永遠に愛しているから…
ハロウィンの日にだけ会える君
迷子の僕を助けてくれた君にずっと恋してる。
ねぇ、君は誰なの?
「ねぇ、君は誰?」
ハロウィンで賑やかな商店街。
そこでの僕は恋は儚く…美しかった。
橘颯太は、18歳のハロウィンを迎えていた。
「仮装して一緒に出かけない?颯太」
「颯太〜ハロウィンの仮装、ウチとペア組も?」
女子の2人が勇気を出して声をかけるが、
「ごめん、今年も先約がいるから」
颯太はそう言い2人からの誘いを断る。
固まる2人に背を向け教室へ戻る。すると、それを見ていた親友達が次々に声をかける。
「おい!あの二人ちょー可愛くて有名な子だぞ?!」
「いいなぁ、流石モテ男」
教室にいれば、いつも誰かに声をかけられる。明るく、爽やかで、面倒見がよく、笑顔が似合う颯太は、モテてた。しかし、誰も彼を落とせない。
颯太の胸の奥には、誰にも話していない想いがあった
10年前のハロウィン。
人混みに流され、友達とはぐれてしまい、迷子になった幼い颯太を救ってくれたのは、黒猫の仮装をした女の子だった。名を「リア」と名乗った彼女は、ふわりと笑って言った。
「だいじょうぶ。わたしが一緒にいてあげる」
その声は、不思議なほど優しく、あたたかかった。
その日から毎年、颯太はリアに会うためだけに、ハロウィンに足を運び続けた。彼女は黒猫、カボチャ、魔女、天使、お化け、悪魔、吸血鬼……様々なものに仮装した。
でも、どんな姿でも、彼女は確かに“リア”だった。
そして、リアは成長していった。
最初は無邪気な子どもだった。屈託のない笑顔で、
「トリック・オア・トリート!」
と叫びながら手を引っ張ってきた。
けれど、14歳、15歳、16歳と歳を重ねるごとに、リアの雰囲気は変わっていった。目元の色気、立ち居振る舞いの艶やかさ、時折見せる寂しげな表情。颯太は会うたびに、胸が苦しくなった。
彼女は、年に一度しか会えない――幻のような存在だった。
「リアに会える保証なんて、どこにもない」
何度そう思っただろう。連絡先も知らない。SNSも、電話番号も、なかった。
周りの女子からの好意に気づいていながらも、誰とも付き合わなかった。颯太の心には、いつもリアがいた。
「そんな人好きになって楽しいの?一年にちょっとしか会えないなんて…そのヒト別の男の人と遊んでんじゃない?」
そんな事を何度も女子に言われた。そして、だから颯太もウチと遊ぼ?と誘われても颯太は断固として行かなかった。そんな時はリアの笑顔を思い出す。優しくて、儚くて、でも自分だけに向けられる、あの笑顔
「彼女に出会ったから、俺は変われた」
あの夜、泣いていた少年はもういない。自分に自信がなく、教室の隅でうつむいていた彼は、リアと過ごした10年で強くなれた。
そして、18歳のハロウィンがやってくる。
商店街の夜。仮装した人々が行き交い、灯りがゆらめく幻想の街に、颯太は立っていた。
「……来てくれたんだね」
振り返ると、そこにリアがいた。今年は仮装をしていなかった。白いワンピース、揺れる髪、そして――変わらぬ瞳。
リアは笑った。
「10年目だよ。ずっと、変わらず会いに来てくれてありがとう」
「リア……俺さ、ずっと君が好きだった」
夜の風に乗って、颯太の声が響いた。
「でも、わからなくなったんだ。僕は君のことなんにも知らない。連絡先も年齢もどこに住んでるかも…」
颯太は一歩、リアに近づいた。
「僕は君に恋して、10年かかったけど、今日やっと聞くね」颯太はしばらく間を空け尋ねる
「ねぇ、君は誰?」
リアは、そっと目を伏せた。
「やっと……その言葉が聞けた」
風が吹く。リアの髪が揺れ、輪郭がぼやけていく。
「私はね、この商店街の近くで育った女の子。ハロウィンが大好きだったの。でも……11年前に、貴方に会う1年前に私は死んじゃったの」
「……うそ、だろ」
「本当だよ。8歳のハロウィン、友達と仮装して遊んでて、車に……。ずーとひとりぼっちだった。そんな時に泣いてた颯太が見えたの。ひとりぼっちで泣いてるの見て私に似てた。だから、放っておけなかった。それから…私は貴方に……」
「じゃあ、リアは……幽霊……?」
リアは微笑んだ。
「そうだね。でもね、私にとっては……幽霊でも、幻でもいい。颯太と過ごせた時間は、本物だった」
颯太は、言葉を失う。
リアの姿が、ゆっくりと薄くなる。
「来年も、また会えるの?」
リアは、ふわりと笑った。
白いワンピースの裾が風に溶け、リアは夜の闇に消えた。
その手には、もう届かなかった。
《颯太ズVISION》
リアはさ――なんていうか、ずるいんだよ。
最初に会ったのは、俺が8歳のとき。あのときはただの黒猫の仮装した女の子だった。大きな耳のカチューシャと、顔より大きいキャンディバケツ。「だいじょうぶ、わたしが一緒にいてあげる」って聞いてきたあの声が、やけに落ち着いてて、なんか安心したのを覚えてる。
でも、次の年にはもう“ただの子ども”じゃなかった。俺よりちょっとだけお姉さんみたいな空気があってさ。魔女の仮装で、マントをひらっとなびかせながら、にやって笑う。
「今年も来たんだ、颯太」って、なんでそんなに自然に名前呼べるの、って子どもながらにドキドキした。
しかも!年々、リアって美人になってくの。ほんとに。
中学に入ったくらいからかな。俺は中学校でも可愛いって有名なセンパイをちょっと気になるようになったけど、ハロウィンでリアに会うと全部吹っ飛んだ。
髪がふわって風に揺れるだけで、世界が止まる。笑ったときに首筋がちょっと見えたりすると、なんか知らない感情が喉につっかえる。吸血鬼の仮装で、赤いリップつけてたときとか、ちょっと……本気でヤバかった。
でも不思議なのがさ――リアって、綺麗なのに、近寄りがたい感じが全然ないんだよ。俺のことずっと「颯太」って呼んで、俺が1回莉羽と慧(俺のダチね)と商店街に行った時2人はモテるって噂だったからリアが好きになったらどうしようって思ったけど、リアは2人に目をくれず一発目に笑いかけてくれる。どんなに美人になっても、ちゃんと“俺のリア”なんだって思わせてくれんの。
「また会えたね、颯太」
それが、毎年の約束みたいになってた。
みんなの前では俺なのにリアの前では僕になる
大人っぽくなるリアの隣に少しでも見合いたかった。
リアに大人っぽいね、って言われたかった。
ハロウィンって、みんな仮装してるから顔とか雰囲気とか変わるはずなのに、リアだけは絶対わかる。群れの中にいても、一瞬で見つけられる。目が合うだけで、胸がぎゅっとする。
高校に入って、俺はちょっとモテるようになった。自分でも驚くくらい。でも、誰といても、リアのことが頭に浮かんじゃってダメなんだ。
リアの笑い声、手の温度、夜風の中で揺れる髪――どれも、俺の中に焼きついてる。
そして18歳のハロウィン。リアは真っ白なワンピースで現れた。
正直言うと、息が止まるかと思った。もう仮装でもなんでもない。ただ、そこに“リア”がいた。
白い服、夜風になびく髪、透けそうなほど繊細な肌――なのに、目だけは強くて、あったかい。いつもより少し大人びた笑みで「颯太」って呼ばれた瞬間、胸がぎゅうっと締めつけられた。
思ったんだ。俺、10年間、ほんとにリアだけを見てたんだなって。
リアは年に1回しか会えない。連絡先もない。次の年に会える保証もない。だけど、俺にとっては、誰よりも近くて、大事で、愛おしい人だった。
綺麗とか、美人とか、そういう言葉じゃ足りない。
リアは俺の“初恋”で、たぶん“永遠”なんだ。
《リアズVISION》
颯太ってね――毎年、会うたびに変わっていくの。背が伸びて、声が低くなって、目つきが大人びてきて。
だけど、私にはわからないことばかり。颯太がどんな学校に通ってるのかも、どんな友達がいるのかも、誰に恋されたのかも、何に悩んで、何に笑ってるのかも――
私、なにも知らないんだ。
だって私は、年に一度しかこの世界に来れないから。
ハロウィンの夜。その数時間だけの、限られた時間。
その一夜の間に、私は目一杯、颯太を見つめる。声を聞いて、笑い合って、できるだけ覚えて帰ろうとする。時間はたっぷりある。可愛くなって颯太に少しでも綺麗って思われたい。
でもね――それでも足りないの。
1年分の「颯太のこと」を知るには、夜は短すぎる。
颯太が少しずつ変わっていくのを見て、私はきっと恋をしたんだと思う。10歳の颯太、12歳の颯太、15歳の颯太――全部違うのに、全部好き。1回女の子に声掛けられてた。可愛くて足をいっぱい出しててーー颯太は私よりもその子を選ぶんじゃないかって思って怖かったでも、颯太はその子の誘いを断り私の元へ来てくれた。その笑顔も優しさも、温もりも全部が“私の颯太”だった。
でも、本当は「私の」なんかじゃない。颯太は、生きてる。
毎日、誰かと話して、笑って、きっとたくさんの人に好かれて。それなのに、私はその全部を知らない。
「リア」って名前を呼んでくれる颯太だけを見て、私は満たされようとしてた。
ずるいよね。私は幽霊で、ハロウィンしか会えないってわかってるのに。それでも、“颯太の一番”でいたいって思っちゃう。自分でも重いなって思う。
でも、颯太を知ることすらできない。
颯太が、誰を好きかなんて、教えてくれなかった。……教えてくれなくて、よかったのかもしれないけど。
来年も会えるかは、私にもわからない。だけど、願ってしまう。たった一夜でも、また君に会いたい。
もし叶うなら――もう少しだけ、君のこと、教えてほしいな。
《その後》
18歳、リアが消えてしまってから颯太は逃げるように留学を決めた。来年、リアに会えなかったら……
耐えられない。ならば、自分から逃げればいい。”会えない”じゃなくて”会いたいけど会えない”だけ……そう自分に言い聞かせ、渡米した。そして、我を忘れるように勉学、仕事に熱心した。他にもリアを思い出さないようにサッカーに野球、料理に絵画などと様々なことをやったが心には大きな穴が空いたまま。
「何年ぶりだろ……」
颯太は、海外生活を終えて、ようやく日本に帰ってきた。
25歳。アレから7年もたった。
会えないとわかっていても、あの日から毎年、心のどこかで彼女を思っていた。
リア。
もうきっと、会えない。
それでも今日は、渡米の際に持っていった猫のサングラスをかけていた。高級感溢れる背広に空港からそのまま来たためスーツケースを手にして、猫のサングラス……それをいい歳した大人が……それは恥ずかしい、よりも”会いたい”が勝った結果だろう
ハロウィンの飾り付けをされた商店街を初めて1人で歩く。以前より少しさびれて、でも変わらないハロウィンの飾りつけ。
仮装をした子どもたちの笑い声。
お菓子を配る大人。
あのときの景色が、少しだけ残っている。
颯太は、足を止めた。
目の前には、小さな女の子が立っていた。
小さな顔に、ぬいぐるみのような仮装。
その表情は、どこか不安そうに見えた。
「えっと……君、大丈夫?」
颯太が声をかけると、女の子は驚いたように顔を上げる。
その顔には、どこか見覚えがあった。
リアだ。
でも、違う。
その子は、リアの姿ではない。8歳の幼い少女だ。
『生まれ変わってあなたに会いたい』
ーーーまさかね。
「迷子になったの?」
颯太は優しく声をかけた。
小さな女の子が、こっくりと頷く。
そして颯太の顔をまじまじを見る、そして颯太と目が合う。あの吸い込まれるような目……リアだ。
ふと心の中で、どこかで繋がる感覚があった。
言葉を交わすことはなかったけれど、あの言葉、あの笑顔は、目は確かにリアと同じだった。
「とりあえず、噴水広場に行こっか」
迷子の親は大体噴水広場に集まる。そこに行けば何かわかるかも。俺は心の中に不安が募る。
もしこの子がリアの子供だったら…と
それはつまりリアが他の男と結婚したということだ。それは許せない。逃げた自分もリアも……
颯太は小さな手を引きながら、噴水広場へ向かい迷子の少女を母親の元へと送る。母親は見たこともないような人だった。
リアじゃなかった……
良かった、という思いと、会いたかったという思いが入り交じる。
通りを歩く足音が、ひんやりとした夜風に響く。
その少女の顔には、どこか懐かしいものがあった。
おそらく、颯太が見たのはリアの面影。
でも、リアではない。少女がふと、母親の手を繋ぎながら颯太の方へ振り向き、一言。
「……ね、言ったでしょ?」
悪戯そうに、少し何処か悲しうにそう言い少女は前を向いた。
その言葉に、颯太はその場を微動だにせず、ただ静かにその背中を見つめる。
何も答えず、ただただ――見守るように。
読んでくださりありがとうございます(〃∀〃)ゞ
誤字脱字があったら教えて下さると嬉しいです(*^^*)