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1・遅くね?

 ミステルティン王国フォルセティ侯爵家令嬢エギル(28)こと私は気づいた。

 この世界が前世でプレイしたオープンワールド系のRPG『YoursAge(君の時代)』と同じだということに。

 アラサー二十八歳独身の夏、恩赦を受けて監獄塔から解放されたときのこと──って、遅くね?


 そりゃいくら剣と魔術の中世風ファンタジー世界でも二十八歳で人生は終わらない。

 だけどさあ、実家のフォルセティ侯爵家は一年前に、隣国フロッティ王国へ侵攻しようとしたゲイル国王(私の元婚約者)を諫めて滅ぼされてるし、恩赦を受けたのも友好国のフロッティに救援要請を受けたレーヴァティン帝国がミステルティン王国軍を退けた後、ついでにこの王国を制圧したからだし、恩赦の際にもらった支度金は銀貨三十枚だし……もらえるだけありがたいけどさあ……どう考えても、私の人生詰んでね?


 せめて十年前、当時王太子だったゲイルに魔術学園の卒業パーティで婚約破棄されたときに思い出していれば……って無理か。

 『YoursAge(君の時代)』は乙女ゲームじゃない。主人公は冒険者だ。王侯貴族と関わるのはイベントのときだけ。

 ゲーム内で語られなかった貴族社会の出来事で前世の記憶が蘇るはずがない。


「……はーあ……」


 銀貨三十枚が入った革袋を手に、私は王都広場の噴水のほとりに腰かけた。

 楽しげにはしゃいで走り回っている子どもの声が聞こえてくる。

 制圧した帝国軍人が見回りをしている広場は、正直ミステルティン王国だったときよりも治安が良さそうだ。ゲイルは王太子時代から内政を顧みず領土拡大をほざくだけの莫迦だったし、私の投獄直後に亡くなられた先王陛下ご夫妻はひとりっ子のゲイルに甘々だったものねえ。


 ちなみに私は冤罪ではない。

 婚約破棄のときに断罪された通り、私はゲイルの恋人グルヴェイグを呪っていた。

 ただちょっとだけ言い訳をするならばミステルティン王国では、というか『YoursAge(君の時代)』の世界では呪術は違法ではない。むしろ自力で護符や防御魔術を駆使して身を守らないほうが悪いとされている。


 ……まあ、恋に溺れたゲイルにそんな理屈は通用しなかったわけだけど。無理矢理の傷害罪適用でしたよ。

 てか、平民出の特待生だったグルヴェイグが護符を用意したり防御魔術を頼んだりできなかったのなら恋人のゲイル王太子殿下が手配してやれよ、って話だよねえ。

 正直婚約破棄のとき、愛され貢がれて艶々しているグルヴェイグより、嫉妬に狂い日夜呪術に明け暮れていた私のほうが痩せ衰えていて、どっちが呪われてるんだ状態だったんだけど。


 これから、どうしたらいいんだろう。

 『YoursAge(君の時代)』はプレイヤーの行動で世界情勢が変わるフリーシナリオ形式だったから、ゲーム知識で無双チートできるとは思えない。

 銀貨三十枚で何日暮らせるのかな。十年も獄中生活だったし、それ以前も侯爵令嬢だったから王都の物価がわからない。ゲームの基礎知識だけを頼りにほかの町や国へ行くのもねえ。


「……ステータスオープン……」


 溜息交じりに自嘲しながら呟いてみたら、


「うぇっ!」


 本当にステータスボードが出現した!

 慌てたけれど、周囲の人間には見えていないようだ。


【エギル(元フォルセティ侯爵令嬢)・二十八歳】

【HP030/100・MP500/500】

【攻撃5・防御3・命中率70】

【魔術攻撃62・魔術防御93】

【筋力5・精神95・敏捷1】

【生活魔術:料理(未習得)・洗浄(未習得)・修復(未習得)】

【戦闘魔術:炎術(未習得)・地術(未習得)・風術(未習得)・水術(未習得)・聖術(未習得)・呪術LV2】

【戦闘技術:剣術(未習得)・弓術(未習得)・槍術(未習得)・打撃武器術(未習得)・体術(未習得)】


 うわー、私の精神95もあったんだ。ゲイルに裏切られたことでストレス耐性がついたのかな。その割には獄中で鬱々してたんだけど。……婚約破棄されて投獄されて実家が滅ぼされたら鬱にもなるか。

 筋力低っ! 敏捷もそこらで走ってる子ども以下でしょ!……うん、以下だな。この十年一度も走ってないもんね。

 防御は装備依存度が高いからこんなもんか。


 魔術はLV4がMAXだから、魔術学園の授業と独学だけで呪術LV2なら上等かもね。

 でも呪術は直接攻撃術が少ないんだよなあ。敵弱体化と状態異常がメインなの。

 とはいえどんな魔術もLVに応じた術を習得して組み合わせるのが大切だったっけ。などと思いながら、呪術の文字をタップして詳細を確認する。


「鈍足・暗闇・混乱・沈黙・睡眠・毒・呪い(カース)即死(デス)傀儡(くぐつ)化……どれもLV1対応の弱威力呪術のみか。LV2対応の中威力呪術の指南書はどこで売ってるんだったかなー。ダンジョンで拾えるのは……ん?」


 私は、呪術のレベルアップが可能なことに気づいた。

 魔術学園の授業と独学で、ちゃんとスキルポイントが溜まっていたらしい。これまでは自動で振り分けられてたのかしら。

 しかし、レベルを上げても指南書が手に入らないと意味がないしなあ。魔術攻撃と魔術防御の数値は上がると思うけど、今のままで十分だ。HPとMP以外のパラメータ値は100がMAXだもの。装備による+ならオーバーできる。いや、まあ、『YoursAge(君の時代)』と同じなら、だけどね。


「あ、でも……」


 私はステータスボードのページを戻し、生活魔術の項目をタップした。

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