第六十八話 セインと父親(セイン視点)
リコのために、できることは全てしたつもりです。たとえそれが、誰かにとって残酷なことであろうと、俺に後悔はありません。
「セインさんは、随分と残酷ですね。片翼を愛する魔族が、その片翼を運命の番だと求めている男に、間接的にでも言葉を与える訳がないのに」
ゼラフとの面会の帰りに、目の前に現れたのはリコの父君だ。
「ですが、彼女がそんな内容を口にしていたのは事実のようですよ? もちろん、その言葉は彼女を片翼としている男から聞いたものですが」
俺が、最後にゼラフへ告げた言葉。それは『良く知らない人だけど、私の目の前に、今後一切現れないでください。迷惑なので』というだけの内容だ。
もしかしたら、本来の言い回しはもっと柔らかなものだったかもしれない。しかし、ゼラフを遠ざけたい男の想いからすると、多少、言葉がキツくなるのもうなずけるというものだ。
「なるほど、それはまた、やはり随分と残酷ですね。知らなければ、まだ幸せな思考に浸っていられたかもしれないのに……。まぁ、誰もそんなことは望みませんがね」
そう嗤う父君の姿に、ゾワリとしたものを感じながらも、これはきっと、俺が知らない何かがあるのだろうと結論づける。その辺りは、早急に情報を集めるつもりだ。
「それで? セインさんは娘に告白したそうですが、これからどうなさるおつもりですか?」
それまでの表情から一転して、邪気のない笑みで聞かれた内容は、今の俺にとって、とても痛いものだ。
「……何としてでも、リコさんに振り向いてもらえるよう努力します」
「なるほど、まだ、娘から返事すらもらえていない、と」
「ぐっ……」
抉るような言葉をにこやかにかけてくる父君を前に、それでも、退くことはできない。
「必ず、リコさんを振り向かせてみせますので!」
「なるほどなるほど、娘はセインさんがそこまで言うほどに、うなずく可能性が低そうだと」
ニコニコ、ニコニコと痛い言葉をぶつけてくる父君。しかし、ここでようやく、俺はその奥に隠れている感情に気づく。
「…………リコさんは、必ず、幸せにします」
「……そうか。それでも、親としては心配なものだ。しかし、近衛騎士団の団長などという地位にまで登り詰めた君ならば、きっと、信頼できるのだろう」
「そこまでの情報をお持ちでしたか」
「娘を持つ父親としては、相手の男のことは知りたいと思うものだよ」
そこに隠れていたのは、リコへの心配と、俺にリコを取られることへの不安や嫉妬、そんな複雑な感情達だ。
「明日、また家に来なさい。リコにも、セインさんが来ることは伝えておこう」
「ありがとうございます」
そして翌日、俺は、再びバルトリア家へと訪れた。




