わたくしのお姉様はなんだかおかしい。
わたくしのお姉様は一般的な人と違い、なんだかおかしいようですの。
よく「攻略対象」、「ヒロイン」、「悪役令嬢」等というよくわからない単語を独り言で言っているのをお見かけするし、婚約者でもない男の子達とよく遊びに行っていらっしゃるの。
私のお友達のお茶会で皆んなにそれとなく聞いてみたら、そんな単語は聞いたことないようなの。また、お姉様は聖女として素晴らしい活躍をしているそうなの。よく遊びに出かけている男の子達は様々な問題を抱えていたようで、それを救った実績があるから、その男の子達とお出かけしても許されているようなの。年頃のご令嬢達はお姉様を嫌っているけれど、お姉様は特別な存在だから仕方ないと思っているようなの。
確かにお姉様は予言みたいにいろんなことを家族に教えてくれて、アドバイスのとおりに行動すると上手く行くから、お父様もお母様も使用人達もお姉様を大事にしていつもお姉様の言うとおりにしているわ。
例えば、いつ頃不作になりそうだから、小麦を備蓄した方が良いとか、あの使用人は家族が病気でお金が必要でスパイだとか、大きなことから小さなことまで言い当てることがあるみたい。
だからお姉様は、みんなに溺愛されている。お姉様の言うことは絶対だし。みんな協力するようにお父様から言われているの。
使用人達もお姉様をいつも優先していて、わたくし達2人宛てのお祖母様からのプレゼントもいつもお姉様が先に選んで、選ばれなかった方がわたくしの元へくるの。
わたくしの婚約者を決めるときも何故かお姉様の意見が優先されていたわ。
わたくしの婚約者のヒューイ様は、凄く普通で普通に穏やかで良い方だから結果としては良かったのだけれど、わたくしが幼い頃から好きだった、幼馴染の侯爵家の息子であるパウエル様(当時はまだお姉様の取り巻きをしていなかった)と婚約したいとお姉様に伝えたら、「絶対ダメよ」と反対されてしまったの。
お姉様曰くイケメン(パウエル様含む)は危険だから、お姉様が上手く手綱を握ってあげる必要があるんですって。
当時素敵な方だと思っていた方々はお姉様の取り巻きをしていて、今となっては、ちょっと気持ち悪く感じてしまい結婚したくない方達だから良いのだけれど。
そういうわけで、我が家ではお姉様の言うことは絶対ですから、いつの間にかお姉様宛の求婚者の中から当たり障りのない辺境伯の跡取り息子のヒューイ様が選ばれたのですわ。
この話からもわかるように、我が家の中では、お姉様>>>越えられない壁>>わたくしなの。
お姉様は、「悪役令嬢系ヒロインちゃんには優しくしなきゃね」とよくわからないことをおっしゃって、わたくしのことをお姉様なりに可愛がってくださっているわ。
でもそれは、わたくしがお姉様の言うこと聞くようにするためであることが、お姉様のふとした時に現れる仕草から感じるの。
全てお姉様にコントロールされている感覚が凄く嫌だわ。
でも、周りがお姉様の言うことは絶対正しいと考えている人ばかりだから、今のわたくしでは、どうしようもないことと思っているわ。
ところで、悪役令嬢系ヒロインちゃんってどういう意味なのかしら?知らない言葉ね。なんだか馬鹿にされているように感じる言葉ね。
そういえば、自由気ままに過ごしているお姉様は、最近苛立つことが多いみたい。何でも、正ヒロイン乗っ取りを企むヒロインのお姉様がいるんですって。お姉様はわたくしに気をつけるように言って下さったけど、何を気をつければ良いのかしら?
いつもお姉様の言うとおりにすれば良いと皆さまおっしゃるけれど、お姉様の言うことは意味がわからないことも多くて困ってしまうわ。
お姉様のデビュタントが近づいて来たのだけれど、まだ婚約者は決まっていないみたい。お姉様は第一王子のアルフレッド様に恋をしていて、他の方々からの求婚は曖昧にかわしているそうよ。アルフレッド様はゆくゆく王太子となり、王となる可能性が一番高い方だから跡取り娘であるお姉様との婚姻はまず難しいはずなのに。我が家は侯爵家だから、跡取り娘であるお姉様は婿入りできる方と早めに婚約をしていなければならないのだけれど、お父様曰く、「お姉様に決定権を委ねるのが一番良いからお前は気にするな」とのことよ。
跡取りであるお姉様の結婚相手が正式に決まらないと、わたくしも嫁ぐことが出来ないから、わたくしの婚約も不安定なままですのに。
最近では、お姉様の評判も落ちてきているのよ。
なんでも、お姉様の他に聖女が現れたんですって。しかも、予言がほぼお姉様と同じ内容で、当たっているらしいの。だからどちらが本物の聖女か教会や王族達が争っているらしいの。
新しく現れた聖女は、下町育ちの笑顔が可愛らしいお姉様と同い年の少女で、お名前は、ユーリ様。第一王子であるアルフレッド様が庇護していて、炊き出しとかをアルフレッド様の私財で行っているから庶民からの人気が高いそうよ。そのため泥の中から綺麗な花を咲かす、蓮華の聖女様と呼ばれているそう。
一方で、わたくしのお姉様は、第二王子のジョージ様が庇護している有力貴族達の支持があり、小さい頃から災害の警告や近隣の国で起きた災害支援を行っていたから、近隣諸国で人気が高いそうよ。いつも気高く、国の政策から民を救うから、薔薇の聖女様と呼ばれているそうよ。
2人とも予言ができるし、甲乙つけがたい人気があるみたいだけれど、2人に共通する難点が一つ。殿方にだらしないらしいの。
2人とも殿方に囲まれてちやほやされるのが好きで、特に、蓮華の聖女様は殿方に対するボディータッチが多いから、ご婦人方や同世代の少女達から嫌われているみたい。
評判が落ちてきているのに、お姉様は相変わらず周りを気にせずに、ユーリ様に対して「ヒロイン乗っ取りを企むなんて酷い!」とよくわからないことで怒ってライバル意識を燃やしていらしたわ。
別にどちらの予言も正しいのならば協力して対応すればよろしいのに。その方が、イメージが良いのにと思うの。
イメージが悪くなっていくのに気にせずユーリ様と男の子達を取り合っているお姉様に不満を持ちながらも、何も対策できない日々を過ごしていたある日、蓮華の聖女様の妹様が尋ねてきた。
「突然ごめんなさい!あたしは蓮華の聖女と呼ばれてるユーリの妹セーラです。貴女と同じく姉に転生した女にあたしの立場を乗っ取られたから、一緒にざまぁしませんか?」
お姉様と同じく頭の可笑しな方がわたくしの元に訪ねて来るなんて、今日は厄日かしら?
とりあえず、お話は聞いてみましょうか。
「セーラさんも立場を乗っ取られたの?それは災難ね。セーラさんは、これから何をするつもりなのかしら?それによっては協力を考えますわ」
「ありがとう!偽聖女達の権威を失墜させたいと思っているの!あたしはこのゲームを転生前に全ルートクリアしてスチルも全回収したから、この後どんなことが起こるか全部知っているんだ。今の聖女達が知らなさそうな重大な予言を大きな舞台でしたいの。きっと、あの女達は慌ててボロを出すし、予言が実現したら、みんなあの女達を本物の聖女か疑うわ。だからあなたには、あたしの舞台を用意することと、蓮華の聖女は実は偽聖女であたしが本物の聖女ってことになるように噂を広めて欲しいの!」
予言だけで聖女の権威を貶めるなんて、杜撰な計画だわ。ですが、上手くいけば、蓮華の聖女が失墜するなら我が家としては喜ばしいことですもの。お姉様も最近は暴走気味で我が家の立ち位置が危うくなりそうな気配があるから、多少疑われた方がお姉様も自分の身を振り返り、立ち振る舞いが改善されるかもしれないから、協力するのも良いかもしれないわ。
「貴女はわたくしのお姉様のことをどうするおつもりかしら?」
「それはもちろんあたしの予言の方が正確であることを見せつけて、力があたしより弱い聖女だと広めるの!あなたのお姉さんは悪役令嬢側の立ち位置だから何とか没落しないように、聖女を名乗っている部分もあるだろうし、聖女乗っ取りを批難するのはちょっと可哀想だから、ユーリだけ、偽聖女と糾弾しようと思ってるよ」
「そうですか、それは安心いたしましたわ。我が家が没落するのは避けたいですし、そのようにしていただけるなら協力もできますわ」
お姉様は嫌いですが、お姉様を公衆の面前で貶めるほど嫌いではないですし、我が家が没落するのは嫌ですわ。上手く立ち回らなくては。
「あなたのお姉さんの聖女乗っ取りにむかついたけど、悪役令嬢の姉なら私でもそうするから大目に見てあげるから安心して!」
セーラさんが聖女のお立場を乗っ取ったと怒っているお姉様を許すぐらい、悪役令嬢は悲惨なことになるのかしら?恐ろしいわね。
「ありがとうございます。ところで、予言をするだけですと、予言する内容によっては偶然や他国スパイと思われてしまい、あまり真実の聖女と思われない気がいたしますわ」
「やっぱり予言だけだと厳しいかな?でも大丈夫!ちゃんと考えはあるから!治癒石って知ってる?パウエルのバッドエンドでのみ出てくるんだけど、それを使えばあの乗っ取り女達と違って治癒ができるから本物かつ他の聖女より格上と信じてもらえるはずだから」
「治癒石?」
「そう、浄化の能力は一定条件満たせば誰でも入手できるし、実際あの女達も、もう入手しているみたいだし。ただ治癒石はパウエルのバッドエンド直前に出るからやり込んでなかったら知らないはず。攻略サイトはすぐに発売元に消されてたから、ほとんどの人は治癒石の存在すら知らないの。あなたも知らなかったでしょ?」
わたくしは転生者とやらではないから知らないのは当たり前なのだけれど、お姉様達も知らないのならば、それは都合が良いわ。昔からお姉様は色々なことに首を突っ込んで騒ぎを起こす方だったけど、最近は目にあまるもの。聖女として格下認定されれば、少しおとなしくなるかしら?
でも1年前に起きた流行病の時に、お姉様が「治癒石が本当にあれば良かったのに」と呟いていた気がするわ。確か、お姉様の取り巻きだった方がお一人流行病でお亡くなりになられた時だったかしら?
もしかしたら、治癒石の存在は知っていても入手方法を知らなかったのかもしれませんね。
「治癒石を使って他の聖女との差別化を図るということですわね」
「そう!治癒石には、確か200〜300人分の治癒をできるだけの力があるはずだから、数人ずつ癒して行けば、長く聖女を続けられるはずよ!」
「まあ!それは凄いですわね。ですが、そんなに凄い力を持つのでしたら、手に入れるのが難しいのではなくて?」
「そうなの!ちょっと入手が難しくて、魔の森に行かなくちゃいけないの。場所はわかるんだけど、攻略対象者がみんなあの女達に取られちゃったから、強い人達に依頼する当てがなくて…...お願い!力を貸して!」
「我が家の護衛を貸して欲しいということですわね?残念ながら我が家の護衛の多くはお姉様と懇意にしているから、治癒石のために護衛を貸し出すとお姉様に知られてしまうわ。代わりに、わたくしは荒事が得意な方達のギルドに伝手があるので、そちらを紹介させていただくわ」
「ありがとう!」
「ただし、紹介をするだけで、依頼料をお出しすることはできないの。お姉様にほとんどの予算がついているから、わたくしには最低限の品位を保てる予算しかついていなくて、自由に出来ないの」
我が家はお姉様を中心として予算が配分されているから、わたくしに割り振られる予算は元々少ないから余裕が無いのです。
「お金は大丈夫!金策は得意だからね。このゲームはすっごくやり込んだから金策の方法いっぱい知っているから」
「そう?それは良かったわ。今紹介状と案内を用意するから少しお待ちいただけるかしら?」
「もちろん!待っているね」
セーラは自分の思い通りに事が進んでいることに満足そうに笑って、普段は食べることができないお菓子を遠慮せずに食べ始めた。
先触れもなく突然来て、ほぼ一方的にお願いをするなんて、図々しい方。自分の願いは全て叶うと信じているようね。転生者と自称する方々はなぜ自分本位な方達ばかりなのかしら?
セーラから見えなくなった瞬間親しげな微笑みを消し真顔になり、そばに居た侍女のエレナを振り返り、指示を出した。
「わたくしの代わりに仔羊と狼亭に紹介状を書いてちょうだい。その紹介状と一緒に、彼女を仔羊と狼亭まで案内してちょうだい。護衛にジョンをつけるから無事に辿り着けると思うわ。服装はそうね...一般人に紛れやすい目立たない品質があまりよくないものが良いわ。ジョンと貴女の分を用意できる心当たりはあるかしら?」
仔羊と狼亭は、裏世界を牛耳る2つのマフィアのうちの1つの巣窟で、お姉様の言動に振り回された結果出会った場所。お姉様は何故か仔羊と狼亭がマフィアの運営するお店と知らないみたいだから、わたくしが利用しているの。お姉様の息がかかっていない人は貴重だもの。お姉様はもう一つの方と仲が良いみたいなのよね。
ジョンは元々は仔羊と狼亭からお姉様を監視するために派遣されたスパイなのよね。お姉様に直接近づくのはお姉様の取り巻きに阻まれるから、わたくしの側に置いて、お姉様の予言を横流しすることを黙認することで良い関係を保っているのよね。
「服の用意は問題ございません」
「それは良かったわ。じゃあ、紹介状と案内をよろしくね。」
「かしこまりました」
余計な口を挟まず、淡々とエレナは動き始めるのを眺めた。
こういう時何も言わずに良い仕事をしてくれるから、
エレナは私のお気に入りですの。エレナは何故かお姉様に嫌悪感を持っているの。お姉様は知らないようだけれど、わたくしは知っているの。お姉様に心酔しきれていない使用人達の扱いが我が家の中では危ういことを。だから陰ながら保護してきたうちの1人であるエレナはわたくしの味方と言えるわ。だから、エレナを見張りにつけて対応をお願いしておけば私の関与が疑われることが無いようにしてくれるはずよ。
それにしても、お姉様の最近の態度は目にあまるから、彼女を利用して上手くお姉様を抑えたいわ。このままだときっと我が家はお姉様のせいで破滅してしまう。今ならまだ間に合うわ。
セーラが1人お菓子を黙々と食べている庭園に戻った。
「お待たせしているわね。まだ準備に時間がかかるからよければ、私やお姉様が知らなさそうな予言を教えてくださらないかしら?」
「ええ、もちろん良いわよ!でもその前にあなたのお気に入りのキャラを教えて!あなたと被っていたら裏切るかもしれないでしょ。女の子って恋が絡むと裏切りやすいっていうからね」
治癒石の話をする前に裏切る可能性を考えた方がよろしいのでは?しかも裏切る要因が恋愛ですって?本当に転生者の考えは理解できませんわ。
「私の好きなキャラはパウエル様ですわ。でもお姉様に盗られてしまって......」
今では好きでもなんでもないけれど、とりあえずお姉様が攻略対象者であると言っていたパウエル様の名前を悲しげに言っておけば無難かしら?
「そっか、それは辛かったね。でも良かった!推しが被らなくて。あたしはジョージ様推しなんだ!」
「そうなんですか。では、私達の共通の敵はお互いのお姉様ですわね」
「そうだね。共闘して、奪い返そうね!」
「ええ」
「全く、逆ハーレム作るなんて酷いよね、あの女達。百歩譲って1人と愛し合っているなら許しても良かったけど、キープしてちやほやされて良い気になってるからちょームカつく!!」
「ええ、本当に」
「あの女ね、あ、あたしの血縁上の姉のことね、最近攻略対象者とか身分とか関係なく男達集めてるんだよね。顔の良い貴族は大抵あなたの姉の虜になっているから集まらないけどさ。革命でも起こしそうな雰囲気漂っているんだよね。おそらく、あなたの姉がいるから貴族に取り入るのが難しくて、下剋上起こして一発逆転狙ってそうな気がするんだよね」
セーラは世間話のようにさらりと重要な情報をこぼした。
革命を起こす?国家反逆をする計画があるという重要な話をさらっと話すなんて、この方に協力して大丈夫かしら?先が思いやられるわ。とりあえずより詳しくお話を聞かなくてはいけないわね。
「まぁ!それは恐ろしいわ」
庶民が革命なんてしても世が乱れるだけなのに何を考えているのかしら。国の統治は伝統や血縁に基づく信頼関係で成り立っている。庶民が革命に成功しても近隣諸国との関係が悪くなって国は立ち行かなくなるだけなのに。何て愚かな事を考えるのかしら。
「本当に恐ろしいし、困っちゃう。フランス革命の二の舞になりたいのかな?フランス革命の時は多くの貴族が処刑されたし、私のジョージ様も殺されるかもしれないからホントにやめて欲しい」
「ええ、本当にやめて欲しいですわ」
フランス革命が何かはよくわからないけれど、革命により貴族(私)が殺されるのはいやですわ。
「革命を止めるためにできることがありましたら、遠慮なく言ってくださいませ。できる限り協力いたしますわ」
「ありがとう!とりあえず、あの女達が聖女ではないかもと思われれば、大義名分がなくなるからきっと革命も中止になると思う」
自分の思い通りにわたくしに協力を取り付けることができて、嬉しそうにセーラさんは笑っている。
そんなセーラさんを冷めた目で微笑みながら、愚かな方だとわたくしは思った。
「お嬢様、準備ができました」
エレナがいつもどおり淡々と声をかけてくれる。
「ありがとう。では、案内をよろしくね」
「メイドさん、よろしくね!」
セーラは無遠慮にエレナに声をかけている。エレナは無表情を崩さずにお辞儀をしている。
エレナは、メイドではなく侍女であり、准男爵の娘で貴族の末席に属している。その事に気づくことなく、無礼な態度をとっている。
「ごめんなさいね。彼女の案内を頼みます」
「かしこまりました」
エレナは、嫌な顔一つせず淡々と一礼をして、セーラを連れて行った。
転生者というものは前世の記憶に引きずられて、無礼な態度をとってしまうものなのかしら?貴族に接する時は気をつけるように親によく言い聞かされるはずなのに、わたくしへの尊重が感じられませんわ。お姉様も王家の方々に接する時は気をつけるように教育されたのに、第二王子のジョージ様を取り巻きにしているようですし。気をつけないと足をすくわれて、大変なことになりますのに。
わたくしもセーラさんに関わることを決めたのですから、気を引き締めて行動いたしましょう。
それにしても、革命なんて頭がおかしいのかしら。貴族社会は血による血縁という信頼関係で成り立っている。だから政略結婚をして裏切れないようにする。それは王族も同じ。近隣の国々の王族は皆血縁関係にある。革命をしてしまったら、血縁関係がなくなるため、信頼関係は崩壊する。
家の隣に誰もが危険な人がいて欲しくないように、近隣の国から危険視され、国はきっと滅びてしまう。
そんなこともわからない者達に国を任せるなんて無理な話なのに、夢を見過ぎだわ。しかも、現時点での平民は識字率も低いし、領地経営すらできるか怪しいわ。それに人というものは一度権力の味を覚えると狂ってしまう。貴族の実情を知っていて庶民的感覚を持ち、権力を持っても自分を律することができるリーダーも聞いた感じだといなさそうね。そんな状況で革命を起こそうなんて頭がおかしいわ。
転生者を名乗る人は常識はずれな所があるようね。私のお姉様は幼少期から上級貴族教育を受けたはずなのに王族と平民の友達同士のような関係になっているようですし。
非常識すぎて困ってしまいますわ。
とりあえず、革命の火種を潰して、治癒石を入手し、陛下に献上いたしましょう。
下手に転生者達の手に治癒石が渡ると大変なことになるわ。
私が持っていても危険ですし、そんな危ない物は王家にお納めするのが一番安全ですわ。
数日後、エレナとジョンから報告があった。
「上手く入手できたかしら」
「はい。何人か負傷いたしましたが、治癒石のおかげで綺麗に傷が治りました。効力は本物のようです」
「そう。後は大舞台を用意するだけね。どこが良いかしら?」
「舞台は建国祭の日の王都の中央鐘楼で聖女様達の挨拶が予定されておりますので、そちらがよろしいのではないでしょうか。貴族はお昼のこのイベントにはほとんど参加致しませんので、警備が比較的薄いのではないでしょうか」
「そうね。警備が少なくてセーラさんがいても違和感がないし、ちょうど良いわ。鐘楼近くの空き家をいくつか名前を出さずに買い取って置いてちょうだい。セーラさんの控室として使用していただくわ」
「かしこまりました」
「それと世論誘導しやすいように、買い取った空き家で密かに数名ほど治癒するようにセーラさんに提案をしておいてちょうだい。1日1名を限度として、当日待機する空き家以外で、毎日場所を変えて治癒をして欲しいと伝えておいて。舞台までに治癒ができる聖女がいるという噂があると効果的なはずよ」
「かしこまりました。お伝えいたします」
「お願いね。後、これはあなた達への報酬よ。受けとって」
そっと小ぶりのダイヤモンドをいくつか渡した。
「ありがとうございます」
感謝で深々と頭を下げる2人を見ながら、ジョンのお金が必要な理由は妹の病だったと思い出した。
「あなたの妹の病も治癒できそうならしてもらいなさい」
妹をセーラさんに治癒してもらえれば、セーラさんに心酔するかもしれないが、今はセーラさんと利害が一致している。治癒を今してもらわないことで、後々のジョンとの火種になるくらいなら、治癒してもらう方がいいわ。
「ありがとうございます。お嬢様」
「わたくしは何もしていないわ。あなたの妹さんが治癒石で良くなる病であることを願っているわ」
お姉様にほとんどの使用人を取られたけれど、それでもなお仕えてくれる使用人はとても貴重だもの。ジョンは利害関係があるギルドから派遣されているとはいえ、しっかりと仕えてくれているから労いは必要だもの。
「建国祭は1ヶ月後ね。それまでに、疑われない程度に革命者達の拠点を見つけられたら教えてちょうだい」
隠れ家の情報の使い道は未定だが、知っておくだけで切り札になる。
王国騎士団に伝えて、検挙してもらうのはどうかしら?はたまた上層部の乗っ取りをすることでわたくしの手駒にしても良いかもしれないわ。
情報の使い道は色々あるもの、しっかり考えないと。
雲ひとつない青空の下で建国祭は開かれた。
朝の部に王城の門の上からの王様の挨拶がある。王族が王城の門に並ぶため威圧感がある。権力の象徴を見せつける行事だ。
昼の部には聖女達の挨拶がある。本来は聖女は1人だがどちらが本物かわからないため、2人で鐘楼から挨拶やパフォーマンスをするらしい。聖女がいない場合は鐘楼の鐘をつき、将来の安寧を祈願するものだった。
夜の部は貴族は夜会が開かれ、庶民は鐘楼を中心にお祭りを開く。
何にせよ1日中忙しい日である。
国王の挨拶は壮観だった。青空に浮かぶ赤色の旗。国王の大きな声ではっきりとしたお言葉。全てが上手く行くそんな建国記念日の始まりを予感した。
様々な思惑の入り混じった今年の建国祭は賑やかな歓声と共に始まった。
貴族達は基本的に国王の挨拶には参加しない。貴族の建国祭は夜会が中心だ。今年は貴族出身の聖女が昼の部に参加するため、一部の聖女に近しい貴族達は昼の部にも参加するようだった。
聖女の妹であるわたくしはお姉様の意向で参加が決まっていた。もっともわたくしは鐘楼の近くにある建物の上級貴族席ではなく、鐘楼の下に広がる広場の一角の下級貴族席から参加するのだけれど。これもお姉様の意向でなるべく平民と同じ景色で参加をして欲しいそうよ。
いつもの事ね、お姉様に振り回されるのは。
でも、そろそろいいかげんに解放されたいわ。お姉様に行動を制限され、囚われるのでは無く、もう少し自分の行動は自分で決めたいわ。
だからお姉様どうか大人しくなってくださいませ。
「ねえ、今日の私はどうかしら?」
お姉様が浮かれながら聞いてくる。
もちろん答えは、素敵です。や、美しいです。の褒め言葉しか求めていない。
「いつもお美しいですが、本日はよりお美しいですわ」
期待に沿うように答えた。
満足そうに「ほんと‼︎」と真っ白な衣装を着て鏡の前でくるりと一回転して嬉しそうに笑った。
わたくしは地味で濃い色合いのドレスしかお姉様が認めないのに、お姉様は明るい色合いのドレスをいつも着ている。どちらが姉だかと陰口を言われているのに気づきもしないおめでたい頭をしている。
お姉様に似合ってはいるので、着る分には特に問題は無いのだけれど、わたくしが桃色のドレスの作成を依頼しようとすると、すかさず、暗めの落ち着いた色合いを勧めてくる。品を落とさない程度に落ち着いた色合いのため、お母様もお姉様が言うなら間違いないわと言って、明るい色のドレスを仕立ててくれたことはないの。
ですがお姉様の意見に流されるのは今日で最後、わたくしはお姉様にコントロールされずに生きていく。そう決めましたわ。
決意を胸に秘め、いつもと違う強い意思のある目をしながらお姉様を見つめた。
お姉様は準備があるため先に行かれた。わたくしも準備をしなくては。
「あの子の準備は整っているかしら?」
「はい。既にご用意致しました家に集っております」
「そう。治癒石は?」
「こちらにございます」
質素な木箱に透き通ったガラスのような石が一つ入っていた。石には金色の鳥の紋章が浮かんでいる。
「気づかれなかったかしら?」
エレナに言ってこっそりとガラスで作らせた偽物治癒石と本物をすり替えさせたのだ。
「はい。万事つつがなく」
セーラの治癒石の管理は杜撰なものだった。持ち運びしやすいようにセーラは巾着に入れて持ち歩いていたのだ。
ただ、ドレスにはポケットは無い。そのため、今日の為のドレスをこちらで用意すると言って着付けを手伝う時にこっそりとすり替えたのだ。
初めての豪華なドレスに浮かれきったセーラさんはまったくすり替えに気づかなかったようね。
鐘楼の上に2人の少女が現れた。
「このような晴天に恵まれた、よき日に、建国記念日を皆さまと迎えられたこと、嬉しく思います」
「みんなが健康で元気に過ごせるようにお祈りします」
「「さあ!皆さまで祈りを捧げましょう!」」
2人の聖女が声を合わせて祈りを促し、それに合わせて集まった人々は一斉に祈りを捧げた。
祈りの時間が終わると、蓮華の聖女ことユーリが前触れもなく急に話し始めた。
「先程、聖女として予言を授かりましたので、お伝えいたします。もうじき王家が滅びます。新しい激動の時代が来ることを予言いたします」
慌てたお姉様はその予言をきっぱりと否定した。
「お待ちなさい!そのような予言いただいておりません。今後も王家は存続し、この国はますます発展すると私は伺っております!」
聖女達の予言が初めて食い違ったことで、鐘楼の前に集まった人々は混乱し、騒ついていた。
ユーリ様の突然の王家の滅びの予言に驚きつつ、セーラさんと話をしなければと思い、広場の中央にいるはずのセーラさんを慌てて探したがすぐに見つかった。
「どういうこと、お姉ちゃん!あたしはそんな予言してないよ!どうして嘘つくの!」
セーラが糾弾するように声をあげた。
セーラの予言者はあたしだと言う言動に対してすかさず、お姉様はユーリに追及した。
「どういうことですの?貴女は聖女ではないの?貴女の妹さんはそんな予言をしてないと今言いいましたわ!」
「私が聖女です!妹がどうしてそんな嘘を付くのかわかりません!」
一気に混乱が広がる。
「お姉ちゃん、あたし、知っているんだよ!お姉ちゃんがあたしを利用して革命を起こそうとしていること」
「出鱈目なこと言わないで!」
セーラの予言を利用しているというところは出鱈目だが、革命を起こそうとしているのは本当なため凄く焦っている。
「お姉ちゃんもうやめて、あたしを守ろうとしなくて良いよ。私を守るために身代わりをしてくれたけど、そんなの望んでいないよ」
セーラはユーリが身代わりで聖女の名乗りをあげたことにしようと、嘘をついた。
聖女の身内が聖女を乗っ取るのはそれ相応の理由があった方が世間体が良い。ちょうどもう1人、聖女を名乗るわたくしのお姉様がいる。その関係を利用しない手はない。
「私の身代わり?いいえ私が本物よ!」
「お姉ちゃんもう嘘をつかなくて大丈夫だよ。私、治癒の力を手に入れたから」
セーラの言葉にユーリが妹思いの優しい姉が妹を庇うために意地で嘘をついているようにも見えた。
「最近噂になっていた治癒の聖女様では?」
市民達が、最近噂になっていた難病や欠損を治してくれる聖女様ではとざわめきはじめた。
「そうです。こちらにいらっしゃる聖女セーラ様は最近治癒の力を手に入れたのです!私の欠けた腕もこのとおり治していただきました!」
目を爛々と輝かせ、セーラの周りを囲む狂信者の1人が袖をあげて見せつけるように左腕を見せた。
彼を知る人は驚きで息をのんだ。
「あいつの腕が本当にある...」
彼を知る1人の男が見せつけられた腕に触り、本物であると宣言したことで、一気にパニックが広がった。
我先に治癒を望む一部の市民が口々に「治癒の聖女様、お助けください。」と群がる一方で、冷静な一部の市民は、疑惑の目を向け嘘をつくなと罵声を浴びせた。
狂信者達がそんな混乱状態の市民をセーラに近づけないように、セーラに背を向けてセーラを囲った。
「何言っているのセーラ?治癒の力?そんな力存在しないはずよ!」
ユーリ様は治癒石を知らないようだった。セーラさんが言う通り入手までの難易度も高く、1つの特殊ルートでしか現れないアイテムのため知らなかったらしい。
一方私のお姉様は治癒石に思い至ったようで、まさかという顔をして、こそこそと側近に話しかけていた。おそらくお姉様は、治癒石を探すように伝えているのではないかしら?
「存在するんだよ、お姉ちゃん。今見せてあげるね!」
「お願いいたします。聖女様!」
狂信者の1人がセーラに心酔した異常な顔をしながら、せっかく治った左腕を勢いよく切り捨てた。
狂信者の周囲の一般人は悲鳴をあげて一斉に後ずさった。
「任せて!」
セーラは自信満々に頷いて治そうとしたが、一向に治らない。
「どうして!?」
焦ったセーラは何度も何度も腕に手をかざした。
腕を自ら切り落とした狂信者も焦ったセーラを見て不安にかられ、「セーラ様?」と呟くと痛みで気絶した。
そんなセーラを見た群衆は一斉にパニックに陥っていた。
鐘楼の中から式典を見守っていた、第一王子が事態を収束するために、鐘楼から2人の聖女と騎士達を連れて降りてきた。
王子はセーラの元にやって来ると、冷静に騎士達に腕を切った狂信者の止血の指示とセーラ達の捕縛を指示した。
ひと通り指示を出すと、よく通る声でキッパリと言った。
「ここは、第一王子であるアルフレッドが対応する。皆、安心しろ」
第一王子の斜め後ろには騎士に囲われたお姉様がいた。お姉様は青ざめた顔をしており、お姉様の後には険しい顔をした取り巻き達がいた。
ユーリ様は捕縛されたようで、騎士団に馬車に連れて行かれるところだった。
お姉様が青い顔をしていたので、驚きましたが、お姉様は治癒石の存在を知っていたわね。もしかしたら治癒石の存在を知りながらも、お姉様が入手方法を知らなかったから第一王子や取り巻き達に黙っていたことがバレてしまったのかもしれないわ。
お姉様がしたことは罪ではないが、取り巻き達との信頼関係や聖女としての信用が落ちる行為であるのは間違いないもの。
ざわめきは落ち着かないが、第一王子が対応をすることを宣言したおかげか、腕を切断した狂信者の応急処置をすることができたみたい。
第一王子は民衆の動揺を収めるために鐘楼の周りを歩き、民衆に声をかけていた。
セーラさんは治癒ができなかったことに焦って狼狽し、座り込んだまま「なんで?どうして?」と繰り返し呟いている。
そんなセーラさんを騎士達が捕獲した。騎士達に無理矢理立たされたセーラさんはふと顔をあげ、わたくしを見つけるとわたくしに無理矢理近づき喚き始めた。
「ねぇ!なんで!どうして治癒できないの?あんた何か知らない?」
わたくしはセーラさんの耳元でそっと黙っていたことを告白をした。
「わたくしが知るはずございませんわ。わたくし、転生者ではございませんもの。治癒石の限界ではないかしら?」
セーラさんがわたくしを転生者だと勘違いするような言動をしておりましたが、決定的なことはわたくしは言わなかったのです。
セーラさんは驚いた表情でわたくしを見つめ、「嘘でしょ」と呟いた。
セーラさんはわたくしが悪役令嬢の転生者だからセーラさんを妬んで邪魔をしたと思ったようですが、当てが外れて驚いたようですわ。
わたくしが邪魔をしたという認識は正しいのですが。
また、わたくしが治癒石の力が尽きたのかもしれないということを伝えたことで、日頃から治癒石の回数を制限することなく求められれば使っていたことを思い出し、愕然としたようですわ。わたくしは治癒するのは1日1人までにした方が良いのではと忠告をしておりましたのに、聞かなかったのはセーラさんですから。
第一王子がお姉様達と共にいつの間にかセーラに近づいて来た。
カーテシーをしてお出迎えをするわたくしを一瞥するだけで何も言わず、騎士に向かって「其奴を連れて行け」とセーラさんを指して言った。
表向きはわたくしとセーラさんは無関係。セーラさんに手を貸しましたが、関わっていた証拠はないし、国王様にご報告をした上で立ち回りましたので、決して表に出ることはございませんわ。
国王様に献上するために、治癒石を取り替えさせたことにより、今の状況になっておりますが、それを知る者はごく僅か。セーラさんには、治癒石の力が尽きたことにした方が裏でも都合が良いのですわ。
セーラさんは治癒の力をご自身の力と信者達を欺いておりましたから、治癒石の存在を主張することは自分の治癒能力を否定することに繋がりますもの。
表では、単なる嘘つき女。裏では、突然治癒力が消えた聖女。そのさらに奥を知る者にとっては治癒石の力が尽きたことにする。それが一番丸く収まるのです。
わたくしに何も言わないということは、恐らく第一王子もそのことをご存知なのでしょうね。
「もう大丈夫だ。心配することは無い!蓮華の聖女の予言は覆った!薔薇の聖女が先程宣言したとおり、今後も王家は存続し、この国はますます発展するだろう!」
セーラさんとユーリ様を革命家とすることで、薔薇の聖女が正しい予言をしたことにするようですわ。
それが一番収まりがよろしいものね。
お姉様は青ざめた顔をしながらも微笑みを浮かべて賞賛を受けていらっしゃるわ。どのようなやり取りがあったかはわかりませんが、取り巻き達と距離ができたようですわ。これなら我が家は失墜もせず、お姉様の信頼が落ちたことにより、お姉様が少し大人しくなってくださるわね。
これで、わたくしの望んだとおり、お姉様の言うことは絶対ではなくなり、解放されるかしら?
あの後、ユーリ様は反逆者として処刑され、セーラさんは狂信者がどこに潜んでいるかわからないため軟禁されているみたい。革命をしようとしていた者達の多くはわたくしの流した情報で捕らえることができたようで、革命の火種をすぐに消すことができたため、国王陛下から内密に感謝を告げられたわ。その時にお姉様のことを聞いてみたら、やっぱりお姉様は、治癒石の存在を知りながら1年前に疫病が発生した時に黙っていたことを第一王子に知られて、咎められたみたい。国王陛下からは、お姉様は大事に軟禁するから安心するように言われたわ。
治癒石の存在は知っていたけれど、入手方法を知らないからと、治癒石の存在を伝えなかったお姉様は信頼を失ったみたい。
予言は本来不確かなもの、入手方法がわからないことは仕方なくとも、助かる可能性があったのにもかかわらず、お姉様の自己判断で黙秘する。そんなことは第二王子始め、お姉様の取り巻き達は許せなかったみたい。何せ、取り巻きだった1人は疫病で病死している。疫病にかかった時に、助かる可能性があるのにも関わらず見殺しにされた友人を思うと中々許せないわよね。しかしながら、いくら憎くとも、一度は愛した女性、しかも有益な予言ができる。そんなお姉様を処刑するなどできないわよね。でも、第二王子に任せるには、お姉様を甘やかす危険がある。だから第一王子が王太子となり、お姉様を側妃として結婚をして、軟禁をして大事に囲うことにしたみたい。表向きには溺愛しているから外に出したくないと王太子が我儘を言っていることにしているようね。実情としては、逆らわないように、勝手に自己判断しないように、言うことを聞くように洗脳をして大事に大事に囲っているようね。不幸になって欲しいとは願ってはいなかったから、お姉様が好きな方と結婚できて少し安心しましたわ。
お母様は、お姉様が軟禁されたことに気づいていないみたいで、大事にされて幸せ者ねと微笑んでいる。お姉様は一度も里帰りしていないのに、幸せな頭ね。
まあ、お姉様が居なくなったことにより、お姉様の言動に左右されていたお母様は私に干渉してくることもなくなり、ただ穏やかに暮らしているわ。
お父様はお姉様の実情に薄々気づいているみたいだけど、我が家の利益にはなっているからあまり気にしていないみたい。私が辺境伯に嫁ぐことになるから表向きは親族から養子をとることにして、愛人の息子を招き入れるみたい。本当に、不健全な家庭環境だわ。
元々お姉様に好き勝手させていた理由の一つに、愛人の子を跡取りにしたかったこともあるみたいね。
でも、もう関係ないわ。もうすぐ私は辺境伯に嫁ぐから。生まれは精神的には恵まれなかったけど、穏やかな愛がある方と結婚できる。お姉様の影響も排除できたわ。だからきっと私はもう大丈夫。私の人生は理不尽にコントロールされない。きっと幸せな家庭を築くわ。
嫁ぐ前の最後のご挨拶として、お姉様に届くかわからないけど、お手紙を書こうかしら?もうきっと会うこともないお姉様だけど、一つだけ感謝をしていることがあるの。わたくしを悪役令嬢にならないようにしてくれたこと。わたくしが悪役令嬢になっていたらお姉様にも不利益が大きいから悪役令嬢にわたくしがならないようにしてくれたのかもしれないけれど、転生者であるセーラ様がわたくしを悪役令嬢と言ったということは、わたくしには悪役令嬢になる可能性があったのでしょう。だからわたくしは思うのです。わたくしを悪役令嬢にしないようにしてくれる程度に愛してくれていたと。
そのことを今では、感謝をできるようになったから、お別れとお礼のお手紙を送りたいと思うわ。
わたくしのおかしなお姉様に。