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12/救世主の証明

「さて。ボクがアステールを倒したい理由はこれで十分だろう。そこで、キミの力を貸してほしいのさ」

「えっと、なんでわたしなんですか?」

「もちろん、キミが救世主さまだから。キミも知っているだろう、主教に伝わる救世主さまの予言を」


 それは、まあ。

 けれど予言が真実である証拠はどこにもない。それどころか、そもそもわたしが救世主さまである証拠も。


「ボクはこの一年間、予言の救世主さまを探してこの世界を色々と見てきた。けど困ったことに、なかなかそれらしきニンゲンは見つからなくてね。探して探して、ようやくこの街にいるんじゃないかって噂を耳にしたのさ」


 やれやれ、とメルリヌスさんは肩をすくめる。


「まったく。身の安全を保障するためとはいえ、随分しっかりと隠してくれたものだよ。ま、おかげで無事キミに出会うことができたんだけどね。これが大々的に祭り上げられていたとしたら、キミは今頃無事ではなかっただろうし」

「…………」


 それは、そうだろうと思う。

 主教とは別に、この世界にはもう一つ宗教がある。

 それが星教。

 主教よりも古い歴史を持つそれは、この世界の始まりから存在するとも言われている。

 外の世界なんてものはなく、存在する世界はこのステラだけ。もちろん外の世界の神様なんてものは信じていなくて、星教派のニンゲンが神様として崇めているのはこの世界を治めるアステール。


「星教派にとって、救いの予言は呪いの予言。救世主さまは滅びを呼ぶ魔女だ。予言によれば救世主さまはカレらが神として崇めるアステールを倒すことになる。神様を倒すかもしれない存在を忌み嫌うのは当然。見つかれば良くて殺されるし、悪くて生き地獄だ」


 わたしの身の安全を守るために、神父さまはわたしのことを偽物の救世主であると思っていたとしても、それでもわたしをここに隠してくれていた。

 神父さまやシスターたちにとっても、もちろんわたしにとっても、予言の存在というのは迷惑なものであったことに違いはないだろう。それさえなければ、少なくとも星教派に命を狙われる、自分たちの生活を害される恐れはなかったのだから。

 けど、他の宗教の予言なんて放っておけばいいのに。

 自分の信じる宗教だけ信じて、他の宗教は無視をする、まではいかなくとも、気にしないようにする。そうしていれば、互いを害さずにすむのではないのだろうか。

 でもきっと、それはそんなに簡単な話ではないのだろう。それどころか、難しいと感じるようなことなのかもしれない。

 まあ、何の宗教も信仰していないわたしにはよくわからない話だ。


「それで、キミはボクに力を貸してくれるのかな。できれば力を貸して欲しい。というか、キミが本物の救世主さまならキミの力が必要になるんだ」


 頼むよ、とメルリヌスさんは両手を合わせて軽く頭を下げる。


「ちょ、ちょっと待ってください。そもそもわたしにだって、わたしが本物の救世主さまかどうかなんて分からないですし。それに、救世主さまの力が必要になるって、どうして?」


 訊ねると、メルリヌスさんは頭を上げて口を開いた。


「うん。それはね、アステールを倒すためには星の心臓を破壊しなきゃいけないんだ」

「星の心臓?」


 そう、と頷いてメルリヌスさんは説明を続ける。


「で、その星の心臓にはそれを守る結界、七つの封印が施されている。ま、現時点では三つしか封印は施されていないんだけどね。それを解かなければ、アステールは倒せない。封印を解くことができるのは本物の救世主さまだけなんだ」


 つまり、救世主がいなければ封印は解けずアステールは倒せない。救世主こそが、アステールを倒すために必要となる鍵であるということなのだろう。

 そりゃあ、わたしだってアステールに不信感はある。さっきの魔人の話は、放っておいていいことではないだろうから。

 けど、だからってアステールを倒すことができるかと問われると、正直困る。

 困惑が顔に出ていたのか、メルリヌスさんはにこりと笑って大丈夫、と口にした。


「キミにしてほしいのは封印を解くことだけだ。実際にアステールを倒すことができるのはカミ殺しの権能を持つ烏兎だけ。まあ、その烏兎を呼びに行くのにもキミの力をちょっと借りなきゃいけないんだけど」


 メルリヌスさんはまるでわたしがその救世主さまであるかのように話を進める。まだ、わたしが本当にその救世主さまであるかどうかなんて分からないのに。


「メルリヌスさんの話は分かりました。けど、それはわたしが救世主さまだった場合の話であって」


 そうではない可能性だってあるだろう。いや、そうではない可能性の方が高いはずだ。

 だってこんな、なんにもできないわたしなんかが救世主さまであるはずがない。

 そう思って発言をしたのだが、メルリヌスさんはさらりと思わぬ言葉を口にした。


「なら、実際に封印を解いてしまえばいい」

「——はい?」


 それはたしかに、わたしが救世主さまかどうかを確認するのに一番確実な方法だろう。だけど、そんなに簡単に解いてしまっていいものなのだろうか。


「解けなければキミは救世主さまではないことが分かるし、解ければキミが救世主さまであることが分かる。それだけじゃなく、星の心臓を守る封印が一つ消える。うん。どっちにしたって、キミにデメリットはないはずだよ」

「それは、そうかもしれませんけど」


 メルリヌスさんの言う通り、わたしが何か損をすることはないのだろう。けれど、あまりにも簡単に言うものだから、なんだか話についていけない。

 メルリヌスさんは一人納得したようにうんうんと頷いている。ひとしきり頷いた後、メルリヌスさんはよし、と呟いて部屋の出入り口へと向かった。


「それじゃあ、今日はこのあたりにしておこうかな。モルガーナ、今日はお疲れ様。ゆっくり休んでね」


 じゃあね、と手を振って、メルリヌスさんは部屋から出て行ってしまった。

 ぱたん、と部屋の扉が閉じられる。それと同時に、ずっと無言を貫き通していたテイルが大きなため息を吐いた。


「まったく。何から何まで胡散臭い女だ」


 吐き捨てるように言って、足元にいたテイルはベッドに飛び乗る。


「アイツが言っていることは本当だろう。嘘はついていない。けど、ああ気に食わない。何が気に食わないって、アレは嘘ではないが本心でもない。外側を取り繕うばかりで中身の伴わない人形だ」


 ぶつくさと文句を言いながら、テイルは苛立たしげに尻尾のようなものをベッドに叩きつける。どうやらテイルはメルリヌスさんのことが好きではないらしい。

 テイルが不満を口にすること自体は珍しいことではない。けれどメルリヌスさんに対しての声には毒と言うか、怨念のようなものを感じる。不思議なことに、そこにはなんとなく親しみのようなものが込められている気もするけれど。


「それで、どうするんだ」


 じろりと穴のような瞳がわたしを捉える。


「どうするって、何が」

「本当に封印を解くのか、だよ。本物かどうか確かめるためとは言っているが、アイツはお前のことを本物の救世主だと確信してやがる。封印は間違いなく解かれるだろう。そうなれば、お前は正真正銘救世主さまとして生きていかなきゃいけなくなるんだぞ」


 どうするんだ、とテイルはもう一度わたしに問いかけた。


「……わたしは、救世主さまじゃないよ。確かめる方法があるんなら、それをしてわたしが救世主さまじゃないんだって証明しないと。それにそもそも、わたしには救世主さまを名乗る資格なんてないんだから」


 そう。身近なニンゲンすら守れなかったわたしに、救世主さまの資格なんてあるはずがない。


「それでも、だ。もし何かの間違いで、お前が本物の救世主になったら。その時は、どうするんだよ」

「…………」


 そんなの、分からないよ。

 けれどもしそうなったら、きっと、この世で最も出来損ないの救世主さまが誕生することになるのだろう。

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