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12・初めての大福(虫魔物出現注意!)

「……はぁん、こんなの初めてですぅっ!」


 え? 昨日も聞いたって?

 昨日はハニトー(=ハニートースト)、今日は大福初体験なのです。

 大福もお気に召したようなので、今日もふたりでダンジョンを下っていく。


 魔物パン+イビルキャタピラー(=芋虫モンスター)の魔物肉で大福、リドルキャタピラーの魔物肉で苺大福、デビルキャタピラーの魔物肉でクリーム苺大福になるのだ。

 ……豆大福の立場はどうした!

 私は豆大福一押しなんだけどなあ。いや、苺大福も好きなんだけどさ。


 どの大福を食べても端正な顔をメロメロに蕩けさせて喘ぐファヴの隣で、私は片手鍋で抹茶ラテを作る。

 水+イビルキャタピラーの魔物パンで抹茶、リドルキャタピラーの魔物パンで抹茶ミルク、デビルキャタピラーの魔物パンで抹茶ラテなのだ。

 抹茶ラテと抹茶ミルクの違いは……ラテのほうがまろやか? そんな感じ。前世ではなんかいろいろ基準があったと思う。


 呪術の傀儡(くぐつ)化で武器にする予定だった片手鍋を使って『料理』をしていても大丈夫なのは、ファヴがこの辺りの魔物を殲滅したから。

 前世で『YoursAge(君の時代)』をプレイしていたときは、変形したり合体したりするデビルキャタピラーよりも、ダンジョンの景色に溶け込んでどこにいるのか謎かけ(リドル)してくる(しゃべるわけではない。隠れて攻撃して来るだけ)リドルキャタピラーのほうが倒しにくかったっけ。

 まあ今世ではファヴが劫火嵐波(クリムゾンストーム)で辺り一帯の魔物を全滅させるから、なにひとつ手こずることはなかったんだけどね。


 ダンジョンの深奥部へと潜りながら、向かって来る魔物全種を原料にして『料理』を発動してきたのでスキルポイントがかなり溜まって来た。そろそろレベルを上げてもいいかもしれない。

 あ、ファヴの胃袋が甘いものだと底なしとはいえ、さすがに全部を『料理』してはいないし食べてもいない。

 肉や魚、野菜を使った食事メニューは一食分しか食べないし、同じ種の上級魔物も倒していなかった。


 というか、ファヴが出合い頭に劫火嵐波(クリムゾンストーム)を放たなければ、強者の気配を感じた魔物のほうが去っていく。

 昨日のバット種は天井にいて、普通の冒険者だと魔術が届かないから油断してたんだよね。

 甘いものの原料になる種でも全部を『料理』してはいないから、今日このダンジョンに来た冒険者の運が良ければ、ダンジョンに吸収される前の魔物の死骸を山ほど拾って帰れるだろう。


 いやね、いくらなんでも食べ過ぎだと思って止めたのよ。

 一度に複数種類食べても感動が薄れるし、今日は大福メインの日にしましょうって言って。


「……ファヴ。お飲み物も口にしてください」

「ありがとうございます、エギル。貴女の料理の美味しさに、ついつい夢中になっていました。……ああ。これも美味しいですねえ。ほのかな苦みが優しい甘さを引き立てています」

「お口に合って良かったですわ」


 私もファヴの隣で抹茶ラテを飲んだ。私達はダンジョンの壁に背中を預け、大きな石の塊に座っている。

 周囲には『料理』してないデビルキャタピラーの死骸が転がってるけど気にしなーい。

 今世でも前世でも虫は得意じゃなかったけど、入り口の最上部から最深部(ここ)までで山のように見たからもう慣れた。……感覚が麻痺しただけかもしれない。


「ねえ、エギル」

「はい」

「貴女がカフェを開くときには、魔物達の死骸の匂いをどうにかしなくてはなりませんね。これではせっかくの美味しい料理自体の香りを楽しめません」

「そうですねえ……」


 一体や二体なら生活魔術『洗浄』で死臭を消せそうなんだけど、この量では無理だ。この量をファヴが聖術で『封印』するのもMPの無駄だと思うし。

 そう、要するに死骸の量が多過ぎるのだ。

 ファヴが劫火嵐波(クリムゾンストーム)で全滅させるからですよ、という言葉を飲み込む。


 数体倒しただけでは生き残った魔物達が襲ってくるんだよね。

 普段は隠れてて、こちらが油断したところで襲って来る魔物達も、同じ種を殺した相手には憎悪(ヘイト)が上がるから積極的に攻撃してくるようになる。『YoursAge(君の時代)』の設定では、だけど。

 だから全滅させないことには、こうして落ち着いてティータイムを楽しむことは出来ないのだ。


 それにしても、私はダンジョンでカフェを開くので決定なんだろうか。

 いや、確かに私が自分で言いました。言いましたよ?

 でもあれは将来の予測を立てられない状況で、少しでもゲーム転生で手に入れた力を活用しようとしての発言で──要するに、仕事に疲れた社畜が喫茶店やりたいとかほざくのと大して変わらない戯言だったんですよー。


 落ち着いて考えると、ダンジョンでカフェを経営しても採算が取れるとは思えない。

 ファヴがいれば生活に支障はないかな? そもそもファヴとずっと一緒にいるの?


「おや、エギル。新しい魔物が現れたようです。あれはどんな『料理』になるのですか?」

「新しい魔物ですか?」


 ファヴに言われて、私は今いる区域とべつの区域をつなぐ通路の入り口に目をやった。

 いきなり劫火嵐波(クリムゾンストーム)を放たなかったということは、憎悪(ヘイト)は向けてきていないのだろう。ファヴは食事系の魔物には興味がないから、向こうから襲ってこないのなら見逃すつもりなのかもしれない。

 昨日バット種を殲滅して今日キャタピラー種が現れたように、殲滅したらべつのお菓子系魔物が現れるというのなら、なんの躊躇もなく倒すだろうけど。

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