第四十八話 怖くても
今日は、待ちに待ったセインさんとのお出かけの日。
あの日、家族に私の運命の番がセインさんであることを打ち明けてから、家族は私のことをとても気にかけてくれている。
獣人にとっては運命の番でも、魔族にとっての片翼ではない、という例は、やはりいくつも存在していたようで、その場合、獣人は自らの生殖機能を壊すことで本能を抑える者が大半らしい。
生殖機能の破壊は、薬を用いるか、魔法を用いるか、どちらかを選択すれば良い。ただし、薬の場合は副作用が強いそうで、単純に辛くないという意味では魔法の方が選ばれやすいのではないかと思えた。
「いって、きます」
「いってらっしゃい」
「っ、姉様っ……」
「レノ、これはリコの選択ですよ。さぁ、リコ、気をつけていってらっしゃい」
しかし、実際は、痛みと苦しみを伴う薬を選択する者が多い。
運命の番を知らないままにその話を聞いていたならば、不思議に思っただろうが、今ならば、その理由が分かる。
本当は、結ばれたくて、でも、それができなくて、苦しくて、辛くて……。少しでもその苦しみを紛らわせることができるならと、薬を選択する、んだろうなぁ。
私にもその選択肢の説明はされた。そうすることが救いになる獣人も確かに存在するのだから、お父様もお母様も、嫌だっただろうに、ちゃんと、説明してくれた。もっと詳しく聞きたければと、いくつかの施設の紹介まで、してもらった。
私は……まだ、どうすれば良いのか、分からない。
セインさんと結ばれることはないのだと分かっていても、感情はセインさんを求めてやまない。
もしかしたら、振り向いてくれるかもしれない。
もしかしたら、片翼ではなくとも、側に置いてくれるかもしれない。
お父様は、セインさんのことを調べてみると言ってくれた。もしも、セインさんが片翼をまだ見つけていない、もしくは、無翼と呼ばれる、片翼を持たない存在であれば、可能性はゼロではない、とのことだった。
まだ、可能性に縋っていたい。
ゼロではないのなら、もしかしたら、セインと共にある未来があるかもしれない。そこにセインさんからの熱がなくとも、それでも、セインさんならば優しく接してくれるに違いない。
何度も会えば、それだけ苦しむことにもなる。それを理解した上で、私はセインさんとのお出かけに向かうことにした。
少しでも、可愛いと思ってもらえるようにお洒落して、お化粧も、事情を知らないジーナに頼んで、精一杯、アピールするのだ。
……頑張るっ。
片翼が居れば、手酷く拒絶されるだろうと難色を示す家族に、それでも構わないと言ったのは私だ。調査を終えてからでも遅くはないと言われても、それにうなずかなかったのも私だ。
怖くても、きっと、全力でぶつからないと、その時が来ても諦められないから。
私は、心配そうにする大切な家族へ、笑顔を浮かべて見せて、待ち合わせ場所へと向かった。




