4月6日①
ちょっと変わった思考の女の子とちょっと変わった見た目の女の子の話です。
4月6日、朝、8:30、校門にて。
近年の異常気象のせいか花屑も消え、桜か他の樹木かの識別が出来ない木を背景に、
「さーん、にー、いーち、はいチーズ。笑いなさーい。」
と、私は母に入学式の立て看板とのツーショット写真を撮られていた。
「撮れた?」
「ええ、でも、せっかくなら桜を背景にしたかったな〜。」
「なら、石油王のところにでも行って、一発怒鳴ってくれば?」
「何故そうなんのよ?」
「にしても、高校受かって良かったわね。正直言って落ちると思ってた。」
「娘に向かっなんてこと言っとるんだ。」
「だって、貴方が私立の女子高受けたいって聞いた時、びっくりしたのよ。」
「そう?」
私立翁前学園高等学校。
創立145年、明治初期に華族や士族の令嬢の教育機関として成立した、由緒正しきお嬢様学校。
本来ならば、鼻水垂らしながら公園で鬼ごっこをしていた私のような人間が通うべきところじゃない。
しかし、中学2年時にこの学校の生徒を見て、制服に一目惚れ。
プリーツがたくさん入った濃紺のロングスカート
この服を着れば、中学3年間なんとなく過ごしてきた自分と決別し、高校デビューを果たせるかもしれない。
人に話せば呆れ返ってしまうそうな理由だけを胸に、寝る間も惜しんで勉強をしてギリギリ滑り込んだ。
「少なくとも、貴方の偏差値じゃ最低でも転生しないと無理じゃ無いかとヒヤヒヤしてたのよ。」
「娘に向かっなんてこと言っとるんだ。」
自分の娘に多少の期待は寄せて貰いたいものだ。
「まあ、母としては娘の高校入学式を拝めて良かったわ。明日から学校でしょう?授業、頑張ってね。」
「落第はしないように努めます。」
などと戯言を交わす。
「あ、スマホロッカーに入れたままだった。」
「え、いい子ぶってる?早く取ってらっしゃい。」
「はいはい。」
母の言葉を聞き流しつつ、足早に式が終わって人が居なくなった廊下を進む。
入学式が終わったとは言え、足は浮き足だって、未だ現実と夢が同化してない感じがする。
受かった喜びと、これからの高校3年間を夢想し、胸躍らせながら1年生の教室がある4階まで階段を登っていく。
そして3階まで上がってきた時、
暁で染めあげたような髪の女の子が踊り場から降ってきた。