15・聖獣と契約(テイム)しました。
「ふおおおおおおっ! 美味しいのよー!」
「美味しいのですわー!!」
スコルとハティの体の大きさを思うと、人間用の大福では食べ甲斐がないだろうと考え、私はスキルポイントを使って生活魔術『料理』をレベルアップした。
複数の魔物肉を使って大きな『料理』を作るためだ。
私がステータスボードを開いてスキルポイントを割り振っている間、ファヴは見ないでいてくれた。前世の老舗の技とか企業秘密と一緒で、魔術の技法は隠匿されるのが普通だから、なにをするのかと聞かれることもなかった。レベルアップすること自体は伝えたけどね。
「これはっ! これはっ! こ、こんなに大きな大福を食べられるなんて幸せです! 自分の頭よりも大きな料理を食べられるなんて夢のようです!」
「スコルにはちょうど良い大きさなのよ」
「ハティにもちょうど良い大きさなのですわ」
「ああ……甘く滑らかなクリームに溺れてしまいます」
「この赤い植物の実が甘酸っぱくて美味しいのよ」
「黒くて甘いのがお腹に溜まるのですわ」
全員満足しているようだ。
前世で犬を飼ってた友人が、上顎につくと取れにくくて危険だから犬に餅はあげられないって言ってたけど、この大福は求肥だから大丈夫だよね。あ、この子達犬じゃなくて狼だった。……餅の危険性については変わらないか。
大福が大き過ぎてファヴの美貌が白い餅とり粉に覆われてる。それでもイケメンなのだから、顔面偏差値による補正は恐ろしい。
「むふー、美味しかったのよ」
「むふー、美味しかったのですわ」
「はあ……とても美味しかったですよ、エギル」
「ファヴと聖獣様方にご満足いただけたようで、私も嬉しいです」
言いながら、私は食いしん坊達に抹茶を差し出した。
ファヴはコップ、スコルとハティはファヴが用意してくれていた大鍋で作った。
『料理』は手づかみで食べるものと飲み物系以外は(昨日のハニトーはファヴが持ってたナイフで切って刺して食べてた)食器も一緒に出てくるのだが、今日は食べきれなかったときに備えてファヴがいくつかの鍋を用意してくれていたのだ。……ファヴが食べきれないとかあるのかなあ。
抹茶を口に運ぶ前に、ファヴの顔を覆っていた餅とり粉は消え去っていた。
え、なにそれ、なんかの魔術?
もしかして、どんなに汚れても次の瞬間には綺麗になってるのってドラマや映画の編集のせいじゃなくって、イケメンの標準装備スキルだったの? 肌がスベスベだから粉が落ちやすいだけ?
「この緑の水は苦くて美味しくないのよ」
「美味しくないのですわ」
「やれやれ。この苦みがあるからこそ、大福の甘さが引き立つのでしょうに」
スコルとハティに抹茶は不評だった。
抹茶ラテなら喜んでくれたかもしれないが、抹茶ラテの原料になる上位種の魔物パンは全部凄く美味しいクリーム苺大福にしちゃったんだよね。
だから上の層で作った下位種モンスター製魔物パンしかドリンクに出来なかったのだ。
「ふむー、ほかの料理も食べてみたいのよ」
「ふむー、ハティは昨日の四角いのが食べてみたいのですわ」
「ああ、昨日のハニトーもとっても美味しかったですよ」
『料理』して食べようと思ってた聖獣と普通に話すファヴはメンタルが強過ぎると思う。
見てるこっちのほうが、なんかモヤモヤしちゃうんですが。
「「というわけで」」
「スコルと」
「ハティは」
「「エギルと契約してあげるのよ」あげるのですわ」
使命があって異世界転生させられたネット小説の主人公じゃないから断ってもいいんだろうけど……私は、ちらりとファヴの様子を窺った。
彼はどう思ってるんだろう。
まあ契約してもしなくても、ファヴとの関係は彼次第なのは想像出来る。
「どうしましたか、エギル」
私の視線に気づいて、ファヴが微笑む。
「聖獣様方との契約……ファヴはどう思いますか?」
私の言葉を聞いて、スコルとハティの顔色が変わった。
「ま、まさか断る気なの?」
「そ、そんな嫌ですわ。四角いのを食べたいのですわ」
二匹の聖獣の耳と尻尾がぺたんと垂れた。
ファヴが口を開く。
「私の意見を求めてくださるとは光栄です。私は契約することをお勧めしますよ。……今の貴女は無防備過ぎる」
昨夜『隠密』使って寝室に忍び込んできた人がなんか言ってる。
「このままでは私達の関係を公表することも出来ません。私が貴女を気に入っていることが知られたら、たちまち悪い人間が近寄ってくるでしょうからね。忠実な部下や家臣といえども信用出来ません。貴女自身を守る存在が必要ですよ。……片手鍋以外で」
ぐぬぬ。片手鍋は悪くないでしょう、片手鍋は! 私の片手鍋を侮辱しないで!
というか、『隠密』使って忍び込んできたのは部下や家臣達にも秘密にしたかったからなのか。
ファヴが私を王宮に連れて来ただけなら、ミステルティン王国の元令嬢を保護したってことで誤魔化せるのかな?
レギン様には特別扱いと公言してた気がするけど、うん、まあ、レギン様がファヴに逆らうことはなさそうだよね。
「そうですね」
私はスコルとハティと契約することにした。
二匹の頭に手を置いて誓いの言葉(頭に浮かんできた)を口にすると、手の甲に紋章が浮かび上がってきた。スコルとハティの紋章だ。
……ゲ、ゲームと同じで凄くドキドキする。これからなにがあるってわけでもないんだけどさ。
契約を済ませたスコルとハティは普段はこのミステルティン王国のダンジョンで生活しながら、私がこの紋章に呼びかけるとどこへでも召喚されることになる。
とりあえず今日は、ファヴが食べ残した魔物を倒しながらダンジョンの入り口まで見送ってくれることになった。
二匹は甘党のファヴと違って食事系も大歓迎らしい。




