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第7話  マリーゼの帰還

 バランティノ男爵とヨーク卿が、マーティン▪コルドバ伯爵の屋敷に着くと、すぐに応接間に通された。


ソファに座った男爵とヨーク卿は、落ち着かない気分で応接室をウロウロしながら待つ。


マリーゼは大丈夫だろうか。


不安で仕方ない。


マリーゼに何かあったら┅┅。



トントントン


応接室の扉が開いて、コルドバ伯爵家の執事が部屋に入ってきた。


「マーティン様がお戻りになりました」


執事の言葉が終わる前に、男爵とヨーク卿は部屋を飛び出していた。


マーティンの乗った馬車が屋敷に帰ってきたのは夜になってからで、待ちかねていた男爵達は髪を振り乱して、玄関に駆け付けた。


そこにはマーティンの手を借りて、馬車から降りるマリーゼの姿があった。


「おおっ、神様、マリーゼをお守り頂き感謝致します」


男爵は両手を合わせて天を仰いだ。


「マーティン、妹を救ってくれて、ありがとう」


ヨーク卿は涙声を隠すこともなくマーティンに感謝の言葉を伝えた。


「しっ。静かに願います。まずは、邸に入って話しましょう」


マーティンは周りをうかがう様子で、声を出すなと言って周辺を警戒しているようだ。


「お父様、お兄様」


マリーゼは自分を心配して、髪も顔もボロボロの2人を見て小さな声でつぶやいた。


ヨーク卿は、マーティンからマリーゼをたくされて、その手を引いて伯爵邸に入って行く。


マリーゼも男爵もヨーク卿も、3人そろって家族で応接室に入ると、やっとまともに呼吸が出来た気がした。


「ふう」


誰のため息か、ふう、はあ、と皆が心を落ち着かせようとしている。


「馬車に乗り込む前に、すぐに気絶させられて、気付いたら見知らぬ倉庫のような部屋に連れて行かれたんですの」


応接室に落ち着くと、すぐにマリーゼが口を開いた。


「場所は分かるんだな」


「はい」


「そうか」


ヨーク卿はマリーゼを労って、肩に手を添えた。


「舞台女優マーガレットが、マリーゼの拐われた倉庫の持ち主だと、確認が取れています」


マーティンが補足した。


「それから私を拐った犯人達は、私が男爵家から馬車に乗ることを知っていたみたいでした」


「それは、男爵家の中に、情報を流した人間がいると言う事か」


男爵が、息子のヨーク卿と視線を交わす。


「馬車を動かしていた人間と、マリーゼが抜け出そうとしていた事を知っている者を探り出せ」


男爵が、息子のヨーク卿に命じた。


「はい。私は一旦、屋敷に戻ります。コルドバ伯爵、マリーゼを助けてくれて本当にありがとう」


ヨーク卿は、マーティンの両手を握り締めて頭を下げた。


「伯爵は止めてくれ。友達じゃないか」


「じゃあ、マーティン。またな」


いつもの陽気なヨーク卿に戻ったように、マーティンに挨拶をして部屋を飛び出して行く。


「やれやれ」


マーティンは、肩をすくめてため息をついた。


「どうしたんだ?コルドバ伯爵」


マーティンの様子を見ていたバランティノ男爵が、心配になって声を掛けた。


「いえっ、男爵家を裏切った人間は捕まえなければいけませんが、マリーゼが誘拐された事は、内密にした方がいいのではないかと思いまして」


「それは」


「マリーゼ様は、年頃のご令嬢です。すぐに救い出されたと言っても、男に拐われた事を公にするのはよろしくないかと」


「うむ」


マーティンの言葉に、バランティノ男爵は動揺しながらも同意した。


「あと余計なお世話かもしれませんし、マリーゼ嬢も精神的につらいと思うんですが」


マーティンは、言いにくそうに言葉をつぐんでしまった。


「何でも言って下さい」


マリーゼが、マーティンを見つめる。


「明日は、いいえ可能であれば今からでも私と男爵とマリーゼで、街中に出て楽しく過ごす様子を、人々に見せた方がいいと思います」


「ああ、その通りですわ。マーティン様、どんな服でも構いません。服をお貸し頂けますか」


マーティンの言葉に、ハッと閃いたマリーゼは、停止していた思考が動き始めたのを感じていた。


そうだ。マリーゼは誰にも拐われていない。拐われたことが世間に知れ渡ってしまったら、一生おもてを歩けないだろう。


マリーゼはそんな未来を想像して、ブルッと体を震わす。


今日はお父様とマーティンと、外に出掛けていた事を真実に仕立てるんだわ。


「嫁いだ姉の部屋に、いくらでもドレスがあるので、案内させましょう」


マーティンがソファから立ち上がり、侍女に指示をだした。


「では、少しの間、失礼致しますわ」


マリーゼは席を立つと、足の震えに気が付く。


家族に会えて安心したし、気丈に振るまっていたが、あの暗い部屋の恐怖は簡単には忘れられないだろう。。


マリーゼは、侍女に案内されて部屋を出て行った。


(ふぅっ、何とか上手く収まってくれ)


マーティンは、マリーゼが部屋を出ていくのを見守りながら、心の中で祈った。


◇◆◇


 朝早くから男爵家の家族とマーティンが、一緒にホットラブ暴露記事が、出版されるのを待ち構えていた。


「旦那様、ホットラブ暴露記事を手に入れてきました」


「何だ一紙か?人数分、買ってくれば良かったのに」


「私が一紙しか購入したらダメだと言いましたの。何紙も購入して応援してあげる義理はないでしょ」


「うちのマリーゼは本当に賢いな」


男爵家の家族が、うんうんと頷いている。


「じゃあ、私が読みますわね」



【マリーゼ男爵令嬢が、またもや大騒ぎ


実は昨日マリーゼ男爵令嬢が、男達に拐われた事が、本誌の調べで明らかとなった。


マリーゼ男爵令嬢の行方は掴めていないが、複数人の男達に拐われた若き女性が、ただで済むはずがない。


残念ながら、男爵令嬢の結婚は難しいだろう。


いくらお騒がせで、一部の人々から悪役令嬢と呼ばれていても、気の毒である。


自業自得と言ってしまえばそれまでだが、操は守れずとも、命だけは助かって欲しいと願う】



「昨日拐われて、今日の朝早くに記事にすることなんて可能なのか?」


ヨーク卿は記事の内容も気に入らないと口ぶりだ。


「犯人か共犯者じゃなければ無理でしょうね」


「どうするんだ?」


ヨーク卿が、マリーゼの顔を覗き込んだ。


「こんなのはどうかしら?」


マリーゼは、コレット暴露記事を使って対抗しようと、ペンを片手にアイデアを披露した。



【親愛なるホットラブ記者様


私の親友のマリーゼ男爵令嬢が、昨日拐われたとして


今朝一番で記事を書くには、昨日の拐われた時点で知っていた人しか無理ですよね。


つまり犯人か共犯者しか知らない情報を暴露するなんて勇気があります。


ただ、誘拐の実行犯ではないのかも。


だって捕まったのは私の親友の侍女で、親友は侍女が捕まった事も知らずに、家族とその友人と夜中まで街中で遊んでたみたい。


ねえ、この情報、男爵領のほとんどの人が目撃して知ってるわよね?


記者さんが知らないって誘拐犯としても記者としても、人間としてもどうなのかしら?


ただの暴露記事なら許容範囲だったけど、犯罪者は許容できないわ。


そうそう。親友の侍女が誘拐された倉庫が、舞台女優マーガレット嬢の名義だったらしいから、憲兵隊が捜索するって言ってたわ。


教えてあげるなんて、私って優しいでしょ。


またね】



「これを夕方に間に合うように、出版してもらって」


マリーゼは、たった今書き上げた原稿を使用人に渡した。


「かしこまりました」


ホットラブの記事を買ってきた使用人が、原稿を受け取ると部屋を出ていった。


「結局、手引きをしていたのが、侍女のアンだとは驚いたな」


ヨーク卿は、残念そうにマリーゼを見てつぶやいた。


「ええ、家族が病気で大金が必要だったみたいですわ」


「それにしても、マリーゼの書いたさっきの記事、即席で書いたとは思えないな」


ヨーク卿は、辛いことの重なったマリーゼをはげますために、マリーゼの文章力の高さを褒めた。


「今日中にはマーガレットも捕まると思うが、マリーゼはこれからも暴露記事を続けるつもりですか?」


マーティンは暴露記事を続けることで、マリーゼに災難が降りかからないか心配している。


「お父様とお兄様が反対するなら止めますけど、道理に反する人を見付けたら暴露してやりたいですわ」


既にマーティンには知られ過ぎているので、暴露記事を書き続けたい気持ちを隠しても仕方がないと、正直な気持ちを言葉にした。


「うむ、危険に巻き込まれないように充分注意してやりなさい」


「何かあれば僕に言うんだぞ」


「わかりましたわ」


父親と兄、2人の言葉にマリーゼは満足げにニッコリと笑い返した。


(お2人共、マリーゼに甘すぎる)


マーティンが「次はどんな事件に巻き込まれる気だ」と1人呟いた事に、その場にいた誰も、気が付かなかった。



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