第二十三話 運命の前日
生誕祭が終われば、私はひたすらに剣へと打ち込んだ。
どうやら、ゼラフが話した内容はその日の内に両親と祖父母の方に伝わっていたらしく、何やらその背中に大量のドラゴンがひしめいている様子が見えた気もしたが……きっと、そこは追求してはいけない。
「な、なぁ、リコ? そっちに話は行ってるか?」
「……?」
ただ、最近の困り事は、ケインがどこかソワソワしていることで、時々よく分からない質問もしてくることだ。
今日も、鍛錬や私への挑戦者が引いた後、ケインが話しかけてきていた。今日はケインは挑戦者ではなかったため、普段なら帰っているはずなのに、最近は必ず、私の用事が終わるまで待っている状態だった。
「……そっか、知らないかぁ……」
私の反応で答えを導き出したケインは、その耳をシュンと垂らす。
そんな様子に、私は少しだけ、申し訳ないとは思うものの、上手く返事はできない。
「……ごめん」
「いや、良いって。俺が早まってるだけだから」
謝罪を口にしても、ケインは気にするなと笑う。
こういう時、普通なら誰かに相談するのだろうが、そもそも、誰に相談すべきなのか、どう相談すべきなのかが分からない。
「それより、明日は他国の客が来るとか話があったよな。ついでで、ここに特別講師として一日だけ来てくれる人も居るとか」
「ん。魔国。楽しみ」
「おうっ! そうだよなっ!」
この世界には、人間、魔族、獣人、竜人という四つの種族が国を作っている。そのうちの魔族が作った、魔族が治める国。それを魔国と呼ぶ。そして、それに当てはまる国は、現在三カ国存在する。
『ヴァイラン魔国』『リアン魔国』『ヘルジオン魔国』。それらの国々のうち、この度モビア王国にやってくるのは『ヴァイラン魔国』の使節団という話だった。
「魔国、戦闘能力、高い」
「おうっ!」
魔国といっても、三カ国はある。しかし、それでも、その三カ国は全て、高い戦闘能力を有していることで有名だ。だから、どの魔国からの特別講師でも、その人物は高い戦闘能力を持っているであろう期待がある。
「手合わせしてくれっかなぁ?」
「ん、頼む」
「そうだよなっ! 頼んでみたら、手合わせしてくれっかもしれないもんなっ!」
耳をピコピコさせるケインの喜びように、私も明日が楽しみになる。
この時、私は知らなかった。明日というその日が、私にとって運命の日になるなどということを。そして、苦しくて、甘くて、切なくて……そんな、様々な感情を経験することになるなんて、全く、考えもしなかった。




