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45/幕間1

「行っちゃった」


 星の心臓があった部屋には、メルリヌスと烏兎、二人のカミサマの姿だけがあった。

 メルリヌスは部屋から出て行ってしまったモルガーナを追いかけることもなく、ただ伸ばしかけた手をそのままにして、どこか残念そうな様子でその場に立ち尽くしていた。


「ま、いっか。そのうち諦めて戻ってくるだろう」


 伸ばしかけていた手を下ろして、メルリヌスはそう結論を出した。

 モルガーナに選択肢などない。このステラを続けさせることは難しい。であるならば、そのうち諦めて引き返してくるだろう。そうなれば、モルガーナは自分たちの仲間になってくれる。新たなカミサマになる道を選んでくれる。

 メルリヌスはそう信じて疑っていない。

 それは流石に楽観的すぎる。

 烏兎は視線にそう感情を込めて見つめるが、メルリヌスは気がついてもいない。

 烏兎ですら分かるようなことがメルリヌスに分からない。それは烏兎にとっては少し意外なことであり、けれどもどこか納得のいくものでもあった。

 メルリヌスは人の心を汲み取れない。正確に言えば全くそれができないわけではないが、烏兎から見てもその能力が低いことだけは確かだ。

 ただ、そのメルリヌスにしては珍しいことをしたと、烏兎はぼんやり考える。

 戦闘の最中に自身の身を呈してモルガーナを庇った。それだけじゃなく、モルガーナをわざわざカミサマに誘った。

 それは、本来のメルリヌスのことを考えれば異常なことではある。

 メルリヌスに人間性などないはずだ。一見すれば烏兎よりも感情が豊かであるように見えるけれど、それは結局普通の人間ならそうするだろう、という憶測の結果だ。けれど必要なものは利用する。必要なことであれば感情など挟まずに……元々挟む感情などないに等しいのだが……行動する。ムメイの街の教会での出来事がこれだ。メルリヌスはモルガーナの退路を断つためだけに、ムメイの街の教会が崩壊するように仕向けていた。そうして、必要だったものが自身にとって不必要なものへと変化した途端、メルリヌスはそれを速やかに手放す。いくら表面的に取り繕っていても、根底にある在り方は変わらない。

 そんなメルリヌスが、心からモルガーナを好きだと言い、そうしてカミサマになって欲しいと告げた。それはこれまでメルリヌスを見てきた烏兎にとって、あり得ないことだった。


「…………」


 メルリヌスに異常が起きたとしか考えられない。そしてその異常を起こしたのは、ニンゲンでもなくカミサマとも言えない中途半端な存在のモルガーナだ。

 彼女はおそらく、ステラをどうにかするつもりでこの部屋を飛び出した。ここから先、メルリヌスの言う通り諦めて帰ってくる可能性は低い。


「メルリヌス、指示を。モルガーナが何もしないわけがない」


 メルリヌスが冷静な指示を下せるのか。わずかに不安に思いつつも、自分の意思では行動ができない。烏兎はメルリヌスに、自分に仕事を与えるように求めた。

 メルリヌスは烏兎の言葉に少しだけ首を傾げて考える仕草をした後、うん、と頷いて口を開いた。


「じゃあ、モルガーナを連れ戻して欲しい。ああ、でも無理矢理はダメだよ。傷つけるのもダメだ。だから、そうだね。彼女が諦めるまで、彼女を見張っていて欲しい」

「————」


 殺せ、ではないのか。

 それどころか、無理矢理連れ戻せでもない。

 烏兎は僅かに目を見開いてメルリヌスを見つめるが、メルリヌスは気にした様子もなく胡散臭い笑みを浮かべたまま。


「…………分かりました」


 上司の命令に逆らう気はない。

 烏兎は大鎌を片付けると、すぐさまモルガーナを追いかけて外へと出た。

 メルリヌスはそれを見送って、ゆっくりと部屋の出口に向かう。ここにいる理由はない。だからといって、モルガーナを追いかける必要もない。ひとまずは先ほどの広間へと戻って、そこでのんびりと時間を潰そう。

 そう判断して、メルリヌスは星の心臓があった部屋を後にした。


「けど、不思議だな。テイルの魔力量が、上昇していたような気がするけど」

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