とある勇者はハイテクビルダースキルで帝国を築く〜魔王討伐?いやそれより建築したいので〜
「リオン…お前、ほんとに勇者なのか?」
森の中、一行は魔王討伐と言う目標を掲げ旅をしていた。
一行の人数は4人。
そんな旅の道中その中の一人、隊長を務めるトロイは不満を口にする。
「スライムに負けるって勇者としてどうなんだ?
それで報酬を4分の1持ってくってのは納得が行かねぇ」
リオン…そう呼ばれた彼は、すぐさま反論に出る。
「は? お前、あれ強すぎだろ。
斬っても死なねーじゃん」
リオンは悪びれる様子も無く、軽くトロイの言葉を受け流し笑う。
その様子を見てトロイは苛立ちリオンを睨んだ。
「そもそもよぉ、職業ビルダーって何だよ?」
「は?
お前、勇者パーティーには勇者、聖女、魔法使い、そしてビルダーは常識だろ?」
リオンは指を4本折り目の前で数えて見せた。
「聞いたことねぇよ!!
何だそれ、どこの世界の常識だ!?
そこは格闘家か盗賊だろ!」
リオンはやれやれと首を振り言う。
「これだから おっさんは
頭が硬い今向こうじゃ多様性の時代ってやつだぜ?」
「知るか!!」
トロイは更に続けてリオンに詰め寄り聞く。
「お前、ほんとに地球にいた頃の記憶を持った勇者なのかよ?」
「そうだな、おっさんと同じ勇者だ」
「リオン、目上の人にはだなぁ…」
「俺が転生する前の令和ではそんなのねぇから。
年功序列はとうの昔に死んだ」
トロイはこりゃ駄目だとばかりに肩をすくめ、ため息を吐き歩き続ける。
リオンはそんな事を気にも止めず話を続ける。
「あと、適材適所って言葉を知ってるか?
トロイ、俺いなくなったらトイレとかどうすんだ?
宿もないぞ?」
現在このパーティーでは、トイレや宿などの寝泊まりには毎回、リオンがビルダースキルを使用する事により快適に旅を続ける事ができている。
野宿もした事も無ければ大自然の中用を済ましたことも一度も無いのだ。
それに対してトロイは反撃に出る。
「お前!!
そもそも旅ってのはな、快適さとは無縁なもんなんだよ!
地べたに寝て、トイレはそこらへんですればいいだろうが!」
それを聞きリオンは首を振った。
「トロイ、俺、女性パーティーの勇者達にめちゃくちゃ誘われてるの知らねーだろ。
女性達の間では神って言われてんだ。
それに対してトロイ…影でお前、なんて言われてるか…」
トロイはその言葉に固唾を飲み覚悟を決めたと言う表情で続けろとリオンを見た。
リオルは胸ポケットから手帳を取り出し、容赦なく読み始める。
その手帳が使われる普段の役割はリオンの建築ネタ帳なのだが…メモにはこう書かれていた。
「生理的に無理…死ねば…きしょい…清潔感の無いおっさん…普通に臭い…」
「も…もういい…」
トロイは思わぬ攻撃を受け心に深刻なダメージを負ったらしく軽く服の袖で軽く目の上を拭った。
リオンはメモ帳をパタンっと閉じると再びトロイを見て口を開く。
「トロイ…お前が魔物倒して、俺が建築する。
報酬が減ったってそれ以上のリターンがあるだろ?」
「お前が!
お前みたいな若造がいつからこの世界にいるのか知らんが!
俺がいた頃の地球じゃあ、お前みたいな無礼な奴はいなかった!!」
悔し紛れにトロイはそう言うがリオンは涼しげな表情をしておりそのまま話を続けた。
「それに、今じゃ 最強&復讐スッキリ物語が流行ってんだよ。
お前あれだ。
俺を追い出せば10話か先かで後悔するぞ。
はい多数決。
俺がいると思う奴ーー!!」
リオンがそう調子よく言うとこのパーティーにいる女性陣の聖女と魔法使いが戸惑いながらも手を上げた。
トロイはこれが気に入らなかったようで聖女と魔法使いを睨む。
「それで…俺と…あれ? 反対なのリーダー、一人じゃないですかー?」
「いや…すいませんトロイさん。
トロイさんみたいに外でトイレはちょっと…無理かなと…」
仲間の聖女は頬を少し赤らめながら言い。
リオンはニヤリと笑いショックを受けるトロイを見て勝利を確信する。
そんな他愛もない会話をしているとそれは突如として起こった。
鳥達が騒ぎ、飛び立つ…。
それに気づいた勇者パーティーは笑みから真顔に戻り辺りを見渡す。
もうそこに先程のトロイやリオンはいない。
「リオン…やばかったら、いつも通り壁で攻撃を塞げ…」
トロイは声を潜めゆっくりとパーティーの中央に陣取り盾と剣を構え言う。
それにリオンは頷きで応え魔力を手の平へと集中させる。
「ああ…分かってる。
皆、俺の後ろに下がれ」
「あと二人はいつもどうり後方支援だ…いいな前は俺達に任せて決して前に出るな」
トロイが真面目なトーンで続けて聖女と魔法使いに支持を出す。
グギャアアアアアアア!!
それはまるで金属が強く擦れ合い響く音。
聖女と魔法使いはその咆哮に耐えきれず悲鳴を上げ耳を塞いだ。
木々が揺らめき暴風が吹き荒れ襲う。
砂埃が起こり視界が悪く目を庇うために腕を前に出す。
その隙間から見える目の前の光景にリオンは絶句した。
巨大な赤竜が自分達を見据え睨んでいる。
そしてリオンが目撃したのは赤竜が口から炎を漏らし、大きく口を開ける光景だった。
生きた心地がしないとはまさにこの事だろう。
リオンはすぐさま叫び自分の両手を前に突き出した。
「伏せろーーーー!!」
リオンは、そう叫ぶと壁を産まれ持ったスキルにより作成する。
がしかし壁の生成が出来たと一息つく間もなく同時に赤竜の口から放たれた豪炎がリオンの作った壁と衝突した。
ドォォオオオオオン!!
爆音と共に物凄い熱風が勇者一行を襲う。
リオンはさらに壁を何重にも重ねるが壁がその度、次々と壁が融解して行き生成が間に合いそうにない。
やがて壁は溶け崩れ崩壊しリオンの右半身に豪炎が当てられた。
「があああああああ!!」
耐え難い苦しみ痛み熱がリオンの右半身を襲う。
リオンはそれでもと意識をなんとか保ち後ろにいる仲間を守るため、円状の蓋を3人に被せる様にして作成する。
体半分が焼却され肉は炭となり焼け落ち骨すら残らず燃え尽きていく。
リオンは最後の気力を振り絞り死ぬ前に一撃でもと全魔力と自分のマジックボックスに入っている資源をほとんど使い果たし大きな建造物を作成した。
「はぁあああああああ!!」
東京スカイツリー。
それが高速で地面から斜めに伸び赤龍に向かい炎で溶けながらも突き進む。
そして…。
ついにはその先端がついには赤龍の胸に突き刺さった。
グラアアアアアアア!!
大地が揺れる程の重厚な悲鳴…。
赤龍は悶絶し暴れるがそれでも尚もリオンが創り出す電波塔は伸び続ける。
やがて赤龍の体を突き抜けその大きく強靭な肉体を串刺しにしてみせた。
電波塔の生成が終わった時。
赤龍はすでに動かなくなり、がくりと東京スカイツリーの先端よりぶら下がっている。
リオンは残った左目でそれを確認すると安心したのか遠く意識が薄れていくのを感じ目を閉じた……。
「リオンさん!!」
「ふざけんな、俺がお前をパーティーから追放すまで死ぬんじゃねぇぞ!!」
もう見えず意識も持ちそうにない…もし口が動くのならトロイをからかえるのに…。
でも…皆無事…でよかった…。
「なんだ!?
何か言いたいことでもあんのか!?
意識をもて目を開けろ!!
リオン!!!」
「どいてください!!
アドバンス・ヒーリング『癒えよ(上級)』」
…
…
…
何度も…何度も…聖女の言葉が聞こえそして遠くに遠ざかり薄れていく………