紹介2作品目 「んばりおん」
この作品はフィクションです。
作品名: んばりおん
作者名: 草場灯影 さま
【あらすじ】
平凡な会社員の石川は、趣味でひっそりとやっているSNSだけが毎日の癒し。
だがある日を境に、自身の投稿に毎回のようにインプレゾンビが群がるようになる。
誰からも注目されない自分なんかの投稿になぜ……?
その現象の裏には、巷で密かに噂になっている怪異が関わっていて……。
◆◆◆
みなさん、SNSは活用してますか?
私は一応アカウントを持ってますが、基本的にはトレンドを流し読みするくらいですね。
最近は色々と仕様変更やらなんやらで見辛さを感じていますが。
そんなわけで今回紹介する作品は、最近話題のインプレゾンビをテーマにした怪異ホラー。
一応ざっくり解説しますと、インプレゾンビとは某SNSで最近大量発生している「注目度の高い他人の投稿に対して無意味な返信を行う迷惑アカウント」のことです。
他人の投稿に乗っかって閲覧数を集め、広告収益を稼ぐことが目的と言われていて、その中身は人間だったりbotだったりするみたいですね。
めっちゃ目障りで不快なので、嫌ってる人も多いんじゃないでしょうか。
で、主人公はそんなインプレゾンビにSNS上でうじゃうじゃと集られるようになるわけですが、最初はただただ不気味だなぁくらいにしか思ってなかったんです。
「自分の投稿なんてほとんど読まれてないのに、なんで目を付けられたんや?」みたいな。
しかもそれが毎日続くというね。
気分のいいものじゃないし、そのせいかどんどん気が滅入ってきて、心なしか体が重くなっていくような感覚に陥ってしまうというありさま。
でもそうこうしているうちに、ある日彼は、とあることに気付くんです。
漢字やアラビア文字、あるいは何語なのかも分からないようなアルファベットの羅列。
なんの気なしにインプレゾンビどものリプライを試しにいくつかネットで翻訳してみると、どれも皆、ある一つのメッセージになっていたんです。
それが、「わたしを背負ってくれ」。
いったいこれは、どういう意味なのか。
これを知った主人公がいろいろ推測を深めていくうちに、「インプレゾンビどもが実はなにかこの世ならざる存在なのではないか」と疑念を抱き始めて……。
というのが本作の序盤の展開になっています。
【本作の良いところ】
全体的に描写が丁寧で、それでいてテンポよく進みます。
派手な展開やジャンプスケア的な脅かし描写はなく、じわじわと怖がらせてくれます。
小説という媒体でやるホラーとしては、お手本のようなスタイルかも。
個人的に気に入っているのは、扱っている怪異のチョイスですね。
作品タイトルにもなっている怪異「んばりおん」は作者さまによると、夜中に外を歩いているといきなり背中にしがみついてくる地方妖怪の名前らしいです。
それを現代的なインプレゾンビと融合させてホラー仕立てにするという発想が面白いなと思いました。
そして「なんで主人公はインプレゾンビにまとわりつかれるようになったのか」という理由が、これまたホラーの王道というか、そうきたかぁという感じでした。
過去の罪が跳ね返ってくる因果応報系のやつですね。
怪異うんぬんよりも、過去エピソードの方が怖いまである。
最序盤から伏線が貼られているので未読の人はぜひ先を推測しながら読んでみてほしいですね。
【本作の気になった点】
登場人物が基本的に主人公一人で進行するので、会話文がほとんど出てこないのが読者さんによっては辛いかもしれません。
キャラ同士の面白い掛け合いとかもなく、なごむポイントがほぼゼロなのも人を選びそう。
ホラー小説でもある程度の緩急や笑いが欲しいという人は、一定数いると思いますし。
後半はひたすら陰鬱な展開が続くので、もう少し救いがあってもいい気もしました。
まあ因果応報なんでしょうけど。
【総括】
ほどよい文章量でお手軽にホラーを摂取できるおいしい作品でした。
こういうの大好物なんで、個人的に作者さまには今後ともこの方向性で執筆をつづけてもらいたいです。
それでは、今日はこの辺で!