16・prettyとお出かけ♪
「きゃっふきゃっふー♪」
「きゃふふきゃふふー♪」
ダンジョンの外、ミステルティン王国の王都に魔物の姿はない。
レーヴァティン帝国に制圧されたから、ではない。
ダンジョンの中と外では魔力濃度が違うので、契約した魔物であっても外で生活するのは難しいのだ。命のなくなった魔物肉なんか霧散するし毒もあるしね。
だから契約された魔物は本来の住処であるダンジョンで生活し、契約者が必要とするときにだけ、べつのダンジョンへ呼び出されるものなのだ。
前世のゲーム『YoursAge』ではそういう設定だったし、今世の魔術学園でもそう習った。
ちなみに倒した魔物のリポップ法則については、前世ではゲームだったから攻略サイトに載ってたし検証動画がアップされたりもしてたけど、今世ではまだ研究中。ダンジョンに潜ったことのある冒険者や研究者は経験で、法則らしきものがあることに気づきかけている状態かな。
「きゃっふきゃっふー♪」
「きゃふふきゃふふー♪」
だから、その──
「スコル様ハティ様、どうしてダンジョンの外まで一緒にいらしたんですか?」
私が尋ねると、二匹はつぶらな瞳をさらに丸くした。
幼獣バランスの大きな前足を振って、私を呼び寄せる。
尖った牙が無数に生えた大きな口から、小さな声を出して説明してくれる。……囁き声でも結構大きいんだけどね。
「……エギルに契約されたのだから、一緒に行くのは当たり前なのよ」
「……当たり前なのですわ」
「……ダンジョンの中と外では魔力濃度が違い過ぎるでしょう。いくら聖獣様とはいえ、大丈夫なのですか?」
「……エギルの側にいれば大丈夫なのよ」
「……人間は魔術を使っていないときも魔力を放出しているものなのです。ハティ達に必要な魔力が供給されているから大丈夫なのですわ」
「……それって……」
私が、ダンジョン外でも二匹が安定して存在出来るだけの魔力を放出してるってこと?
今朝起きてこっそり見た段階でステータスボードで最大MPが爆増してたのは、前世を思い出したことによる転生チートだった? やっぱり私の転生にはなにか意味があるのかも。
などと中二病丸出しでアラサー元令嬢が調子に乗っていたら、スコルとハティが続きを口にした。
「……あの男の魔力が多いからなのよ」
「……とても人間の魔力量とは思えないのですわ」
「……」
「?」
ファヴかあ……見つめると、彼は柔和そうに見える笑みを返してきた。
もしかして、今朝私の最大MPが爆増(昨日500→今朝5000)してたのは、昨夜ファヴと関係を持ったせいだったりするのかな?
今世のファヴの最大MP、10000越えてたりしてねー。
うーん、なんでなんだろう。
生まれつきの才能に帝国の第一皇子という恵まれた環境、本人の努力──どれかひとつでも十分な理由になる上に、すべてが組み合わさってるんだから当然と言えば当然なんだけどさ。
前世のゲームでも鍛えに鍛えたNPCの最大MPが1000行けばいいほうで主人公だって1000超えるのは難しいシステムだったのに、最低ライン1500のチートキャラだったもんね。
『YoursAge』の製作スタッフに愛されてた? でも今世とゲームが=ってわけでもないしな。
実はファヴも転生者だったり?
私に執着してるのは『料理』だけが目当てじゃなくて、転生者は転生者を知るから? 確認してみたいけど、聞くのが怖い。
「どうしましたか、エギル。聖獣様方が質問に答えてくださっているのに、私ばかり見つめていてはダメですよ」
「そうなのよ、エギル」
「ちゃんとハティ達の話を聞くのです。……でも聞かれたことの説明はもう終わっていたのですわ」
「は! 大きな声でしゃべっていたら、スコル達がprettyな聖獣だと気づかれてしまうの。人間が寄ってきて身動き出来なくなってしまうのよ。きゃふきゃふ!」
「そうですわ! ちゃんとただの仔犬の振りをするのですわ、きゃふきゃふ!」
ダンジョン出てから、きゃふきゃふ言ってると思ったら、仔犬の振りしてたのか。
二匹とも、ちょっと生き物の大きさというものについて考えてみようか。
──そんな感じで、ファヴと私と二匹の聖獣は、王都中の視線を集めながら王宮へと戻ったのだった。
というか、王宮に戻ったのでいいの?
スコルとハティは、私がファヴと離れた場合どうなるの?
私の明日はどっちだ!