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幕間 股がけする者は股がけされるのが世の中というものだ。

 高校の運動部でマネージャーだった彼女に、一番最初に告白してきたAはスタープレイヤーではなかった。

 才能はあったし努力もしていたものの、要領が悪くコーチや監督に評価されていなかったのだ。

 彼女はAにふたりの関係を秘密にしようと言った。最終的にAを選ぶにしても、最初からAに縛られたくはなかったのだ。自分は可愛い上に尽くす女なのだ。A程度に独占されたくはない。


 こっそりAと付き合い始めてしばらく経ったころ、今度は間違いなくスタープレイヤーのBに告白された。

 当時Bには恋人がいたのだけれど、彼女がAに告白されたと聞いて焦ったのだと言われた。

 邪魔されたくはないから、Aと別れるまではこっそり付き合おうと言われて頷いた。Bがほかの女の子と一緒にいるのを見ても、カモフラージュだと信じていた。


 モテ期が来たのだろう。

 Bと付き合い出すと、同じ部のスタープレイヤーであるCやDにも告白された。

 もちろん彼女はキープした。だれが本命ということもない。卒業の時点で一番優れた男を選ぶつもりだった。その後、EやF、GやHにも告白されて付き合い始めた。


 股がけの対象が多くなり過ぎて、彼女は男達に優先順位をつけた。

 一番最初に告白してきた、一番自分を好きなはずのAを一番後回しにした。

 スタープレイヤーでもない彼なら、その立場に甘んじるはずだと思った。付き合ってあげているだけでも感謝するはずだと信じていた。


 卒業間近のある日、彼女はAがほかの女の子と一緒にいるところに出くわした。

 Aを責めると、自分達の関係はとっくの昔に終わっているだろうと言われた。

 自分のように魅力的な女の子と付き合えているのに、後回しにされたくらいで浮気するなんてバカな男だと、彼女はAを捨てることにした。BもCもDもEもFもGもHもいるのだ。男には不自由していない。自分のように尽くす女を捨てて、損をするのはAのほうだ。


 そして、卒業した彼女はだれとも連絡が取れなくなった。

 電話は通じないし、メールの返信もない。ふたりだけのチャットにも反応はない。

 カモフラージュだと思っていたほかの女の子のほうが本命だったのかと思いそうになったが、そんなはずはない。こっそり付き合い過ぎて、日陰の女を望んでいると誤解されたのだろう。みんな彼女のために連絡してこないのだ。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


 グルヴェイグがそんな昔の記憶を反芻していたのは、目の前でミステルティン王国元国王ゲイルが、レーヴァティン帝国の第二皇子レギンと決闘をしているからだ。


「脇が甘いぜ!」

「貴様こそ!」


 ここはミステルティン王国王宮の中庭。

 新しく生まれ変わった彼女(グルヴェイグ)は魔物だ。男達の争いを見ているうちに興奮して本性を見せては殺されてきたので、今回は直接決闘を見物する気はなかったのに、ゲイルとレギンに引きずり出されてしまった。

 どちらもグルヴェイグを求めているから、彼女に自分の雄姿を見せたいのだろう。


 自分を巡って男達が刃傷沙汰を起こすのを見るのは心地良い。

 オタサーの姫だったことを思い出して愉悦に浸れる。

 だけどゲイルを見ていると、ときどき嫌な気分になるのだ。彼の瞳が自分でなく、べつのだれかを探しているように思えてしまう。帝国の制圧によって、彼の元婚約者が監獄塔から解放されたと聞いてから、その感覚が強くなっている。


 ゲイルが、グルヴェイグよりも元婚約者のエギルとかいう女を求めているなんてことあるはずがない。

 彼は自分に夢中だ。男達はいつだって自分に夢中になって、戦ってでも手に入れようとする。それが当たり前、それが真実だ。

 目の前の決闘を見つめながら自分に言い聞かせていたら、卒業間近に出くわしたときのAの言葉が耳に蘇ってきた。


 ──上手くやってるつもりなのかもしれないけど、股がけするような奴は自分も股がけされていることに気づいてないだけだぜ。もっと自分を大事にしろよ。


 あんなのただの負け惜しみだ。

 彼女がAよりB達を優先するのが悔しかっただけだ。

 大体今のグルヴェイグがあのときの少女ではない。女神の名前を持つ不死身の魔物だ。あのときAの隣にいた娘の憐れむような視線に泣き出したくなったりしていない。


「はぁっ!」

「やっ!」


 やがてゲイルとレギンが互いに傷つけ合って、辺りに血の匂いが満ちてきた。

 グルヴェイグは舌なめずりをして、前世の感情など忘れてしまった。

 どうして今回は決闘を見物しないでいようと思ったのかも、もう頭の中にはない。血の匂いは甘く心地良い。今の彼女(グルヴェイグ)は魔物なのだ。

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