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5・初めてのハニトー

劫火嵐波(クリムゾンストーム)!」


 冒険者ヴァーリ(ファヴニール様)の放ったLVMAX攻撃炎術が、ダンジョンの天井を覆いつくすダンジョンバット(=蝙蝠モンスター)の群れを焼き尽くしていく。

 術名が中二病なのは『YoursAge(君の時代)』の仕様なので仕方がない。

 そりゃMAXMPが1500あったら(ゲーム内の彼の最低ラインなので今世ではもっと増えているかも)消費MP150の攻撃炎術も気軽に使えますわなあ。


 焼け焦げたダンジョンバットが天井からボトボトと落ちてくる。

 全滅だ。攻撃範囲がチート過ぎる。片手鍋を傀儡(くぐつ)化で遠隔操作して戦おうと思ってたけど、全然出番ないわー。

 『YoursAge(君の時代)』の中ならゲーム内時間数日でリポップするが、今世の生態系はどうなってるんだろう。前世のゲームには三すくみの概念があって、一種の魔物を殲滅するとほかの種の魔物が台頭するとかあったなあ。


 炎の熱気が巻き起こした風が、ヴァーリの金髪を揺らしている。……綺麗。

 父である皇帝ヴィゾフニルと同じひと房の赤毛は、彼の場合は魔術を発動させたときにしか煌めかない。

 初プレイで会ったときはジャケット画像で見た赤いひと房がなかったから、名前も違うし本当に別人なのかとも思ったんだよねー。3Dモデルの使い回しなのかなって。


「これでいいですか、エギル」

「あ、はい。ありがとうございま……あれ?」


 ダンジョンの床を埋め尽くすダンジョンバットの死骸を見て、私は首を傾げた。

 ゲームなら勝手に魔物肉、皮や骨などの素材に別れていたのだが、今世は現実なのでそこまで都合良くなっていないらしい。

 野獣と一緒で剥ぎ取りが必要なのかー。『料理』する前に解体したほうがいいってこと?


「ヴァーリ様はダンジョンバットの素材は必要ないですか?」

「今日の私は貴女の護衛ですから。それとエギル、様付けは必要ありませんよ。……まだどなたかとお間違えですか?」

「い、いいえ! そんなことないです、ヴァーリ!」


 解体してもらって魔物肉だけもらえたら、と思ったのだけどそう上手くはいかなかった。

 まあ、ヴァーリは帝国の隠れ里に棲むドワーフ謹製の竜皮のマントと聖剣エッケザックスを装備しているから、今さらダンジョンバットの素材なんて必要ないよね。道具屋に売らなきゃいけないほどお金に困ってもいないだろうし。

 ……エッケザックスってことは怠惰の竜アケディアを倒したのか。あれ七体の竜の中でも結構高レベルじゃなかったっけ?


「それでは失礼いたします」


 冒険者ギルドで考えた通り、魔物肉の『料理』は呪術研究の一環ということにしている。

 ダンジョン外の噴水のほとりで片手鍋にやったのと同じように黒焦げのダンジョンバットに手を翳し、魔力を注ぎ込む。

 片手鍋はヴァーリが持ってくれている。魔物の死骸を直接手にしてやったほうがいいのかもしれないけど、ちょっと抵抗があったのだ。野獣も魔物も病原菌が怖い。しばらくすると、


 ──ぽぽぽぽーん!


 炒めたポップコーンのようにダンジョンバットの死骸のいくつかが跳ね上がり、丸い魔物パンになって私の腕の中に飛び込んできた。

 成功だ。

 焼き立てパンの美味しそうな匂いがする。


 生活魔術『料理』にもLVがある。

 習得はわずかなスキルポイントで可能だが、レベルアップには戦闘魔術以上のポイントが必要になる。不要不急のお遊び能力だしね。

 でもレベルが上がると複数の魔物肉で巨大な料理を作ったり、逆に小さいのをたくさん作ったり、ランダムに付与効果がついたりしたんだよなあ。基本の魔物パンをウサギや猫の形に出来たりもしたっけ。


 LV1で『料理』できるのは一度に五個の魔物肉のようだ。ゲームと同じかな?

 ゲームでは最優先で『料理』をレベルMAXにしてたから、初期のことははっきり覚えてない。

 解体の必要はなし。良かった良かった。


 私は少し離れたところで片手鍋を持って見守ってくれていたヴァーリに顔を向けた。


「ヴァーリも食べますか?」

「……」


 ヴァーリは青い瞳を見開いていた。

 『YoursAge(君の時代)』の中では見たことのない表情だ。


「な、な、なんで魔物の死骸がパンになるんです!」

「そういう魔術なので」


 呪術は魔術の一種だ。

 炎術・地術・風術・水術・聖術・呪術の総称が魔術なのである。

 生活魔術は──今はまだ私以外存在を認識していないだろう。


「……失礼しますよ。『鑑定』」


 毒のある魔物肉(死骸まるままだけど)が変化したものに毒が残っていないか不安だったのか、ヴァーリは聖術の『鑑定』を発動させた。

 今世の彼は聖術も習得しているようだ。

 『YoursAge(君の時代)』のNPCはAIで動いていたので、固定NPCも基本設定以外のスキルを身に着けていることがあった。


「毒は完全に消えているようですね。……レーギャルンの宮殿の食事で出てくるパンよりも美味しそうじゃないですか」


 レーギャルンはレーヴァティン帝国の都のことだ。

 そんな呟きは聞かなかったことにして、私は彼に魔物パン(MAXHPの5%回復)を差し出した。自分も齧る。

 ……うん、美味しい。下級魔物のダンジョンバットじゃなくて中級のデスバットなら『美味しい魔物パン(MAXHPの10%回復)』、上級のカースバットなら『凄く美味しい魔物パン(MAXHPの15%回復)』が作れるんだよね。


 ヴァーリは魔物パンをひと口齧った後、夢中になって貪った。


「美味しい。焼き立てのように温かくて香ばしくて、ほんのり甘くて……」


 満足してもらえたみたいだな、と思いながら見つめていたら、彼は私の視線に気づいて白皙の肌を赤く染めた。


「べ、別に私は甘いものなんか好きではありませんがね!」


 そうそう、ヴァーリ(ファヴニール様)は甘いものが好きなのに、頑なにそれを認めないという設定だった。

 前世の初プレイでは彼の発言を真に受けて、絶対甘いものあげなかったんだよね。

 だから好感度アップしなかったのかな。まあ今世では好感度アップさせるつもりはないから、どうでもいいけど。


「ヴァーリ、もう少し『料理』を続けていいですか?」

「全部パンに変えるのですか?」


 ダンジョンバットの死骸は百体近くある。

 インベントリがないから、とてもじゃないけど持ち帰れません。

 ほかの冒険者が拾っていってくれるだろうし、最終的にはダンジョンに吸収されるから放置していっても大丈夫だよね。


「いいえ。この魔物パンをですねえ……」


 ダンジョンバットの死骸=魔物肉と合わせて『料理』する!

 四角い食パンにバニラアイスを載せて蜂蜜をかけた、いわゆるハニトー(=ハニートースト)(HPMPがそれぞれMAXの5%回復)の出来上がりだ。

 再びヴァーリが青い瞳を丸くする。


「料理はともかくとして、その皿はどこから出てきたんですか?」


 ……ですよねー。

 たぶん上のハニトーを食べ終われば消えます。

 インベントリが(から)のお皿でいっぱいになっちゃった覚えはないから。

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