第七十話 おねだり
しん、と静まり返る室内。やはり、ダメなのだろうかと思っていると、ゆっくり、セインさんが口を開く。
「リコ、さん。俺は、あなたが俺の片翼だと、言いましたよ、ね?」
「は、い。……ダメ、ですか?」
そう問いかけると、セインさんは、『ぐっ』と呻いて胸を抑える。
「セインさん!?」
『リコが可愛過ぎて辛いっ、ですがっ、なぜこんなことを言ったのか、分かってる気がしませんっ』
セインさんは、小声で聞こえないように呟いているつもりだろうが、獣人である私の耳……いや、私だけではなく、すぐ側に居るジーナにも全て筒抜けなわけであって、『可愛い』と思ってもらえている事実に、どうしようもなく頬が火照る。それに……。
よ、呼び捨てっ! な、なんか、すごく、ドキドキするっ。
「リ、リコさんは、まだ、病み上がり、ですし……」
「大、丈夫です!」
私並みに言葉がたどたどしくなるセインさんは、そのまま蹲ってしまう。
『不味い、本当に、分かってる気がしませんっ。耐えられるでしょうか? 俺? いや、ここは、何としてでも耐えなければ! ……ですが……リコが可愛いんだよぉぉおっ!』
そう、全て聞こえてしまっている切実な言葉に、居たたまれない気持ちになりながらも、今、指摘してしまえば追い打ちになる気がして、何も言えなくなる。小声で叫ぶ、などという面白い芸当をしているセインさんだが、内容が内容で、突っ込めば私も自爆することになるだろう。だから代わりに、要望をしっかり伝えることにする。
「セイン、さんと、ゆっくり、お話、したいです。ミーナさんの、ところの、お店、また、行きません、か?」
『リコから、デートのお誘い!? いや、待て、俺っ。今、流されたら……』
「それとも、私と、一緒は、嫌、ですか?」
「喜んで行かせていただきます!!」
途中、これは押せばいける、とジーナからジェスチャーを受けて、やってみると、本当にセインさんは承諾してくれた。
ジーナ、凄いっ! ありがとう!!
「で、ですが、ご家族に承諾を取らなければ……」
「? お母様からは、行って、きても良い、と言われ、ました。お父様も、反対は、しない、そうです」
「そ、そうですか」
『これは、どう受け取るべきでしょうか? 応援? それとも、裏に何か……?』
セインさんはまだ思い悩んでいるようではあったが、ひとまず承諾は得られた。
「では、今から、行きま、しょう!」
「はい! ……え゛っ!?」
最後に何か聞こえた気はしたが、もう許可は降りているのだ。今更なし、なんて受け付けるつもりはない。なぜか、お父様から、セインさんは今日の予定は特にない、という情報もいただいているから、本当に問題はないはずなのだ。
そうして私は、セインさんとともに、再びあの喫茶店へと訪れた。




