紹介5作品目 「シャー子の怪談物語」
この作品はフィクションです。
作品名: シャー子の怪談物語
作者名: 海豚台風 さま
【あらすじ】
ある海岸にて、崖っぷちアイドルの茶古釈子、通称シャー子が事故で死んだ。
生前は世間に認められず、事務所からはいいように利用され続けた末の悲劇。
そんな彼女の死について、アフィブログやSNSを中心に不穏な噂が広まっていく。
無責任にデマを流して注目と利益を得ようとする心無き連中の手によって。
だがある日を境に、噂の発信者たちが謎の存在に襲われ命を落とす事件が次々と発生。
一部の生存者たちによると、半透明のサメのような化け物がスマホ画面から襲い掛かってきたというのだが……。
世間を恨んで死んでいったアイドルの呪い。
己を愚弄するネット民たちを喰いつくし増長する怨念は、やがて日本中を巻き込む災厄へと変貌していき――。
混沌たる電子の海にて無邪気に水遊びする生者どもよ。
死者の怒りを思い知れ。
ネット社会の闇を食い荒らす、新時代のパニックホラー小説!
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久々更新です、どうも。
相変わらず暑くて寝苦しい日が続きますね。
最近は部屋の窓を開けてないと酸欠になりそうです。
皆さんも熱中症などにお気をつけて。
そんなこんなで本日紹介するのは、年々勢力を強めているサメコンテンツの要素を全面に押し出したスラッシャーホラー。
今作に登場するサメは神出鬼没な幽霊体で「普段は電子の海に潜み、パソコンやスマホの画面から飛び出してきて人間を襲う」という恐ろしげな能力を持っています。
サメ映画界では割とありがちというか控えめな設定ですね。
本作はあらすじにもある通り「ネット上の誹謗中傷やデマ」という社会問題をテーマにしていて、その被害者が社会に復讐するというストーリーがしっかりと描かれています。
サメコンテンツは下手に手を出すと物語部分がおろそかになりがちですが、本作は社会派サメ小説としての読み応えがあって、個人的にはとてもバランスが良いと思いました。
【本作の良いところ】
なんといってもスラッシャーパートの爽快感と背徳感がやばいです。
本作のサメの被害者はみな、誹謗中傷やデマ拡散に加担したネットユーザーたち。
作中では徹底的にゲスな悪人として描かれているので、次々とサメに喰い殺されても自業自得感があってあまり同情が沸きません。
描写もマイルドですし。
なので読み手としてもストレスを感じにくいですし、テンポよくどんどん被害が拡大していくさまは妙な爽快感があるんですよね。
これはサメを応援しながら読むべき作品だと感じました。
一方、作品から一歩離れて考えてみると、気軽に誰かを傷つけることができるこのネット社会に生きている私たちもまた、いつかこの被害者たちと同じ末路を迎えないとも限りません。
無意識なネット投稿で、傷つく誰かがいるかもしれないのですから。
ネット上における加害者と被害者がいつでもひっくり返るコインの表裏であることも、本作では実に丁寧に描かれています。
ネット上での物言いには気を付けようと改めて思わされました。
【本作の気になった点】
ジャンルの宿命とは思いますが、サメが出てくるとどうしてもホラー感が薄れてしまいますね。
もし予算が豊富な映画だったらかなり映えそうなシーンがたくさんあるのですが、文章で読むとサメの怖さがいまいち伝わらないというか、どうしても妙なシュールさがぬぐえませんでした。
作者さんも作品タグに「コメディ」ってつけちゃってますし。
その割にはネットの闇や死者の怨念の描写にかなり陰湿なリアリティがあり、サメの出てくるシーンと大きなギャップがあります。
怖さと笑いが交互にくる感じですね。
このあたり、人によってはちぐはぐな読書体験になるかもです。
あとこれはわざとっぽいですが、所々で設定がガバガバなのもホラー感を損なってますね。
死んだアイドルがネット全体を呪うところまでは分かるのですが、なんで幽霊サメに化けたのかの説明は最後まで一切されませんでした。
まあサメ小説にそんな説明やら整合性やらは必要ないのかもしれませんけど。
【総括】
サメの恐ろしさよりも、人間の心の醜さを恐怖の主体として描いた本作。
全九話で一話あたりの文字数は結構多いですが、ぐいぐい読めて面白かったです。
ホラーとエンタメのバランスがいいかんじ。
電子の海に溺れた日本がどのような結末を迎えるのか。
ぜひとも本作を読んで確かめてみてくださいね。
それでは、今日はこの辺で!