第八話 混乱の時
さぁ、シリアスorコメディ?
読者様の予想はどっちだ!(あ、それ以外の予想もありですが……)
それでは、どうぞ!
どうしよう、なんていう悩みは、ほぼ一瞬にして消え去った。
このままじゃあ、私だけじゃなくて、お父様やジーナも危ないっ。
その思いだけで、私は動く。
大きく開いた狼のアギト。それを素早く横に避けた私は、そのまま狼の頬に蹴りを繰り出す。
「ギャウンッ」
悲鳴をあげる狼。しかし、これは狩りだ。容赦なんてするつもりは欠片もない。
すぐに体勢を立て直した狼は、再び私に向かってくるものの、先程の様子で力加減はだいたい掴めた。だから……。
「ギャウッ」
その顎を拳で打ち抜き。
「グァッ」
軽く宙に浮いた狼の腹に掌打を見舞う。
っ、やり過ぎた?
ひとまず、動けなくなるまで、と思って打ち込んだ掌打は、予想外に上手く決まったらしく、三回ほどバウンドして沈黙した狼は、ピクリとも動かない。
「……リコ……」
「っ、ぁ……」
狼が動かなくなったことに動揺していると、ふいに、お父様から名前を呼ばれる。
『化け物め!』
『こんな子、私の子じゃないわっ!!』
前世の、今もなお濃厚に残るその記憶。化け物と呼ばれたきっかけは、野生のクマを、今日みたいに倒してしまったこと。それも、今よりもさらに低い年齢……三歳の頃の出来事だ。
あまり詳しくは覚えていないものの、きっと、家族でキャンプに行っていた時に、遭遇したのだ。
このままでは、家族が殺されてしまうかもしれない。そう、思ったがために、私は自分の持てる全ての力を使って、クマを殺したのだ。
ま、た……嫌われ、る……?
今の状況は、それにとても良く似ていた。
口の中が干上がり、全身が緊張で強張る。心臓の音が嫌に耳に響いて、それなのに、足は地面に根を張っているかのように全く動かない。
い、いや……。もう、一人ぼっちは……。
今すぐにでも逃げ出したい。今すぐにでも耳を塞ぎたい。
お父様の顔を怖くて見れない。
沈黙の時間があまりにも長く感じられる中、全身の震えが止まらない。
「旦那様! 死亡が確認できました!」
「そうかっ!」
あぁ、やっぱり、私、あの狼を……。
殺してしまった生き物。これで、あの時と同じ符号が増えた。これで、私はまたきっと……。
「すまなかった!!」
ギュッと目を閉じて、お父様からの言葉を待った私の耳に届いたのは、そんな謝罪の言葉。
「ぇ……?」
そっと目を開けば、土下座姿のお父様。
「えっ……?」
端的に言えば、私はかなり、混乱した。
……最後、土下座で締めておりますが……うーむ、これはやっぱり……?
それでは、また!