第十八話 将来の夢
山の中での競争は、やっぱりダンお祖父様が勝った。それに悔しい思いはあれど、それ以上に安心感の方が勝る。
私、化け物じゃないっ。
それが実感できるだけで、とても楽しい。
「リコは速いなぁ。うむ、よぉしっ、ここは、ワシが戦い方を教えてやろうっ!」
「っ、ダンおじーさまの、たたかいかた?」
「そうだ! ワシはこれでも元々騎士団長だったからな! 今のうちから鍛えておけば、リコも騎士団に入るくらいわけないぞ!」
「きしだんっ!」
騎士団に関しては、前世の警察に近い存在だと考えてはいた。ただ、そんな正義の人に自分がなれるかもしれないなど、ダンお祖父様に言われるまで考えたこともなかった。
「ダン様?」
「マノン? 良いだろう? リコだって乗り気だっ!」
ニコニコ笑いながらダンお祖父様の名前を呼ぶマノンお祖母様。ただ、ダンお祖父様に言われて私の方へ向いた顔は、どこか心配そうにも見える。
「マノン、おばーさま? きしだん、だめ?」
初めて、こうありたいという希望が持てた。初めて、その憧れに手を伸ばしたいと思えた。初めて……それを、応援してもらえそうな状況に居る。
どうか、否定しないでほしい。そんな思いと同時に、やっぱりダメなのだろうなという思いも存在する。むしろ、後者の方が大きい。
「……怪我には気をつけて、ね?」
「っ、はいっ!」
否定、されなかった。
それが何よりも、私の心に染み渡る。
後々、モビア王国の騎士団は世界有数の戦闘能力を誇っており、騎士団に所属するというだけで、国の花形として見られるのだと知った。
完全な実力主義であり、一切の不正を認めないその組織は、男女関係なく在席可能だった。
「ジーナっ! わたし、きしだん!」
「はいっ! お嬢様ならば必ずや、立派な騎士になれますとも!」
当然、私達は、そんな職業を忌避する種族ではない。むしろ、諸手を挙げて歓迎する内容だ。
元騎士団長で、私に戦いを教えてくれるというダンお祖父様。心配そうにしながらも見守ってくれるマノンお祖母様。純粋に、私の目標を喜んでくれるジーナ。
前世の私では想像もできなかったほどの恵まれた世界。
私、騎士団に入って、皆を守れるようになろうっ。
それが、私の初めて抱いた将来の夢。ずっとずっと、思い描くことさえ思いつかなかったそれは、何だかとても、力強く思えた。




