第五十三話 聞きたいこと
少しのアクシデントはあったものの、一緒に昼食を食べて、街をブラブラと歩いて……普通のデートを楽しんだ。そう、どうにか狂気を抑え込んで、楽しむことはできたのだ。ただし……。
「リコさん。今から、どうしても聞いておきたいことがあります」
深刻そうなセインさんの表情に、ヒヤリとする。
何か、セインさんの機嫌を損ねるようなことを……?
いや、聞きたいことって言ってるから、違う……?
楽しかった、良かった。で終われれば、次に会うときのアピールに繋げられる。そう、思っていたのに、もしかしたら、そんな悠長なことを言っている場合ではなかったのかもしれないと、恐怖に襲われる。
「……今日は、本当に楽しかったです。ですが、リコさんは……その、何かを怖がっていたり、しませんでしたか?」
どうしようかと頭を悩ませていると、そんな私にお構いなく……いや、この場合、そんな状態だからこそ、そう、質問してきた。
「怖が、る……」
「今だって、そうです。リコさん、何かがあるのであれば、教えてもらえることはできますか? 俺にできることなら、力になります」
それなら、私を、セインさんの片翼にしてほしい。
そんな思いが過るものの、それが不可能なことくらい分かっていた。運命の番を変えられないように、片翼だって、変えることはできない。
「…………」
セインさんがほしい。セインさんのものになりたい。それ以外の願いなんて何もなくて、セインさんの問いかけに、答えることができない。
「……すみません。不躾なことを聞きましたね。ですが、力になりたいというのは本当のことです。いつでも、話してくださいね」
一瞬だけ、悲しげに目を伏せたセインさん。その姿に、何もかもを話してしまいたい衝動に駆られるものの、必死にそれをやり過ごす。
「それで、その……次回、お会いする約束ですが、しばらく仕事が立て込んでいまして、また休める日程が確定したらお知らせをする、という形でもよろしいですか?」
「っ……は、い。忙しい、のに、すみま、せん」
何となく、また明日にでも会える気で居た私は、セインさんの言葉に少なからずショックを受ける。そして、狂気が、セインさんをこのまま閉じ込めようと暴れかけるのを、必死に抑え込む。
「いえ、こちらこそ、せっかくお誘いいただいているのに、すぐに決められなくて申し訳ない。明日にはある程度は分かると思いますので、その中で確実性が高く、一番直近で休める日を選びますね」
「は、い。私、は、いつでも、良い、です」
「ありがとうございます。では、また次の機会に」
具体的な話をしているのだから、きっと、セインさんは約束を守ってくれる。そう、思うのに、これが上手い断り文句だったとしたらどうしようと、不安ばかりが胸に広がる。
「あのっ!」
去りゆくその背中に、不安に満ちた私は、いつの間にか声をかけていた。




