同士がよくても、家族に、何らかの問題があれば、成約に至らないなんて話も聞く。そりゃあクリーンな家の方がいいよ?でも嫌でも結婚したら家族になるんだから、そういう話は、事前に分かった上で、考えたいよな。なんでもかんでも、今の結婚相談所は隠したがる。嫌な所は黒塗りだよ。割と本気で。まじで。」
木崎「・・・・・いや、瀬能さんの話とお前の話を聞いていると、結婚相談所で結婚について行動していると、どんどん人間性を否定されていく気がして、仕方がないんだけどな。悪い所も、良い風に捉えて、結婚相談できないもんかな?」
門井「それはない。結婚相談所は良い所しか見せない。これは確実だ。」
木崎「お金を払って、人格否定されて、何が楽しいんだ? お前はそこまでして結婚したいのか?」
門井「・・・・・・俺は結婚したい。家族が欲しい。それは譲れない。俺はそういう願望が強いんだ。・・・・・・だけど、なんか、結婚相談所は違う気がしてきたな。金と精神を疲弊するだけで何も生み出さないっていうか、・・・・・・俺は、いったい、何をしているんだろうなぁ?」
木崎「一回、楽になれよ、門井。」
門井「・・・・・・・・・そうだな。俺も、結婚の目的と手段を、どこかで逆転してしまって、間違っていたのかも知れない。」
木崎「昔みたいに、無理矢理、仲人が結婚させていないから、婚姻数も減っているし、それに乗じて、少子化も進むんだ。自由恋愛の弊害だな。・・・・人間は、自由に弱いんだ。強制的に、つがいにしてもらわないと、子孫を残せないんだよ。」
門井「なんだ、急に、科学的な事を言い出しやがって。」
木崎「それか戦国時代みたいに、正室の他に側室を持っていいとかな、フランス、イタリアみたいに、婚外子が当然の国民性じゃないと、無理なんだよ。日本は、とある政治団体みたいに、一夫一妻が家族の形って言うカビの生えた考えを踏襲する人がいるから、結婚して夫婦になって、その上で子供を作らないと、財産とかそういうのが全部、不利になる国だからな。寛容じゃないんだよ、日本は。」
門井「別に俺は同性と結婚するつもりはないが、結婚していない、事実婚の夫婦なんか、一緒にいたって、命の危険性がある時、病院で傍にいられないしな。死んだ後も手続きが面倒だし。夫婦以外の形が面倒なんだよ、この国は。夫婦は、男と女じゃないと駄目だってその政治団体も言っているしな。」
木崎「・・・・つがいになれなくても、夫婦になれなくても、少し寛容な世界であって欲しいよな。」
門井「それはお前に同意するが、別に、俺は、そっちじゃない。諦めているタイプの人間じゃない。結婚して家族を持ちたいんだ。一緒にするな。」
木崎「すまん。悪かった。・・・・・いい話風にまとめようと思ったが、違っていたようだな。」
門井「だからな。結婚を望む人間に、結婚を望む相手を、しっかり、こう、見染めてくれるシステムが必要なんだって言っているんだ。」
木崎「だったらお前、話が戻るけど、高い金、払って、結婚相談所が一番、近道だろ?結婚できる型にハメてくれるんだ。我慢すれば、結婚相手が見つから。型に自分をハメるんだよ、結婚したいならばな。自分を捨てて。それが出来なくて、結婚できないとか、文句を言うのは、また少し、話が違うんじゃないか?」
門井「お前は、正論しか吐かないな!正論マンか、コノヤロウ!」
木崎「男は、若くて、可愛くて、別に何も余計な事を言わない、清楚で、家族もしっかりしていて、そこそこ頭も良くて、お金も稼ぐ、そんな都合が良い女を結婚相手として探しているんだろう?
いるわけねぇじゃねぇか、そんな、都合がいい女!
女だって、年収、一千万、二千万あって、結婚したら仕事をやめて、家事育児に専念したい。でも、家事育児は共同作業だから男もやれ。タバコは吸わない、運動はする、月に何度も外食に行って炊事の回数を減らしたい。そのくせ、なるべく朝から晩まで働いて家にいて欲しくない。広い家が欲しい。ローンはなるべく生きている間で。おまけに、住む家は、実家の近くが良い。子供の面倒は両親がみてくれるから。男の両親の介護はしたくない。
あのさぁ、これ、マッチングすると思うか?」
門井「・・・・・・・」
木崎「結婚できない奴は、夢、見てるんだよ?夢。そんな奴、どこにいるんだよ? 夢。妄想、空想? まだ、瀬能さんの方がマトモだわ。
瀬能さんは、無職で、昼夜逆転していて、毎日、ゲームしかしてないし、料理もしない。ゴミ屋敷だ。結婚するなら、そんな自分を養ってくれる人間で、文句を何ひとつ、言わない。それで、顔は良い男、限定だそうだ。瀬能さんは面食いだからな。
そう、ハッキリ言っているぞ?何が凄いって、何ひとつ、隠さない。隠してない。凄いだろ?いや、頭がおかしいんだ?そんな奴、養う人間がいるか?俺はいないと思う。いや、いない。絶対、いない。
お前は、自分の良い所しか他人に見せてなくて、それで、結婚したいって言っているんだ。それじゃ無理だ。瀬能さんよりズルい。正々堂々としていない。だから結婚相手が見つからないんだ。」
門井「・・・・・・・ああああああああああああああああああああああああああああああああ」
木崎「どうした、門井!」
門井「結婚してぇ。俺は、本当だったら、五年前に結婚しているハズだったんだぁ! もう、遅いんだ。何もかも遅いんだぁぁぁぁぁぁぁ。あああ、結婚して幸せになりてぇんだよぉぉぉぉ、それの何処が悪いんだよぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおお」
木崎「別に、悪いなんて言ってないだろ? 正々堂々と隠さず、結婚相手を探せよ!って言っているだけで。」
門井「俺に何が足りないと思う?なぁ木崎、言ってくれ、俺に、何が足りないから、結婚できないと思う? 金か?金なら、公務員だから、ま、無い方だけど、安定はしている。何が足りないんだ?俺に何が足りないだ、教えてくれよ、木崎ぃぃぃぃぃぃぃぃぃいいいいいい」
木崎「・・・・・あ、ああ。たぶん、そういう所じゃないか?お前、女々しいもん。」
※全編会話劇です