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第三話 頑張る理由

 目が覚めると、不思議なくらいに心が落ち着いていた。一人が怖くて、突き放されたくなくて、その恐怖心だけで泣き続けていたのが嘘のように、普通の赤子のような異常を感じた時だけの涙だけで済むようになった。


 そこからは、私はすくすくと成長を始めて……両親の名前が、ロンド・バルトリアとルミア・バルトリアだということ、二人を『旦那様』や『奥様』と呼んでいたのがジーナという名の侍女だということを知る。ついでに、父のロンドが豹の獣人で、母のルミアが猫の獣人であるということや、ジーナが犬の獣人であるという情報も入ってくる。



 大人の男性に、可愛い獣の耳……違和感が……。



 ちゃんと目がはっきりと見えるようになってから、そんなことを思いはしたものの、見慣れればどうということもなかった。


 我が家は、獣人の国、モビア獣国における貴族家であり、伯爵という地位だということも、成長するに従って知ることとなった。やたらと広い部屋だと思っていたら、そんな特権階級だったからだったらしい。ただし……。



「こんやくしゃ?」


「そうよ。獣人はあまり、政略結婚には向かないのだけど、どうしても、ね?」



 リコ・バルトリア、五歳。どうやら、特権階級の義務として、政略結婚があるらしいと、その日、初めて自覚した。

 チョコレート色のストレートの髪に、真っ黒な猫耳、猫耳と同じく真っ黒な瞳に、白い肌の、どこからどう見ても三毛猫カラーな美女は、信じられないことに私の母親で、今は、へニャリとその耳を横にしている。

 聞けば、相手の家からの申込みであり、格上の相手であるから、断るのも難しいのだそうだ。当然、我が家にもメリットはあるようだったが、両親ともに渋い顔だ。



「おかーさま、なにか、いやなこと、ある?」



 ずっとずっと、一人ぼっちだった私は、話すことがあまり得意ではない。

 言葉を覚えて話し始めるはずの時期に、私があんまりにも喋らないため、両親に再び心配され、医者を呼んだり魔法使い(?)を呼んだりと大変だったこともあり、今では頑張って喋るようにはしているが、それでも、流暢に喋ることはできなかった。



「……子供の頃は、大抵の獣人はそう、なんだけどね」



 そう言って教えてくれたのは、獣人には『運命の番』という存在が居るという話だった。そして、幼い頃からそれを聞かされる子供達は、運命の番に夢を見るという話だ。



「でも、わたし、しらない……」


「そうだな。普通の貴族は、ある程度自制ができる年になるまで、そうした話を子供にはしないものだからな」



 そんな話は知らないという言葉に答えるのはお父様だ。見慣れた黒髪に、見慣れない豹柄の黒い斑点のある耳、お母様ほどではなくとも、それなりに白い肌。少しばかり強面のお父様は、基本的に私を溺愛しているといっても過言ではないが、貴族としてしっかりとした人でもあると知っている。

 そのお父様の言葉に、私は首をかしげながら、ほんの少し、その意味に気づく。



 もしかして、貴族は政略結婚があるから、そういった話をしたら問題がある、とか……?



 具体的には、どんな問題があるのかは知らない。ただ、ここまで両親が渋い顔をしているということは、きっと、その相手の子供が『運命の番』の話を聞かされてて、それに夢を持っていて、ほぼ確実に問題が起きると思われているのだろう。



 でも……。



 お母様もお父様も、ジーナも、私にとても大きな愛情を注いでくれた。外で思いっきり遊ぶことにも付き合ってくれたし、私の力が獣人なら普通なのだと教えてもくれた。だから……。



「おとーさま、おかーさま、わたし、だいじょーぶ。……こんやく、がんばる」



 愛してくれた人達のためなら、頑張れる。

 苦り切った顔で、私の決断に渋々うなずいたお父様とお母様。

 そうして、一週間後、婚約者との初めての顔合わせが行われることとなった。

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