表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/24

6・こんなの初めてッ!

「……はぁん、こんなの初めてですぅっ!」


 R18ゲームの世界とはいえジャンルが違うのに、蕩けそうな声で言ったのは私ではない。

 ヴァーリ(ファヴニール様)です。

 どうやらハニトー(=ハニートースト)がお気に召したみたい。端正な顔がメロメロに蕩けている。


「甘くてっ柔らかくてっ! この太陽の光を集めたような滑らかで雑味のない蜂蜜っ! 上に載っている白い雪は甘く口の中で溶けて……はあぁぁんっ!」


 味レポありがとうございましたー。

 しかしイケメンは得だね。

 こんな阿呆っぽいセリフを蕩けた顔で言っていても様になる。私が提供したハニトーを食べ終えた彼は、重々しい声で告げて来た。


「先ほどの言葉を訂正します、エギル。実は私は甘いものが大好きなのです」


 でしょうね! お皿はちゃんと消えました。


「それとエギル。フォルセティ侯爵家のご令嬢だった貴女なら最初からご存じだったかと思いますが、冒険者ヴァーリというのは仮の名前。本当の私はファヴニール、レーヴァティン帝国の第一皇子なのです」


 知ってた。──けど、前世の初プレイのとき、ゲーム内時間五年かけてやっと打ち明けてくれた本名、今世では出会って二時間もしないうちに言うの?

 前世ぇー! 前世の私ぃー!

 せっかく裏技のエギルって名前にしたのにファヴニール様の好感度がアップしないって悩んでたけど、ハニトー一個で五年分早送り出来るみたいー! たぶん苦労して材料集めてドワーフに作ってもらった恐怖の兜(エギルヒャールム)プレゼントしたときよりアップするよ!


「さようでございましたか、ファヴニール殿下。知らなかったとはいえ、私はとんだご無礼を……」

「気にしないでください。身分を偽ったのは私のほうなのですから。それよりエギル、ダンジョンバットはまだありますよ?」

「そ、そうですねえ。でもアイスは冷たいので、あまり食べ過ぎてもお体に悪いと思いますよ?」

「……」


 見つめるな。

 前世の初プレイで私を殺したときの目が笑ってない笑顔じゃなくて、好感度がアップしたことが明らかにわかる、仔猫のような潤んだ瞳で見つめるなー!

 これはこれで圧を感じる。


「……もうひとつだけハニトーを作りましょうか。あの……私も研究中ですので、ほかの魔物肉でなにが出来るかとか、外に出すと霧散する魔物肉も『料理』後なら大丈夫かどうかを確認したいのですが、よろしいでしょうか?」

「もちろんです!」


 前世のゲームでは『料理』ならダンジョン外に持ち出して利用出来たけど、今世ではどうかなー。

 インベントリがないから、あんまり量は持ち出せないしねえ。

 新しいハニトーを作った後、私はファヴニール様の水筒から水をもらい片手鍋で魔物パンと『料理』してアイスココア(MAXMPの5%回復)も作成した。冷たいスイーツ×冷たいドリンクでは意味がないので、お願いして炎術で温めてもらう。


劫火嵐波(クリムゾンストーム)!」


 ……違う、そうじゃない。

 でもファヴニール様は魔術の繊細な制御も得意なようで、炎は片手鍋の中身しか熱しなかった。

 ちなみに魔物パンの原料=元になった魔物が違うと、どんなドリンクになるかも変わります。ハニトーにホットココアを添えて──


「この泥水のような飲み物も美味しいです!」

「マシマロを入れると、もっと美味しいですよ」

「マシマロ、ですか?」


 あ……無邪気に喜ぶ姿が可愛くて、つい余計なことを言ってしまった。

 ジャケット画像でひと目惚れしたくらいだから、顔が好きなのよ、顔が。

 ファヴニール様がにっこりと微笑む。


「マシマロは、どの魔物肉を『料理』すればできるんですか?」

「わ、わかりません」

「……」


 はい、嘘です。

 何度もプレイしたし、仲間の好感度上げるのには『料理』が一番だったから、ほとんどのレシピは覚えてます。店番のNPCとかは、仲間にしてダンジョンへ行くために好感度上げないといけなかったもんね。『料理』のプレゼントは超有効だった。

 てか、怖い。その目が笑ってない笑顔はやめて! 圧が凄いから!


「ざ、残念ですが、マシマロはエッケザックスのダンジョンのスライムの魔物肉からしか作れません」

「そうですか……」

「このダンジョンのデスバットの魔物肉で作った魔物パンでドリンクを『料理』すれば、マシマロ入りアイスココアが出来ますけど」

「そうですか!」


 あ、しまった。余計なこと言った。

 顔が好き過ぎて、深く関わりたくないと思っていても沈んでいたら慰めたくなる。

 前世のゲームの中でとはいえ、自分を殺した人とは親しくなりたくないのに。大体アラサー二十八歳、今日まで監獄塔に幽閉されていた元侯爵令嬢が帝国の第一皇子の好感度をアップしてどうするの!


「……王太子の婚約者だったのだから、少し教育すれば皇妃としてもやっていけそうですね……」


 レーヴァティン帝国の第一皇子殿下の呟きを、私は聞かなかったことにした。

 私の『料理』を気に入ってくれたのなら、ダンジョンでカフェを開くので贔屓にしてくださいよー、とでも言っておいたほうが良いかしら。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ