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13・ニチアサかな?

 通路の入り口、ダンジョンの壁に隠れて大きな顔を半分見せているのは、私が知らない魔物だった。


 んんん? おかしいな。

 前世で『YoursAge(君の時代)』はやり込んだし(エンドはコンプしてないけど)、今世でもフォルセティ侯爵家の令嬢としてミステルティン王国のダンジョンに出現する魔物の種類は頭に叩き込んできたのにな。幼いころの婚約者(ゲイル)に、単語カードならぬ魔物カードを作って暗記を手伝ってあげたこともあるほど詳しかったのだ。

 十年間の獄中生活を送ってた間に新種が発生したのかしら。


 んー。知らない……知らないんだけど、どことなく見覚えがある。

 魔物は二匹いて、通路の左右に陣取ってそれぞれの顔の半分を見せている。

 銀の毛皮を持つ犬系魔物だ。この世界では神狼フェンリル様が信仰の対象になっているので、犬や狼を模した魔物は少ない。犬や狼は邪悪ではなく神聖な存在なのだ。家畜を襲う野獣の狼を狩るときはフェンリル様に生贄を捧げて許可を得る。


 うん、やっぱり見覚えがある。魔物を見つめて首を傾げた。

 でも全体の大きさと体のバランスが記憶と違う気がする。

 私が覚えている銀色の毛並みの犬系魔物はもっと大きくて、しゅっとしてた。あんなモコモコでフワフワな可愛い屋さんじゃなかった。


 ……ん、そうか!

 ミステルティン王国のダンジョンに巣くっていた嫉妬の竜インヴィディアが倒されて、まだ一年しか経ってないんだ!


「……エギル?」

「大丈夫です、ファヴ」


 立ち上がるとファヴに心配そうな顔をされたが、私は首を横に振り、モコモコでフワフワな可愛い屋さんに向かって口を開いた。


「初めまして、スコル様ハティ様。私は神狼フェンリル様を祭っていた今は亡きフォルセティ侯爵家の娘エギルと申します。私自身は冥府の女神ヘル様の守護をいただいております」


 前世のRPG『YoursAge(君の時代)』はマルチエンディングで、いくつものエンドがあった。


 その中でも難関とされていたのが『聖獣王』エンド。

 これは八体の聖獣と契約(テイム)することで迎えられるエンドだ。聖獣は竜を倒して三年経つと出現する。

 すでに世界の一部となっているダンジョンが崩壊したり暴走したりしないよう、神がダンジョンの管理者として遣わしてくれる存在らしい。


 聖獣の出現が竜を倒して三年経ってからというのが問題だった。

 やり込んでた割に下手の横好きゲーマーだった私は、いつも最後の竜を倒すのがギリギリになってゲーム終了までにすべての聖獣と契約(テイム)出来なかったんだよねえ。

 アクション要素さえ! アクション要素さえなければ!


 スコルとハティは前世の北欧神話に由来する名前を持つ狼系の魔物で、ミステルティン王国のダンジョンに遣わされた聖獣だ。

 成獣(おとな)になってから来るんだと思ってたけど、幼獣(こども)のときからいたんだね。大きさやバランスが違うだけで、面影は同じだ。

 竜を倒したとき、辺りに霧散する強い魔力に神が手を加えることで聖獣が誕生するのかもしれない。学園時代、呪術研究の一環で人造魔物を試作していたことを思い出す。


「よくわかったのよ」

「ハティ達は竜無きダンジョンを調整し、世界に調和させるために存在する聖獣なのですわ」


 成獣(おとな)の姿よりは小さいけれど、通常の大型犬よりは一回りは大きい幼獣(こども)達が通路から出てきて幼い声で言う。


「スコルと!」

「ハティ!」

「「二匹はpretty(プリティ)!!」」

「なのよ」

「なのですわ」


 ……ニチアサかな? どっちかというと私はヒーロードラマのほうが好きだった。

 イケメン目当てだよ、言わせんな。

 というか、洋風の彫りが深い顔よりも和風のすっきりした顔のほうが好きだったんだよね。思いながらファヴを見る。どうして、こんなに彫りが深くて端正な顔の洋風イケメンの彼に、ゲームのジャケットを見ただけでひと目惚れしちゃったんだろうか。


「どうかしましたか、エギル」

「あ、ごめんなさい。なんでもないんです」

「見つめたかっただけなら、それはそれでいいんですよ。貴女が私の顔を好きなことはよく知っていますから。……ところで、今聖獣様方がおっしゃったpretty(プリティ)というのはどういう意味なのでしょうか」

「可愛いって意味だと思いますよ?」


 って、あれ? そういえば、私達の会話って英語でも日本語でもないな。

 単語が『YoursAge(君の時代)』と同じなだけだ。


「そうなんですか。……貴女は本当に、いろいろなことをご存じですね」

「……」


 ファヴには『料理』は呪術研究の一環で生み出した新技術って話してたっけか。

 どの魔物からどんな料理が出来るか知ってることは昨日の段階で気づかれてたし、これまでなにも聞かれなかったのは泳がされてただけだったのかしら。

 本当の(転生者だという)ことを彼に話したらどうなるんだろう。レーヴァティン帝国の世界制覇に役立つような知識はないと思うけど。なんて考えてたら、幼い声が不満を漏らした。


「むー。せっかく華麗に名乗ったのにー」

「ふたりで見つめ合ってないで、ハティ達の話を聞いて欲しいのですわ」


 面影は一緒だけど、二体の聖獣達の雰囲気はゲームとは違う。

 まあ幼獣(こども)成獣(おとな)で雰囲気まで一緒だったら問題だよね。

 私は聖獣二体に視線を戻した。そういえばこの二体、ゲーム内でも名乗りやってたな。確か──


 風のスコル。

 水のハティ。

 太陽を食らい月を飲み干す天空の聖獣スコルとハティ!


 だったっけ。

 名前の由来になった北欧神話でスコルは太陽をハティは月を追う、と言われてるからだろうけど、どう見ても中二病です、ありがとうございました。

 うん。この聖獣達、内面は幼獣(こども)でも成獣(おとな)でもあまり変わらないのかも。

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