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18・糾弾(虫魔物注意!)

「なんなのよ!」


 グルヴェイグが、どこか悲痛な声で叫ぶ。

 その瞳は私の姿を捕らえていた。

 いや、ファヴを見てるのかな? 十年前にゲイルを奪われたことはともかく、『料理』の原料扱いするファヴを止められなかったことは、本当に悪かったと思う。でもこの人、だれにも止められないと思うんだ。


「なんであんた、エギル! 私に(ゲイル)を奪われたあんたが、ぬけぬけと戻って来てんのよ!」


 ごめん、昨日もこの王宮に泊まってました。


「あんたなんか牢でやつれて骸骨になってればいいのよ! (ゲイル)を奪われて、その(ゲイル)の手で家族を殺されて、不幸のどん底にいるべきあんたが、どうして私より良い男を連れてるのよ!」

「グ、グルヴェイグ?」

「おお。いい趣味だな、グルヴェイグ。俺の兄者は良い男だぜ!」

「スコルもエギルと一緒に来たのよ」

「ハティも一緒に来たのですわ」


 下半身の巨大な蜘蛛を黄金に輝かせ、人間の顔のほうは真っ赤にして叫ぶグルヴェイグに、周囲はついていけないようだ。そもそもゲイルとレギン様のふたりは、彼女が魔物だということを理解していないように見える。

 ゲイル様は自分よりファヴを良い男だと発言した彼女に愕然とし、ブラコンのレギン様は称賛し、スコルとハティは自分達の存在をアピールしている。なんでアピールする必要があるのかはわからない。

 子どもって自分に注目が集まってないと拗ねるっていうから(前世の私は喪女だったけど友達には主婦もいたのだ)、それでかな。


「私から離れたほうが幸せになるなんて許さない! Aも私と別れて大学に入学したら活躍するようになるなんておかしいわよ! まるで私より、私と一緒にいるより……」


 A? それは明らかに名前ではなく、便宜上の呼び分けに過ぎない気もしたが、なぜかそれを聞いた途端、前世で死ぬ直前に参加していた合コンで話題になったスポーツ選手のことが頭に浮かんだ。本当の名前は思い出せない。

 参加してた別の女性が高校の同級生だとか言ってたっけ。確かストーカーに狙われていると言っていたのもその女性だった気がする。

 なんで、いきなりこんなこと思い出すんだろ。大学って言葉のせいかな? でも大学は前世だけじゃなくて今世のレーヴァティン帝国にもあるし──


「きええぇぇぇええっ!」


 なにやらしゃべっているうちに感極まったのか、黄金に輝くグルヴェイグが奇声を上げて私のほうへ押し寄せてくる。腹の辺りからレギン様とゲイルに伸びていた糸が切れた。

 またまた前世のことを思い出す。

 そうそう、前世で死んだときもこんな感じだった。世界がスローモーションみたいになって、そのくせ自分の体はぴくりとも動かなくて。というか、なにが起こっているのかもわからなくて。


「エギル!」


 今世は前世とは違った。

 私とグルヴェイグの間にファヴが飛び込み、聖剣エッケザックスを抜いて彼女を斬り捨てたのだ。

 ダンジョンでは魔術中心だったけど、彼の腰にはずっと聖剣があった。


 ダンジョンの中ならば、ダンジョンに吸収されるまでの間魔物の体はそのまま残る。昨日今日とこの目で見た。

 しかし彼女は間違いを犯して転生させられた人間だったからか、ファヴが使ったのが聖剣だったからか、しゅわしゅわと溶けていく。

 溶けて溶けて最後には、中庭の地面にうっすらと残る染みになった。


「……グルヴェイグ……」


 呆けた表情のゲイルが染みの前で膝を落とす。


「魔物だったのかー。良い女だったのに残念!」

「レギン。貴方は女性の趣味が悪いんです」

「え? そうかな、兄者」

「ふんふん。完全に消えてしまったのよ」

「ふんふん。もう罰は終わったのかしら」


 スコルとハティは染みの辺りを嗅いで首を傾げていた。


「……エギル……」


 俯いたゲイルが、絞り出すような声で私の名前を呼んだ。


「貴様はいつも、俺を通り越して『だれか』を見ていたな。それがその男なのか?」

「ゲイル?」

「俺はその男の身代わりだったのか、と聞いているんだ!」

「……」


 もしかしたらそうだったのかもしれないが、当時は前世の記憶がなかったのだからどうしようもない。

 それでも私はゲイルの糾弾に罪悪感を覚えた。

 婚約者の私が彼を見ていなかったのなら、彼の気持ちが離れても仕方がない。


「なんの話です?」


 突然ファヴが私を抱き寄せた。


「私とエギルが出会ったのは昨日のことです。彼女はだれにも身を許したことのない清い体でしたよ」


 おい、コラ。昨日までは清い体だったけど、今日はもう違うと言外に教えるな。


「確かにエギルは私の顔が大好きなようですが、それはただの好みに過ぎません。もし貴方が彼女に誠実で婚約関係を守って妻としていたら、エギルは貴方を愛していたと思いますよ。その後で私と出会っても見向きもしなかったでしょう。元々政略的に結ばれた婚約ですよね? お互いに相手を大切にしなくては愛など生まれるはずがないではありませんか」


 私の罪悪感は残ったままだけど、ゲイルはなにも反論しなかった。

 不意にレギン様が声を上げる。


「なあ、決闘の続きどうする?」


 この状況で続きをすると思うのか?

 レーヴァティン帝国の兄弟皇子はどちらも空気を読む気がないらしい。

 ああ、『YoursAge(君の時代)』の中の君らも、いつも自由だったよね。私は心の中で、何度目かわからない溜息をついた。

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