カオスルーダー、勇者への道
「『エクスプロージョン』!」
撃った瞬間、あ、と思った。だって、明がいないから。明がいて初めて「僕」なのであって、明がいない今の僕じゃ草田 剛久にも劣る貧弱ゴミ人間な...だ、け.........
「...はっ!ここはどこ、私は誰!?」
目を開けると、街に倒れていた。中世と言った丁の街並み。僕を見る、可哀想な子を見る目。...
「私を可哀想なものを見る目で見るなー!」
叫んだけどむしろ逆効果。どこからか警備官が湧き出してきて、両腕を掴まれて連行されていった。
「...ふぅん?どこからきたのかわからない、と」
「はい。なんだか、気づいたらあそこにいたので。あ、でもミオという名だけは覚えています」
「ミオ...か。その髪の色といい目の色といい、『ラルクスの民』にしか見えないが」
「『ラルクスの民』?」
首を捻った僕に、警備兵の人は教えてくれた。
「『ラルクスの民』と言うのは、シレィー・ラルクスという大昔の大魔術師が造ったとされる人種のことだ。常人よりも高い知性と魔力適性、黒い髪と赤い目が特徴で、一部の変わり者の中には一つの魔法を追いかけてそれ以外を気にしないというのもいるそうだが...。」
「あっ、それなら覚えがあります!私、『エクスプロージョン』がぶっ放したくて!」
そういうと、明らかに引かれた。なんでー?
「【爆裂魔法 エクスプロージョン】は威力の割に魔力使用量が馬鹿にならないから使うものはほとんどいない大技じゃないか!この、みょーに頭の悪い感じ...本当に『ラルクスの民』なのか!?」
「だ、だから分かりませんってー!」
ブンブン振られた。リバースしたらどうしてくれんだ、このおっさんめ。
「ああ、これが君の姿だ」
そう言われて見せられた姿は黒髪ロングに赤目、胸がないロリ。...あるぇー?
「...嬢ちゃん、辞めとけ。嬢ちゃんみたいな貧弱なやつなら」
「あ、こう見えても私人並み以上には強いので。問題ないですよ」
「...そうかい。登録はあっちだ」
残念そうにする男性を通り過ぎて、僕は金髪ロールの女性の前に立つ。
「登録、お願いします」
「かしこまりました。ではこの上に手をのせてください」
おほぅ、ダンジョン冒険者より優しい!あそこだったら場所によっては入る場所でも金がかかるし、維持費という名目で毎月3万円も天引きされるからあんまり美味しくない。まあ、飛べるからいいけど。...あ、僕もう普通に飛べるのか。
謎の水晶に巻かれた紙...どことなく精密検査機に似ている。
出てきた髪を女性が後ろに持っていって、赤い謎の板にして持ってきた。
「こちらは冒険者の印ですね。現在は一番最初のブロンズランクですが、魔物を倒していけばランクはシルバー、ゴールド、プラチナ、ミスリル、オリハルコン、そしてアダマンタイトと上がっていきます。著名な方ですと、胃に支援金勇者オリバ様はアダマンタイトランクであったとされています!」
興奮したように息を吐く女性から一歩離れる。熱気に押されたとか、そういうんじゃないんです!
「...それにしても、あなたはステータスが異常に高いですね。筋力、敏捷力、耐久力、器用さ、知能、幸運、魔力...全てが桁外れです!...あ、あれ?レベル1!?な、なんで...!?」
アワアワしている女性が僕を見るけど、ノーコメントでお願いします。
「...はい。冒険者ギルドへようこそ、ミオ=ラルクスさん」
「いや、私は「ようこそ、ミオ=ラルクスさん」...もうそれでいいですよ」
この人、人の話聞かないなぁ!
「ジョブ選択は何になされますか?レベル1でこれならば全ジョブの選択が可能ですが...?」
ジョブ!もちろん一択だ。それは...
「〈混沌を齎す者〉でお願いします!」
カオスルーダー。ダンジョン内でトレインをして味方の攻略者を殺し、国で900万円の懸賞金をかけられている男、笹谷 竜胆の異名だ。あんなロリーな見た目なら、いっそ狂っちまえばいいのだ。エクプロを飛びながら撃ちまくる変態魔術師にね!
「か、カオスルーダーですか...?非常に不人気なジョブですが...」
「構わないですよ!私はカオスルーダーで魔術の極みを目指すのですから!」
ぐっと握り拳を天に掲げた僕に女性は感激したようで小さい拍手をくれた。
「カオスルーダーの特徴は〈レベル上昇率が90%ダウン〉ですね。では、頑張ってください!」
拒否するまもなかった。