14・prettyからのお願い
「失礼しました、聖獣様方。お話とはなんでしょうか?」
お辞儀をして尋ねると、二匹はむふーと鼻息を漏らして答えた。
「お願いがあるのよ」
「お願いがあるのですわ」
お願い……その言葉に、私の心でぴこーん! と閃くものがあった。
もしかして、私の転生には意味があったのかもしれない。
なにかの目的があって神様に選ばれて異世界転生したのだが、さまざまな妨害があって今世の私が二十八歳になるまで前世の記憶は戻らず、真実を伝える役目を受け持った聖獣スコルとハティも誕生出来ていなかった──そういうことかも。
はい、中二病です。
そうです。ジャケットのファヴにひと目惚れしたとはいえ、中二病まっしぐらのゲーム『YoursAge』に興味を持ったという時点でバレバレだよね。
前世の私はどこに出しても恥ずかしい、アラサーの中二病でした。
しかし使命があったのだとすれば、前世二十八歳で死亡、今世二十八歳で記憶が戻るという設定にも意味があるように思えてくる。
ほら、ネット小説とかで転生・転移する社畜サラリーマンって大体二十八歳じゃない? いやまあ最近は四十オーバーも増えてたけど。
三十代と二十代の狭間、知識と経験と最低限の若さが噛み合った異世界転生に最適の年齢が二十八歳なんじゃないかな? うっひょー、燃えるー。
私は自分の胸に手を当てて、スコルとハティの言葉を待った。
あ、昨夜ファヴと関係を持っちゃったのはハーレム系の運命が待っているから?
えー、どうしよう。異世界転生チートには憧れるけど、ハーレムはべつにいらないなあ。女性が主人公だった場合はハーレムじゃなくて逆ハーっていうんだったっけ?
「スコルもその丸いのを食べたいのよ」
「ハティもその丸いのを食べたいのですわ」
「……え? 大福が食べたいだけですか?」
「そうなのよ。その丸いのが美味しそうだから、本当は成獣になるまで隠れているつもりだったのが我慢出来なくなって出て来たのよ」
「……」
きっぱりと食い意地が張っている宣言をしたスコルとは対照的に、ハティは沈痛な面持ちでぷるぷると震え出す。
「どうなさったのですか、ハティ様」
「ハティ?」
「……ハティは、ハティは昨日の四角いのも食べたかったのですわー!」
昨日から見てたのか。
ハティはダンジョンの地面に転がり、お腹を見せてジタバタする。
お腹はモフモフだ!
「スコル、昨日はあんな風に出現するなんて怪しいってハティを止めたくせに、今日は自分が食べたいからって話しかけてズルいのですわー!」
「ゴメンなのよ」
スコルは一応謝罪したが、軽く舌を出した『てへぺろ』状態なので、あまり真剣みは感じられなかった。
ハティはすんすんと鼻を鳴らしながら体を起こす。
「昨日の四角いののほうが良い匂いでしたのにー」
「昨日の四角いのは、またバット種が復活したら作ってもらえば良いのよ。というか、この丸いのが美味しかったら、スコルとハティはこの人間と契約してずっと美味しいものを献上させ続けたら良いのよ」
前世ゲームの『YoursAge』だけでなく、今世現実のこの世界にも契約の概念がある。魔術学園でも習った。
ステータスボードの表示やスキルポイントの割り振りは私限定みたいだけど。
幼獣とはいえ聖獣のスコル・ハティと契約出来たら、これからの人生楽になりそうだなあ。でも権力者に狙われそう……などと思っていたら、レーヴァティン帝国の第一皇子がそっと私の肩を抱き寄せた。彼は耳元で言う。ひゃううう、美声の上に息をかけないでくださいよー。
「……エギル。あの魔物はどんな『料理』になるんですか? 貴女も初めて見る魔物なのかとも思いましたが、固体名までご存じなようですし、おわかりなのではないですか?」
「……聖獣様は『料理』出来ません」
そういえば答えてなかったな、と思いながら返事をして、私は心の中で溜息をついた。
次々と食いしん坊キャラに会う辺り、ネット小説の異世界転生主人公の資格は十分に満たしてる気がするのだが──というかファヴ! 人間の言葉話してるスコルとハティ食べる気だったの?